今回のテーマは「e-文書法」だ。

それに際し、担当の態度が「まあ、これはカレー沢さんの方がお詳しいとは思いますけど?釈迦に説法ですよね?」と大変舐めていたので、とりあえず東に向かってギャリック砲を撃った。今頃担当に当たっているはずである。

もし「俺に当たったよ」という人がいたら申し訳ないが、人生と言うのは流れ弾に被弾することの連続なのだ。

ちなみに私が詳しいはずの「e-文書法」だが、当然知らない。

電子化の時代に手書きなど、北京原人かゴリラのやること

e-文書法は、正式名称が「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」。簡単に言うと、今まで紙で数年保存することが義務付けられていた領収書や契約書、請求書などの書類を、電子データで保存しても良いとした法である。

電子データというのは、エクセルで作った書類ならそのままエクセルのデータを保存しておけば良いし、すでに紙で発行されているものでも、スキャンしてそのデータを保存しておけば良いというわけである。会社には、時間短縮、コスト削減、場所も取らない、というさまざまなメリットがある。

担当が「そっちの方が詳しい(笑)」という遺言を残したのは、私は会社では事務職をやっているからだろう。確かに事務員にとっては、大いに関係ある話だ。

確かに、漫画や雑誌など本を筆頭に、何でも電子化するペーパレスの時代だ。未だに領収書や請求書を紙で保存するなど時代錯誤も甚だしい。手書きなど北京原人かゴリラのやることだ。

しかし、正直に言おう。弊社では未だに紙がのさばるっているし、伝票や出納帳など手書きである。弊社が特に旧石器時代なのかもしれないが、おそらく田舎の中小企業はまだこういうところが多いと思う。

そして、手書きで出納帳や伝票を書いているのは、ゴリラ以下の字を書くことに定評があるこの私だ。私は字が汚く、誤字も多い。作家業ならまだネタにならないこともないが、事務職にとっては百害あって一利ない。すでに「損害」という規模で私の悪筆が周囲に迷惑をかけている。

就活の時期になると、よく「手書きでない履歴書は、是か否か」という論争が起こるが、私の場合は手書きの履歴書を出した方が印象は悪くなるだろう。未だに「ツ」と「シ」の書き分けができない中年を事務員として採用したいだろうか。

幸い、私は資格などの書く事が非常に少ないため、カタカナを履歴書に書く機会はない。自分の氏名が「カレー沢マンソン」や「ミシシッピー薫」とかでなくて本当に良かった。

斬新な書類管理法

ともかく、北京原人に字を書かせている弊社である。当然、書類もほとんど紙ベースだ。もちろん、紙は場所を取る。さらに弊社は先ごろ移転を行い、その引越し作業が終わっていないというか「途中で諦めた」としか言いようがない状態なので、物を置くスペースが圧倒的に足りてない。

置くスペースが足りない、ならば電子化だ、というのが人間様の発想なのかもしれないが、弊社は一味違う。

「床に置く」のである。もう一度言う、書類を床に置くのである。

床に物を置くとどうなるか、蹴ってしまうのだ。人ならば、それを蹴らない場所に移動させるだろう。しかし、それは凡百の人間のすることだ。弊社では「蹴る前の場所に戻す」のである。整理整頓の基礎「もとあった場所に戻そう」を頑なに守っているのだ。

よって、書類がネバーエンドに蹴られ続けている上に、たまに転倒者すら出るのだが、それでもその書類はそこにある。そして、それが何の書類なのか、多分誰も知らない。もう、作業効率以前に風水的に悪い感じがする。

「電子化」=「整理整頓」か?

弊社が旧石器時代だからかもしれないが、書類を紙で保存しまくって、どこに何があるのか誰も知らない、というような状態になっている会社は他にもままあるのではないだろうか。そういう会社こそ、早急に書類を電子化すべきだろう。

しかし、「電子化すれば整理ができる」かというと、それはまた別問題なのだ。私も事務の方は紙による部分が多いが、作家業の方は完全データ化のペーパレスで運用しているのである。では、私の部屋が片付いているかというと、そんなことはない。当然床に物が置いてあるし、むしろ床が見えない。

「チンパンジーに道具を与えるとどうなるか」という実験はよく見るが、それと同じように「片づけができない人間」に物を与えると、まず食べられるものなら口に入れる。食べられるか食べられないかわからないものも口に入れる。そして食べられないものはとりあえず、置くのだ。そしてその上に、また食べられないものを置き、どんどん積み重なっていくのである。

それはデータでも同じだ。きちんとナンバリングせずにどんどん保存するため、何がどのデータか全然わからない。それならまだマシだが、上書き保存している場合もある。そうなると、前のデータは消失する。

弊コラムも100回を超えているのだが、ひとつとしてそのデータの在り処はわからない。「マイナビ001」というように保存すればいいのだろうが、毎回その時思い浮かんだ適当なタイトルで保存するから、どれが弊コラムの原稿なのかわからないのだ。

このコラムのデータは、「ギャリック砲」という名前にして出そうと思う。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年4月18日(火)掲載予定です。