「ADAS(先進ドライバ支援システム)をプログラマブルLSIであるFPGA(field programmable gate array)で実現し、出荷実績を積んできた」。こう語るのは、FPGAのトップメーカーであるXilinxにてオートモーティブマーケティングおよび製品企画部門のシニアマネージャーを務めるケビン田中氏(図1)。なぜADASにFPGAか。ADASから自律運転車へのマイグレーションにはFPGAが極めて自然なデバイスだからである。Xilinxは自律運転への道のロードマップとして、FPGAにCPU/GPUコアなどコンピュータシステムを修正した「プログラマブルSoC」を描いている。

図1 Xilinxにてオートモーティブマーケティングおよび製品企画部門のシニアマネージャーを務めるケビン田中氏

ADASシステムでは、クルマの前方だけでなく、後方、斜めにもクルマや人を検出しなければならない。そのために遠距離レーダーや近距離レーダー、超音波、光学カメラ、LIDAR(レーザーを利用した測距技術)などのセンサが欠かせない(図2)。さらにセンサ情報から、クルマ、人を認識する必要がある。クルマや人を定義して認識するためのアルゴリズムを作り出し、演算する。ドップラーレーダーなどで対象物との距離を測る場合も演算が必要。すなわち、演算処理が欠かせない。

図2 ADASに必要なクルマの周囲の測定センサ (出典:Xilinx)

この演算をソフトウェアで行うか、ハードウェアで行うか、といったシステムのパーティショニングでは、必要な演算速度や必要な負荷、消費電力などを配慮して優先順位を付けながら決める。フレキシビリティのあるソフトウェアで演算するものはCPU/GPUなどのコンピュータ回路であり、ハードウェアで高速演算するデバイスがFPGAである。だからこそ、FPGAとCPUを1チップに集積する。

例えば、カメラからの映像や赤外線カメラ映像、レーダー/超音波などのセンサからの信号処理および対象物を追跡するトラッキング機能はセンシング領域であり、CPUもFPGAも使わない(図3)。その次の複数のセンサからの情報や映像をつなぎ合わせる処理と、対象物を認識して見分ける環境特性解析機能は、CPUによるソフトウェア処理とFPGA回路がほぼ半々だとしている。最後に、物体のアセスメントと判断はCPUで行う。SoCとFPGAを1チップに集積していれば、プロセッサシステムとFPGA部の間にある3000本以上のチップ内配線がハードとソフトの間を密に結合すると同時に、機能分割も柔軟にできる。だから、FPGAを集積したSoC、すなわちプログラマブルSoCは自動車のADASシステムに向いているのである。

図3 ADASの認識に使われる作業の例 (出典:Xilinx)

Xilinxはこれまでも単眼カメラやステレオカメラを利用した物体認識にZynq SoCをすでにAudiやVolkswagen向けに出荷してきた。それを搭載したAudiのA6/A7/A8モデルが販売開始され、最近はA3にも搭載されたという。これまでADASに実際に採用されて出荷された半導体SoCはXilinxのZynq SoC製品だけだとKevin 田中氏は自慢げに述べる。

現在出荷中の先端SoCは28nmプロセスを用いて、600MHz動作のデュアルコアARM Cortex-A9を搭載したFPGAであり、図4のようにやや薄い緑色で表されたコンピューティング機能部分とFPGAが担当する黄色い部分から出来ている。ARMのCPUコアをベースにしているため、AXIバスアーキテクチャで、AMBAバススイッチを利用している。

図4 現在出荷中のADAS用Zynqのブロックダイヤグラム (出典:Xilinx)

Xilinxは、例としてカメラベースのADASシステムにおける、これまでのアプローチを解説する(図5)。従来のECU(電子制御システム)では、MCU/MPUでフレーム処理と車内通信、DSPでシリアルやイーサネット、XilinxのFPGA「Spartan」で並列画素処理を行っていた。現在のZynq-7000シリーズは28nmプロセスであるが、Zynq UltraScale+MPSoCと呼ばれる次世代の16nm FinFETプロセス製品は、カメラインタフェースやコントローラ部の完全集積、パワーマネジメントの強化より高度な処理能力、より強化された機能安全への対応能力も備わる。

図5 カメラ映像処理における過去、現在、未来のシステムイメージ (出典:Xilinx)

この自動車向け最先端プログラマブルSoC「Zynq UltraScale+MPSoC」では、CPUコアが64ビットのARM Cortex-A53クワッドコア(クロックは1GHz)、機能安全に向いた32ビットARM Cortex-R5コア(500MHz)、ARMのグラフィックスプロセッサMali (400MHz)などに加えて、FPGAファブリック回路などが集積されている(図6)。ここにはパワーマネジメント回路によって、回路ごとに電圧や周波数を変えることで消費電力の削減を図っている。FPGAファブリックでは従来のArtex系に比べより高性能なKintex系FPGAを使い、高速インタフェースのPCIeや100G Ethernetなども構成している。UltraScale+MPSoCは2017年の第3四半期に量産に入る予定である。

図6 最先端となる16nm FinFETプロセスを採用するプログラマブルSoC「Zynq UltraScale+MPSoC」 (出典:Xilinx)

図7 ADASの進化ロードマップ (出典:Xilinx)

図7のように、ADASそのものの進化に合わせて、機能安全レベルも上がってくる。Xilinxは、プログラマブルSoCの進化も、ドライバーアウェアネスレベルから、ドライバーアシスタンス、さらに半自動運転のレベル、そして自動運転レベルへの進化とリンクしていく。すでにARM Cortex-A53の次についてもARMと議論を始めたとしているほか、社内でもFPGAファブリックの進化についても議論しているという。ADASの進化とプログラマブルSoCの進化は歩調を併せ、市場実績を加えていく。

Alteraを買収したIntelはADASに進出することはXilinxには脅威となるはず。これに対して、Xilinxは、x86アーキテクチャとFPGAでADASシステムはできるだろうか、と首をひねる。ARMの最大のメリットは何といってもエコシステムが出来上がっていることだ。新しいADASシステムが出てきてもCPU向けのソフト開発は仲間の企業がたちどころに対応する。顧客がどちらを選ぶか、によって勝負は決まるが、Xilinxは極めて強い自信を持っている。