活発化する電気自動車への取り組み

電気自動車が急速に加速しそうな勢いになってきた。米国オバマ大統領は環境産業を起し、そこに膨大な雇用を生み出し、将来のエネルギーを創出する一大産業を"グリーンニューディール政策"と呼び、不況脱出の切り札として提案している。この1年に150億ドルを環境事業に組む。ハイブリッドカーを含む電気自動車に関しては総額24億ドルをエネルギー省の予算に組み込んでいる。このうちクルマ開発につぎ込む20億ドルのうち、15億ドルをバッテリと関連部品の開発に、5億ドルをモーターとその関連部品の開発に費やし、4億ドルに関しては、税金還付に組み込んでいる。すなわちプラグインハイブロリッドカーなどを購入すると最大7,500ドルの税金を還付されるというもの。

電気自動車は米ベンチャー企業の「Tesla Motors」などが電気で走るスポーツカーを2009年中の販売開始、日本でも10年には開始したい、と述べている。ノートパソコン用のリチウムイオン電池を数千個も搭載したという。米国ワシントン州にある電気自動車メーカーの「Commuter Cars」は2人乗りの電気自動車「Tango」を売り出した。

Teslaの提供するスポーツカー「Tesla Roadster」(出所:Tesla Motors Webサイト)

Commuter Carsの電気自動車「Tango」(出所:Commuter Cars Webサイト)

日本でも三菱自動車は、「i MiEV」を2009年中に米国のオレゴン州で自動車の走行実験を始めると発表した。富士重工業(スバル)は4月14日に、2009年夏の市場導入を予定している電気自動車「スバル プラグイン ステラ」のプロトタイプを開発、環境省に15台を提供することを明らかにした。またイタリアの電気自動車「ジラソーレ」も日本国内でリチウムイオン電池に積み替え、公道を走れるクルマとして認定、オートイーブィジャパンから提供されすでに走っている。

三菱自動車の「i MiEV」(出所:三菱自動車Webサイト)

富士重工業の新しい電気自動車「スバル プラグイン ステラ」(出所:富士重工業Webサイト)

2009年1月28日~30日にかけて行われた「第1回 "国際" カーエレクトロニクス技術展(カーエレJAPAN)」で展示されていた電気自動車(左上:イタリアから輸入し、鉛蓄電池をリチウムイオン電池に交換し、政府の認可を得たオートイーブィジャパンの「ジラソーレ」、右上:ゼロスポーツの「ゼロEV エレクシードRS」、左下:タケオカ自動車工芸の「T10」、右下:トヨタ車体の「COMS」)

電気自動車のメリット

電気自動車はなんといっても二酸化炭素を出さないという環境面で大きなメリットを持つ。内燃エンジンを使わないため、排気ガスを出さない。もちろん、それ自体は二酸化炭素ガスも出さない。燃料電池でさえ、出すのは水だけとなる。これからは二酸化炭素を出さない社会が世界的にも求められるようになる。

内燃エンジンに代わって動力源となるのは電池とモーターだ。電気自動車、燃料電池車いずれも電池を電源とするモーターで走る。電気を溜め、電気を消費する充電可能な電池がこれからの電気自動車のカギを握る。水素と酸素を結合させることで電流を発生させる燃料電池は、初期トルクが小さく、始動にはリチウムイオンやニッケル水素などの充電池を併用しなくてはならない。

今、充電池の中で最もエネルギー密度が高いのはリチウムイオン電池である。ニッケル水素電池の2.5倍、鉛蓄電池の7倍も高い。このため多くの電流を長時間流すことができる。現在のハイブリッドカーにはニッケル水素電池が使われているが、これをリチウムイオン電池に換えると、体積・重量とも半分以下になる。小型軽量になる。

ただし、金属リチウムは空気中で発火しやすいという性質があり、外部へ漏れた時の危険性が指摘されている。事実、ノートパソコンを使っている時に発火事故が起きたという話は有名だ。このままでは、自動車には安心して使えない。ノートパソコンとは違い、自動車には数十アンペアという大電流を流し、48Vあるいは100Vを超える電圧をかけるため、電池の高温化による発火は決して許されない。発火を防ぐ技術開発が進行している。

リチウムイオン電池1個の電圧は最大4.1V、ニッケル水素電池は1.2Vしかない。しかしモーターを駆動する電気自動車では電圧をできるだけ1200Vくらいまで上げたい。なぜか。配線を必要以上に太くしないためだ。電圧1200V、電流100Aを使うとその電力は12万Wになる。12万Wの電力で自動車を動かす。もし4Vで12万Wを発生させるとすると3万Aもの電流を消費することになる。この電流を流すために必要な銅線の太さは単純に150倍もの断面積が必要になる。銅線を細くするために電圧を上げるのである。これは送電線に数万Vもの電圧をかけるのと同じ原理だ。何万軒もの住宅に供給する電力は果てしなく大きいため、それを送るための銅線はできるだけ細くしたい。だから高電圧にする。

電気自動車のエネルギーは電池ではあるが、それだけでは走らない。強力なモーターとそれを駆動するための3相駆動回路が必要だ。モーターを常に安定に1回転(360°)させるためには、1回転を1/3ずつに分けて120°ずつ回転させる方法が一般的である。いわゆる3相交流モーターと呼ばれる方式だ。そのように分割しなければどうなるだろう。回した時にもしちょうど半分の180°で止まったとすると次の回転では右にも左にも行けず止まってしまうことがありうる。これを防ぐため、120°の位置で止まるようにしておけばそのような不安定な状態にはならない。これが3相駆動の基本的な考え方である。

では、これを駆動するための回路は120°だけ回転させて止め、その次の駆動回路に手渡すように順次0°→120°→240°→360°で1回転となるわけだが、回転を動かしたり止めたりするのにパワー半導体トランジスタを使う。トランジスタのような半導体デバイスなら、ゲートに5V程度の小さな電圧を入力するだけで100Aという大電流を流すことができる。つまりスイッチとして使う。こういったモーター駆動には、耐圧600V、電流100Aを駆動できるような大電流、高電圧のトランジスタが必要になる。

次回は、このパワートランジスタについて議論したいと思う。