今回のテーマは「CAD」だ
つまり「CAT AND DEAD」、直訳したら「おキャット様を肉眼で見ると可愛さのあまり網膜が焼けて死ぬ」だ。
かつてなく美しくキマった言葉が生まれたので、最後までこの話をしたいのだが、大変遺憾なことに私は「CAD」の意味を知っている。慚愧に堪えない。
カレー沢薫とCADの意外な関係
CAD:工業製品や建築物などの設計や製図をコンピュータを用いて行うこと。また、そのためのソフトウェアや情報システム。(IT用語辞典 e-Wordsより)
我々の周りにある立体人工物の多くは、設計図を元に作られている。勘とノリ、行き当たりばったりで作られているのは人間ぐらいだ。その設計図をコンピュータを使って作ること、またはそれに使うソフトのことを「CAD」と呼ぶ。
私がなぜ「CAD」を知っていたかと言うと、話せば少々長くなる。デザイン専門学校を卒業し、新卒で入った会社をデザインに指一本触れることなく退職した私は、8カ月しか在籍しなかったのに、バッチリ失業保険で暮らしていた。
失業保険がもらえる期間もわずかとなった頃、社会に出るのを1秒でも遅らせたかった私は、「職業訓練校」に通うという方法で「失業保険おかわり」を試みたのであった。
これを書いているのは2月中旬。この時期になると、「確定申告」という言葉を聞いただけで「イータックソ!」という断末魔と共に爆散する私だが、過去の自分を鑑みるに、「俺たちが国から徴収されている金が有効に使われていない!」などとは口が裂けてもいえない。
確かに税金などが無駄遣いされている場面は多々あるが、あの時、私という名のドブに国の金が捨てられたことによって、今ちゃんと税金を納めている私があるのだから、一概に全部が無駄とは言えない。何だったら、もう一回捨てにきてくれないかとすら思う。未だに当方、側溝顔である。
自分のヘドロ顔は置いといて、要するにその職業訓練学校で選んだのが「CADコース」だったのだ。他には、WordやExcelを習う講座もあった。では、それらの一般的なソフトではなくなぜCADの方を選んだかというと、この期に及んで「なんかクリエイティブそう」と思ったからである。
そこでは実際にCADのソフトを使って製図をしたのだが、あくまで製図するだけで、設計をやったわけではない。データ入力のバイトみたいなもので、「それが何のスイッチか知らないが、とりあえず言われた通り、点けたり消したりしてる人」と同じである。設計をやるにはもっと専門的な知識が必要だったのだろう。
ちなみに当時私が使ったソフトは「JW_CAD」と「AUTO CAD」と言うものだった。当時、JWはタダで使えるがAUTOの方は馬鹿高い、という説明を受けた。それは現在でも同じようで、CADのソフトも色々種類があり、無料のものもあれば馬鹿高いものもあるようだ。
無料で使えるならみんな無料のソフトを使うのでは、と思うのだが、そこには何か差があるのだろう。高いほうはソフトが黄金で出来ているのかもしれない。
3D CADの進化と推しフィギュア
それはもう15年近く前のことで、CADソフトはそこから進化している。また、私が使ったソフトは2Dだったが、今は3D CADが主流のようだ。
従来の2D CADの図面だと、そこから素人が完成形を想像するのは難しかった。 しかし3Dになったことにより、平素2次元キャラばかり見ている、奥行きのない世界の住人である私でも、その図面からどういった立体物ができるか容易にわかるようになったのだ。
また、3D CADで製図したものを3Dプリンタから出力すれば、画面上だけではなく、実際の完成形を見ることもでき、ほぼ2Dの図面がいらなくなったという。
つまり、そこまで知識がなくても、5000人が住む高層マンションの設計は無理としても、趣味として立体物を作れるようになってきているそうだ。
これを書いているのがちょうどワンフェスの開催直前なので、TwitterのTL上で個人が趣味で作ったフィギュアなどを目にすることが多い。どれも完成度が高いが、それに触発されて「推しキャラの超カッコいいポーズフィギュアを作ろう」と思っても、そうすぐには作れない。おそらく、丑三つ時に神社で発見されるアレみたいな出来になるだろう。
これから先もっとCADソフトと3Dプリンタが進化したら、全く何の図面、技術もなしで、脳内で想像したとおりの推しフィギュアが製作できる日が来るかもしれない。しかし、それをワンフェスとかに出したら、法を犯して逮捕される恐れがある。「脳内で想像したとおりのものが出来る」というのは、そういうことだ。
最後に、読者の皆さんにおいては今から誰かに角材などで殴ってもらうなどして、上記の「CAD」の意味を全部忘れて欲しい。その後で、下記の一文を読もう。
「CAD」とは「CAT AND DEAD」という意味だ。
<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。
「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年3月7日(火)掲載予定です。