自動運転車は今や、流行り言葉のようにテレビや新聞など一般メディアが取り上げるほど人々に認められるようになってきた。その象徴がやはり、「東京モーターショー2015」であった。同モーターショーでは自動運転のコンセプトカーを日産自動車が発表したのに加え、トヨタ自動車、本田技研工業、三菱自動車などがエレクトロニクス化をますます強めていく方向がはっきりした。これによって、事故を起こしにくいクルマ作りはますます進む。

日産は、自動運転車のコンセプトカー「IDS」を出品した(図1)。4人乗りの電気自動車(EV)である。運転席では、飛行機のコックピットの操縦桿のような形のステアリングを装備しているが、操作する場合には操縦桿を握り、自動運転モードになると、操縦桿とモニターは正面のダッシュボードに収めることができる。

図1 日産自動車の自動運転コンセプトカー

一方トヨタは燃料電池方式のプリウス自動運転車のコンセプトカーを展示した(図2)。ただ、燃料電池車は、電気を貯めることができないため、回生ブレーキと加速時にリチウムイオン電池を必要とする。このため、どのみち電池開発は欠かせない。トヨタは、現実的な新型のプリウスSUVに加え、癒し目的のロボットも展示しており、クルマ分野からの発展形態についても示した。

図2 トヨタの燃料電池のプリウスコンセプトカー

ハイブリッドカーも、水素を燃料とする燃料電池車も、EVも電気モータで走るため、当然エレクトロニクスと半導体デバイスを多用する。ガソリンエンジン車でさえも点火に最適なタイミングを計算するためのECUを搭載しているが、電気を動力とする場合には、モータを回転させ、しかもその回転数を自由自在に制御するためのインバータ回路が必要となる。モータを120度ずつ回転させるための三相方式は、120度ごとに駆動するスイッチングトランジスタが必要とされ、そのパワートランジスタを駆動するためのドライバやマイコンも求められる。パワー半導体を使うため必然的にチップ面積は増大し、シリコンの使用量は格段に上がる。

軽乗用車相当の電気自動車「i-MiEV」をいち早く世に送りだしていた三菱自動車工業は、電気自動車のSUVをリリースした(図3)。1回の充電で400km走行できる。このためにリチウムイオンバッテリの電池容量を45kWhと日産の「リーフ」の約2倍に増やした。SUVとして4WDに相当させるため、前後に2台のモータを設置。1個のモータで2輪を駆動する。これまでの電気自動車と同様、家庭に電力を供給することもできる。その場合、家庭に供給可能な最大電力は1500Wとなる。

図3 三菱自動車の電気SUV車

ホンダも電気自動車だが、もっと小型の個人モビリティという範疇のモデル「Wander Stand」を展示していた(図4)。これは4つの車輪ごとにモータを組み込んだインホイールモータ方式のクルマである。このため縦列駐車が容易にできるだけではなく、完全真横に向かって走ることもできる。Standという名称は、半分立ったまま、半分座ったままで運転するというところからきている。

図4 ホンダのインホイールモータ方式のパーソナルモビリティ

半導体の市場調査会社である米IC Insightsは、2014~2019年にかけて、半導体が最も成長する分野はカーエレクトロニクスであり、年率平均6.7%と通信分野の6.5%よりも大きいとしている(図5)。成長の大きい分野はさらに、産業用・医療機器用5.8%、軍用・宇宙航空用4.3%と続いており、半導体全体の平均成長率は4.3%となっている。これまで半導体をけん引してきたコンピュータは1.8%、民生は1.2%と低い。

図5 自動車用半導体の伸びが2019年まで最も高い (出典:IC Insights)

カーエレクトロニクス化を進めるキモは、これまでの「走る」「曲がる」「止まる」の基本機能に加え、安全性を高めCO2排出を抑えることも加わっている。ここ数年、力を注いできたことは安全面だ。特に、これまではエアバッグの装着やボディ材料の改良などにより、衝突しても死には至らないというパッシブセーフティが当たり前になってきたが、衝突そのものを避けるアクティブセーフティへと変わってきている。エアバッグは、タカタ製の製品不具合が1年も続き、解決の糸口がまだ見えていない。

アクティブセーフティは、クルマに近づく物体を検出し、人間かクルマ、自転車かを見分け、ブレーキをかける、という一連の動作を伴う。ここでは、物体検出にCMOSイメージセンサカメラかミリ波レーダーを使い、検出した物体がクルマか人間かを識別・認識する。最近の技術では、クルマでも乗用車かSUV、トラックなどをそれぞれ見分けて表示する機能も登場している。認識できたら対象物を黄色い四角で囲み、さらに乗用車やトラックを表示する。その前に、衝突する速度であるかないかを計算し、判断する。自分のクルマの速度と、物体の近づく速度を計算するのに、演算用のプロセッサを使う。レーダーだとドップラー効果も加えて距離を求める。カメラだと相対速度を計算する。速度から1秒後などの距離がわかる。衝突する危険性を計算できたら、ブレーキをかけるように制御用のECUに知らせる。ECUではブレーキディスクを動かすためのモータを駆動する。

こういった一連の流れの中には、検出するためのCMOSイメージセンサカメラやミリ波レーダー発振器、画像認識IC、人かクルマかを見分けるためのデータベース、黄色の四角をディスプレイに送信する回路、速度を計算して距離を計算し、その距離が時間と共に縮まっていくのかどうかで、衝突するかどうかを判断し、何秒後かには衝突しそうだと見分けるIC、ブレーキをかけるためのECU、など半導体が極めて大きな役割を果たす。

自動運転車だと、カメラとミリ波レーダーの両方を使い、しかも計算速度の速いICが求められる。衝突が起きるのは前方だけではない。横や後ろからのクルマによる衝突に対しても防止しなければならない。このために、クルマの前後左右、四隅にカメラやレーダーを設置する、あるいはレーザーを利用するレーダー「LiDAR(Light Detection And Ranging)システム」も将来候補として浮上している。LiDARシステムは、ビームを発射しその戻り光を検出して距離を測るものであるが、ビームを360度回転させて、全方位の距離を測定する。グーグルの自動運転カーの屋根に設置している回転体がLiDARだ。

図6 Toyota Research InstituteのCEOになるGill Pratt氏(左)とトヨタの豊田章男社長(右) (出典:トヨタ自動車プレスリリース)

ここで述べてきたテクノロジーは、例えば認識できると言ってもその認識率が100%にはまだ至っていない。このため100%に近づけるためのテクノロジーとして、ニューラルネットワークをベースにしたマシンラーニングやディープラーニングなどの新しい学習機能のある賢いテクノロジーが注目を集めている。トヨタは2016年1月に米国シリコンバレーに人工知能技術の研究・開発拠点として「Toyota Research Institute」を設立、今後5年間に10億ドルを投資する、と11月6日に発表した(図6)。ディープラーニングも人工知能の1つと捉えられており、クルマの安全を確保するためのテクノロジーになりうる。さらにビッグデータ解析の有力な手段とも考えられている。トヨタの研究・開発拠点は当初、自動運転車の実現に必要なテクノロジー開発に集中するが、やがてクルマに限らず、ロボットや高齢化社会でもクルマにアクセスできるような仕組み作りなどもテーマに入れていくという。