今回のテーマは「ADAS(エーダス)」だ。

いつか訪れる完全自動運転時代を空想

近年、車の自動運転の話を盛んに聞くようになった。

もちろんウソである。

私は、テレビや新聞どころか、ニュースサイトすら見ないので、知識や情報はすべてツイッターのタイムラインから仕入れている。そこで見るのも、ソシャゲのメンテ延長などのビッグニュースばかりで、自動運転が話題にされているところなど一度も見たことがない。

だが、私と私がフォローしている人間が興味ゼロなだけで、自動運転は、メンテ延長で詫び石がいくつもらえるかより、世間的には大きな関心事のようである。

これだけ研究されているのだから、いつか自動車は完全自動運転が主流となり、車は乗るだけの時代がくるのかもしれない。乗るだけで目的地に着くという点では、電車などと代わりないかもしれないが、電車は自分の家まで行ってくれないし、公共の場でもある。

それに対して、自家用車の中はほぼパーソナルスペースだ。自動運転で会社に着くまでの間、化粧をしたり朝飯を食ったりしても咎められたりはしないだろうし、後部座席で真横になって寝ることもできる。電車内で全裸になったら逮捕だが、自家用車内ならギリで許してもらえるかもしれない。車内で全裸になることと自動運転は別に関係ないが、自動運転の方がゆったりと脱衣できる。ともかく、自動運転のおかげで、生活に少し余裕ができるのは確かだ。

それに、安全性の問題もある。これから日本は未曾有の高齢化社会を迎え、どう考えても運転する側のポンコツ率が上がって行くのだ。運転手の運転技術がうなぎ下がりなら、お車さんの方にがんばっていただくしかない。人間が運転するよりはるかに安全な自動運転システムが確立されれば、事故率は今よりも格段に下がるだろう。

だが、そこまで行くにはまだ時間がかかる。おそらく自分の乗る霊柩車が自動運転になっているかどうか、ぐらいだろう。

とにかく「ぶつからない」ためのシステム

そして、その自動運転の先駆けが「ADAS」(先進運転支援システム)である。簡単に言うと、運転するのは人間だが、車の方が事故らないように気を利かせてくれるシステムである。

画像認識カメラで周囲の車両、障害物、歩行者などを認識し、自動的にブレーキをかけたり、車間をとったり、また、運転者に警告をしてくれたりするようだ。たまにニュースになる、ブレーキとアクセルの踏み間違えによる事故も、「ADAS」の搭載がもっと広がれば、ほぼなくなるのではないだろうか。

私は、運転手がポンコツだとそのまんままポンコツ走行してくれる、エヴァやガンダムよりもシンクロ率抜群な最安値の軽自動車に乗っている。だが、夫の車は、金額的に私と揉めに揉めただけあって、車線に寄り過ぎると警報が鳴るようになっている。おそらくこれも「ADAS」の一種だろう。

ただ、警報を鳴らすだけだとそれにビビって事故る恐れがあるし、標識が画面に表示されるシステムもそれに気を取られて事故るかもしれないので、あまり「運転手に期待」するようなシステムを作っても無意味どころか、逆効果な場合もあると思う。本当に事故を起こしたくなかったら、どれだけ車が勝手になんとかしてくれるかが重要だ。

このように「ADAS」はとにかく「ぶつからない」ためのシステムである。確かに、車というのはそれが一番大切だ。ぶつかりさえしなければ、最悪目的地にさえ着かなくていい。逆に、目的地には着いたが100人轢いたという方が一大事だ。

車の事故というのは、被害者にしろ加害者にしろ大変なことであり、怪我がなかったとしても、面倒なことになるのは確かだ。だが、ぶつかりさえしなければ、そういうことにはならない。

しかし、車に乗る以上、事故の可能性はある。私などは毎日1時間ぐらい車を運転するので、毎日「人生が悪い方向に変わるかもしれない1時間」を過ごしているということになる。もちろん、車を運転している時以外でも、私の人生は刻一刻と悪い方向に行っているが、「他人を巻き込んで悪い方向に行く」可能性は、車を運転しているときが一番高い。

今まで私は、車は走りさえすれば素材はベニヤ板でも良いと思っており、それ以外に金をかけることが理解できなかったが、安全性になら金を出す価値はあると思う。

だが、自動ブレーキのおかげで自分が追突することは避けられたが、逆に追突されたという例もあるようだ。「ADAS」で防げる事故もあるだろうが、「ADAS」のせいで起こる事故もゼロではないだろう。つまり、事故はやはりゼロにはならない。

事故発生率をゼロにするにはどうしたら良いか。車に乗らない、ぐらいでは生ぬるい。部屋から出ない、ぐらいの徹底が必要だろう。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年7月31日(火)掲載予定です。