今回のテーマは「CGM」だ。

つまり「キャット グレイト マーダー」、翻訳すると「おキャット様は凄腕の殺し屋」。存在が可愛すぎて、いるだけで人がゴミのように死ぬ、という意味だ。

このように「C」が頭文字に来るだけで、異論を挟む余地なく正しい言葉が生まれるのだが、世の中の方がおかしいため「CGM」にも別の間違った意味がある。

CGM(Consumer Generated Media):インターネットなどを活用して消費者が内容を生成していくメディア。個人の情報発信をデータベース化、メディア化したWebサイトのこと。商品・サービスに関する情報を交換するものから、単に日常の出来事をつづったものまでさまざまなものがあり、クチコミサイト、Q&Aコミュニティ、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)、ブログ、COI(Community Of Interest)サイトなどがこれにあたる。(IT用語辞典 e-Wordsより抜粋)

つまり、Twitter、食べログ、ヤフー知恵袋などがこれにあたる。しかし、上記のツールや発言小町のことを「CGM」とか言う奴がいたら相当しゃらくさい。年収が1兆ぐらいないと、影で指差されて笑われているタイプだ。

このようにネットには情報や口コミが溢れているため、何かを購入するとき、すでに購入した他人の意見を元に、買うべきかどうか判断することができる。全く下調べをすることなく買う、ということは少なくなっただろう。

そんな中、私は全く下調べせずに携帯ショップで新しいスマホを即決で購入したため、これだけソシャゲに命と金をかけているにも関わらず、ソシャゲを起動するとマジで発火五秒前というぐらい発熱してしまうという、明らかにソシャゲ向きでない機種を購入してしまった。その結果、ネットで「スマホの発熱を抑えるツールを調べる」という、30周ぐらい遠回りしたCGMの使い方を披露することとなった。

このように、何かを買うときは下調べするにこしたことはない。全くのノーヒントで買って良いのは私の著作だけだ。

「個人の感想」が自分に合うとは限らない

しかし、そういった情報を鵜呑みにするのもよくない。CGMに投稿されているレビューなどはあくまで「※個人の感想です」だからだ。

電化製品など実用品の感想なら、「使えない」という意見でも、自分に必要かどうかの判断に使えることもある。例として、炊飯器のレビューで「ゴミを吸うばかりで全然米を炊かない。あと動き回って落ち着きがなさすぎる」という理由で☆1がついている場合、おそらく投稿者は間違えてルンバなどを購入しているのだろうが、米は炊かなくて良いからゴミを吸って落ち着きがない炊飯器が欲しい、という場合は参考になるだろう。

しかし、食べ物や、漫画や映画などのエンタメにまつわる感想というのは、非常に大きな個人差があり、他人の感想はまったく使い物にならないケースもある。例えば、「クソだった」の一言で☆1がついている漫画を買わないのは、あまりにも早計である。

例えば、口コミの投稿者が「クソだ」と感じた理由は、地味な眼鏡っ子ヒロインが、最終回で眼鏡をはずし垢抜けた美少女になってしまったからかもしれない。こうなると、作品の出来不出来ではなく、読み手の性癖の問題である。投稿者としても、己が愛した眼鏡っ子ヒロインが最後の最後でクソビッチ(※個人の感想です)になってしまった、深い悲しみを事細かに説明したかったのかもしれない。しかしあまりにも悲しみが深すぎて「クソ」の一言しか出てこなかったか、そもそも文字数が足りなかったのかもしれない。とはいえ、そうした事情はレビューを見た者にうかがい知れぬことなので、ただ「クソなのか」と思うだけだ。

しかし、レビューを見た者は「地味っ子が美少女に変身する展開」が大好物かもしれないのだ。そうなると、「クソだ」という情報を鵜呑みした結果、自分の趣味にマッチングする作品との出会いを逃したことになる。よって、一つのレビューを妄信するのではなく、様々な意見を見る必要があるのだが、見すぎると逆に何が正しいのかわからなくなる。つまり、最終的には自分で確かめるしかないのである。

作り手を悩ませる「☆」

しかし、買い手が自分で確かめるにも限度があり、それでCGMが重宝されているのも確かだ。だから、作り手にとって、こういうCGMでの評価は恐ろしいものである。レビューで☆1を一つつけられたせいで、貴重な顧客を逃すはめになりかねないからだ。

だが、低評価もあまりに数が多いと、高評価に匹敵しだすので侮れないものがある。人には、「ただのクソなら見に行かないが、フルメタルジャケットで言うところの、聳(そび)え立つクソ級になると、わざわざ見に行ってしまう」という習性があり。クソをわざわざ見に行って「本当にクソだった」と大喜びでSNSに書き込んだりするため、さらに広がっていくのだ。こうなると、そこそこの評価のものより知名度が高くなる。

また、数が多くなくても☆1がついていると、何となく気になって見たりしてしまうものだ。作り手としては☆2が2つくらいついてるという状態の方が地味に痛く、一番最悪なのはレビューが一つもない時だ。わざわざ感想を伝えるほどでもないか、そもそも誰も買ってないということだからである。

そもそも、CGMで得られる情報は雑多であり、「買ってないけどクソ」という書き込みすら存在するため、信憑性に欠けることも多い。参考にするのは良いが、他の手段でも情報を仕入れ、最終的な判断は自分でした方がよいだろう。

私も、本屋で自分好みの男女が表紙にいる小説をジャケ買いしたら、実は両方とも男のBL本だったということがあったので、買う前に最低限の基本的情報、表紙にいる人間の性別ぐらいは調べたほうがいらぬ事故を防げたに違いないし、この場合はCGMを先に見ていれば、「男女カプ物だと思ったのにBLだった」という先達の金言に出会えた可能性すらある。

やはり、何かを買うときは下調べするにこしたことはない。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年4月11日(火)掲載予定です。