リチウムイオンバッテリの電荷容量を上げ、走行距離を伸ばすための開発競争が激しい。2015年8月23日付の日本経済新聞では、日産自動車の電気自動車(EV)「リーフ」の走行距離を従来の228kmから300kmへと伸ばす、と報じた。EVの駆動力を決めるものはバッテリとモーターであるが、電池ではリチウムイオンバッテリが注目を集める中、ところがどっこい、鉛蓄電池も頑張っている。リチウムイオン電池と同様、急速充電が可能で、充放電サイクル寿命が1.5倍に増えるという進歩を遂げているのだ。
鉛蓄電池の最大のメリットはリチウムイオン電池を比べ、何といってもコストが1/10程度と安いこと。パナソニックが発表した鉛蓄電池(図1)は、フォークリフトをはじめとする産業車両の電化を進めるのにぴったりの優れモノである。1時間の急速充電で、バッテリ容量の最大80%まで充電される。これにより、フォークリフトの1日の稼働時間が従来の鉛蓄電池に比べ2倍以上も高まったという。つまり生産性が2倍以上上がった。
フォークリフトの電化は1.5トン以内の車両では高まっているが、2トン以上ではディーゼルやガソリンなどの内燃機関のエンジンがまだ圧倒的に多い。それは、内燃エンジン車と比べ、充電時間が長く稼働時間が減ってしまうためだ。パナソニックの新型鉛蓄電池は、コマツの2.5トンフォークリフト「FE25-1」に搭載され、その実績データが明確になった。従来のバッテリでは6.5時間の稼働時間しかなかったが、急速充電を1日に3回行えば16時間稼働できることが明らかになった(図2)。1時間の急速充電でバッテリ容量の最大80%まで回復する。
電気自動車の充電に要する電気代はディーゼル車の燃料コストの1/5。すなわちランニングコストが安いため、導入から3年でディーゼル車とコストが逆転する(図3)。5年間はバッテリを交換する必要はないため、3年で元が取れることになる。
新型鉛蓄電池は、容量が12V60Ahで、重量21.5kg、寸法165mm(高さ)×116mm(幅)×388mm(長さ)という諸元である。今回、鉛蓄電池の急速充電を可能にして、さらに寿命も1.5倍に増やせるようになったのは、鉛蓄電池そのものを大きく改良したためである。鉛蓄電池には希硫酸を電解液に使う液式と、電解液をセパレータに含浸するシール式があるが、液式は横にするとこぼれる恐れがあるため、シール式を用いた。
鉛蓄電池は、鉛(Pb)イオンの移動によって、逆向きに電子を流すことで電流を供給する。正極板にはメッシュ構造に活物質のPbO2を塗布、負極板にはPb活物質を塗布している。最小構成のセルの起電力は2Vであるため、12Vの鉛蓄電池はセルを6個直列接続した構成を採る。細かいメッシュ電極にしたのは活物質との接触面積を大きくして電流容量を上げるためだ。これによってエネルギー密度が高まった。
これまでセルの寿命が短かったのは、充放電によって温度が上がるためだという。それも一部のセルに電流集中が起こり、部分的に高温になった。そこで、冷却ファンを使って高温になりやすいセルを冷却する。フォークリフトに使う場合には、12V/60Ahの単電池を6個直列、6個並列の合計36個接続した72V/360Ahの組電池を使用するが、これらの熱解析を行い、冷却ファンの位置を最適化した(図4)。これにより組電池の熱の均一化を図った。温度のバラつきは1/3に減少した。
さらに充電のアルゴリズムも開発した。従来は充電する場合、過充電気味に100%を少し超えた状態まで充電していた。パナソニックはその詳細を語らないが、今回、温度や充電状態、劣化などの電池の状態を見ながら充電量を制御するようにしたという。さらに充電を数回行うごとに1回リフレッシュ充電を行う。これは、電池のメモリ効果を防ぐために一度、最後まで放電し尽した後に再び充電する動作のこと。これらの改良によって、充電回数(寿命)は1.5倍の1500回と長くなった(図5)。
バッテリの電解液は従来のシール鉛よりも半分に減らし、補水作業を不要にした。さらに、先ほど述べた充電アルゴリズムの開発により、水素ガスの発生を40%削減できたとしている(図6)加えて、コストダウンを図るため、リチウムイオン電池システムでよく見かける、セル1個ずつ均一制御するバッテリ制御ICを使わなかった。
鉛蓄電池を進化させたおかげで、これを使うフォークリフト以外の産業用にも市場が開けたと見ている。ゴルフカーや小型EV、福祉車両、電動車椅子、高所作業車などに期待している。急速充電で稼働時間・航続距離が延長できる。パナソニックは、ゴルフカーやフォークリスト、小型EVに関してはすでに納車しているという。ただ、一般の乗用車では、例えばエンジン始動時には2%しか放電しないため、この鉛蓄電池は過剰スペックである。このため、一般乗用車市場は考えていない。
鉛そのものはRoHS規制の対象となる元素であり、環境保護の観点からは気にかかる。これに対してパナソニックは、「使用済み鉛蓄電池を100%回収しており、回収した蓄電池を精錬事業者が再生鉛として生まれ変わらせる。この再生鉛を鉛蓄電池業者が商品として蓄電池を製造・販売している」と述べる。100%リサイクルされているため、むしろ環境に優しいバッテリだとさえ言う。
今回の鉛蓄電池は従来品と比べ、大きなエネルギーを扱えるようにはなった。しかし、従来の鉛蓄電池と比べて価格が高いという問題はある。これに対してパナソニックは、まだ使われている数量が少ないためで、量産すればもっとコストは下がるだろうと見ている。