今回のテーマは「チャットボット」だ。
ボットとは「bot」のことであり、こう書くとTwitterをやっている人間なら親しみ深いだろうし、フォロワーが全部botというプロフェッショナルもいるだろう。
逆に言うとbotさんのおかげで我々はフォロー&フォロワーゼロを免れているといえる。そんな俺たちの救世主(メシア)たる「bot」とはそもそも何か。
bot:Twitter の機能を使って作られた、機械による自動発言システム。語源はロボットから来ている。特定の時間に自動ツイートする bot、ユーザーの bot 宛の発言にリプライする bot、特定のキーワードに反応する bot 等、様々な bot が存在する。(ツイナビ ツイッター用語集より)
TLでよく見かける、漫画のキャラクターのbotが定期的にあらかじめ登録された作中の台詞をつぶやいていたり、こちらがつぶやいた特定のワードに反応してリプライを返したりしてくるアレだ。
私の漫画のキャラクターのbotもいくつかある。名誉のために言うが自作ではない。特に、「フルメタル鳩山bot」と言うのが2つある上に両方「ブス」という言葉に反応するため、ブスとつぶやいたら、毎回きっちり二人がかりで「メガネの人格が変わるほどの地獄だぜー!」などと絡んでくるというリアル地獄絵図なので、気になる方はフォローして即ブロックすればよいと思う。
また、キャラだけではなく「カレー沢薫bot」というものもある、私がTwitterなどでつぶやいた不用意な発言が、半永久的に発信され続けるという生き恥botなのだが、何せ自分で作ってないので、削除権がない。私如きでこの有り様なのだから、中高生の時ノートに描いた落書きという、見つけたら即家ごと燃やすであろう危険物を博物館で展示されてしまう太宰治などは大変である。
ちなみに、私は私関連のbotを全くフォローしていない、無益だからだ。例外としてデビュー作「クレムリン」の関羽というキャラが「○○だニャ…焦りと苛立ちだニャ」とつぶやき続ける「焦りと苛立ち関羽bot」だけはフォローしている。無益を極めすぎて逆に有益な気がしたためである。
チャットボットと会話の有用性
このように、botというのは、好きなキャラがつぶやいたりリプしたりしてくれる、嬉しいな、ぐらいのもので、基本無益なものである。チャットボットはそんなbotの有益性を高めたものだ。botとの会話を通じてユーザーが必要としている情報が得られるというもので、検索機能の役割も果たすという。前回話したメッセンジャーとbotが混ざり合ったようなサービスだ。(参考:「O2O×FinTech の最新動向」第4回)。
有益と言っても、嫁キャラのbotに延々話しかけ続けていたら「お前に必要なのはリアルの話し相手だ」と突然マジレスしてくるというわけではないし、何を探しているかぐらいはこちらで明確にしなければならない。「自分を探している」などと漠然なことを言っても、「そんなものはない」と返されるだけだ。
つまり、「服が欲しいが、どんな服を選んだらいいかわからない」という場合は、服の通販サイトのチャットボットと会話をして、その会話からこちらの求めている服を割り出し、その通販ページまで案内してもらうという具合だ。
そこまで会話がしたいか、普通の検索でいいではないかとも思うが、求めている答えにたどり着くには会話が一番早いという意見は否定しにくい。
リアル服屋でだって、店員と会話さえできれば、一番早く、求めているものにたどり着けるのだ。それができないどころか「店員が話しかけてくる店」を積極的に避けるため、ひとりで店内を延々うろうろした挙げ句、上下ビビッドなオレンジのセットアップという、アメリカの囚人のようなチョイスをしてしまうのだ。
会社でだってそうだ。なんでもネットで調べられると言っても、ネットでわかるのは一般論であり、「会社のやり方」とは違う。つまり、会社のことは会社の人間に聞くのが一番早い上に正確だ。だが、会社の人間に質問すると「怒られる」というリスクが発生するし、「この前も教えたよね?」などと言われたら一大事だ。
よって、聞かずにやるか、ネット知識でことを進めてさらに怒られるのである。その点チャットボットならこちらの発言にぶち切れてくることはないだろうから、安心だ。しかし人間の性癖は複雑なので、その内「イケメンドSチャットボット」とか「美少女が罵倒してくるチャットボット」などが生まれてくることも予想される。
すでに、行きたい場所を言うと時刻表を教えてくれるLINEのチャットボットがあるというので登録し、早速「ドバイ」と書き込んだ。それがどこにあるのかは知らないが、ドバイにさえ着けば勝ちのような気がしたからだ。
すると、チャットボットは「そのような駅はありません」と返してきた。
そう言われてみると、日本に「ドバイ駅」はないような気がする。これはこちらの過失だ。そこでグッとレベルを落として、私の実家の最寄りの駅を入力した。すると、チャットボットは「候補が複数あります」と言い、都心の駅を羅列しはじめた。もちろんその中に、おらが村の駅はない。
地方は最新システムから無視されるという、初歩的なことを忘れていた。田舎ものは田舎ものらしく、ドバイへは徒歩か牛に乗って行こう。
<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。
「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年3月28日(火)掲載予定です。