今回のテーマは「GUI」だ。
俺たちの味方である安価な衣料量販店のことではない、と明らかに何も思い浮かばなかったとわかる前置きはやめて、意味を説明しよう。
説明書絶対読まないマンでもスマホが使える理由
GUIとは、コンピュータやソフトウェアが利用者に情報を提示したり操作を受け付けたりする方法(UI:ユーザインターフェース)の類型の一つで、情報の提示に画像や図形を多用し、基礎的な操作の大半を画面上の位置の指示により行うことができるような手法のこと。これに対し、情報の提示も操作も文字を中心に行う方式をCUI(Character User Interface)あるいはCLI(Command Line Interface)などと呼び、情報技術者が操作する前提のコンピュータ製品などで多く用いられる。 (IT用語辞典 e-Wordsより抜粋)
この時点で「わからせる気があるのか、わかるように説明しろ」とブチ切れている方がいるだろう、私もその一人だ。しかしこの「GUI」は、まさにこの「難しいことはわからないし、わかる気もない奴」ほどお世話になっているシステムである。
貴殿も、このページをPCかスマホ、幻覚などで見ているだろう、まずそのデスクトップかホーム画面、またはホーム画面の幻覚を見てほしい。多かれ少なかれアイコンが並んでいるはずだ。縦書きの筆文字しか表示されないという骨太な機器はそうそうないだろう。
そこから、インターネットブラウザのアイコンをクリックまたはタップするなどして今このページを見ていることだろう、幻覚で見る方法は各々やり方があると思うので割愛するが、一番簡単かつ合法なのは「寝ない」なので参考にされたし。
その時、どうやってネットブラウザのアイコンを選んだかというと「勘」とかではなく、アイコンの図柄から視覚的に判断しクリックしたはずだ、つまりそれが「GUI」だ。
そもそも、私のような説明書絶対読まないマンが曲がりなりにもPCやスマホを使えるのはこの「GUI」があるからである。説明をまったくされなくても、受話器の絵が描いてあるアイコンを押せば電話がかけられる、ということぐらいはわかるからだ。
逆に、電話のアイコンに見えるがそれはダミーで押すと爆発する、本物は説明書を読まないとわからない、という風にすればみんな説明書を読むと思う。つまり、最悪字が読めなくても何とかなるという画期的システムである。
しかし、アイコンをクリックして操作する、というのは、我々にとってあまりにも当たり前になりすぎた。よって、アイコンは、コウノトリが連れてきたり、木の股から生まれたりと自然発生しているもののようにすら思えるが、もちろん、人間がアイコンの画像を作り、また小難しいプログラムを組んでクリックしたら動くように作っているのだ。
「わかりやす過ぎる」ことの弊害
そして、GUIが生まれる前は、冒頭の説明に書いてある「命令文を入力して実行する方式(CUI)」が主流だったのである。昔のコンピューターは、「情報技術者が操作する前提」のものだったからだ。
私はこのCUI時代を知らないので具体的にどのような操作をするのかわからないが、命令文を入力すると言っても「ネットをたちあげろ」などと日本語入力してもダメだろうし「たちあげてください」と敬語で言ったとしてもシカトだろう。
おそらく、黒画面に英数字が羅列された、映画などでハッカーが「今頭がいいことしてまっせ」とアピるシーンに使われるような画面操作で行われていたのだと思う。
今でもそんなシステムで作られていたら、PCやスマホの普及率は9億%ぐらい下がると思う。「難しい話でも、漫画や図解で説明されたら何となくわかる」ように、視覚で操作できるというのは非常にわかりやすく便利なのだ。
ただし、人間には「システムが使いやすく便利になるほど、金を失いやすくなる」という特徴がある。クレカなどペイシステムが発達するほど借金を抱える人間が増えるのと同じだ。
少なくとも、ソシャゲを立ち上げてガチャを回すまでの過程がCUIだったら私はこんなにガチャを回してないし、回すところまでたどり着けない可能性が高い。「システムが難解だと、馬鹿がいらんことをする前に投げ出す」という利点はあるのだ。
また「わかりやすすぎる問題」もある。スマホで言うなら、電話なら受話器の絵のアイコン、メールなら手紙の絵のアイコンと一目でわかるようなアイコンデザインがされている。「ふ」と書かれた将棋のコマアイコンを押すと、美少女ゲームが起動されるということはあまりないはずだ。美少女ゲームのアイコンには大体美少女が描かれている。
つまり、イケメンが出てくるゲームが大好きな私のホーム画面は、イケメンのアイコンだらけになってしまっているのである。隠せばいいのだろうが、頻繁に起動するものなのでついついわかりやすい位置に置いてしまう。
よって、何かの事故で他人に画面を見られたら一目で「こういうのが好きな人」だということがわかってしまう。GUIのおかげで、自分の趣味までわかりやすくなってしまっているのである。
わかりやすいのは良い事だが、わかってもらいたくないこともある。たまには、将棋のコマがアイコンの乙女ゲーも作ってほしい。
<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。
「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年9月19日(火)掲載予定です。