オランダのNXP Semiconductorは、RF-IDやNFCなど個人認証をベースにしたセキュアなコネクションに力を入れてきた半導体メーカーである。日本市場に限れば、2013年における日本での売り上げの68%がカーエレクトロニクス分野だという。特にカーラジオやカーオーディオなどのAVエンターテインメントに力を入れてきたが、これからは安全に力を入れていく、と同社日本法人のNXPセミコンダクターズジャパンのオートモーティブ事業部長の濱田裕之氏(図1)は言う。全世界の市場に向けても、培ったセキュリティ技術をクルマに応用し、セキュアなコネクティビティを持たせたクルマを目指す(図2)。

図1 NXPセミコンダクターズジャパンのオートモーティブ事業部長の濱田裕之氏

図2 コネクテッドカーをセキュアにする 出典:NXP Semiconductors

信号機のない交差点で、それも横から道路に出てくるような場合、クルマ同士が事前に走行を察知できれば、事故を防ぐことができる。このようなV2X(Vehicle to X: Xはクルマであったり道路上の送受信機であったりする)チップセット「RoadLINK」を、2011年にサンプル出荷していたが(参考資料1)、このほどこのチップセットを量産化し、Delphi Automotiveに納入することが決まった。Delphiはティア1サプライヤとして、NXPのチップセットを組み込んだ車車間通信モジュールを、General Motorsの2017年キャデラックモデル向けにGMへ納入する。

これまでNXPは、Cohda Wirelessが開発したIEEE802.11pというクルマ用Wi-Fi通信モジュール向けにチップセットを提供し、車車間通信の実験を行ってきた。車車間および路車間の通信実験を繰り返しながら、実験で用いた青い筐体のモジュールを、今回数cm角の小型ボードに収めた(図3)。802.11pは、通信範囲が600~700mほどあり、しかも都市におけるビルからの電波の反射などのマルチパスやノイズに強いという特長がある。モバイルネットワークよりは接続性が優れ、クルマのV2X通信に適した規格である。今回のV2X規格チップセットは日本の760MHz、欧州と米国の5.9GHz、Wi-FiとDSRC(5.8GHz)規格などすべてに適合するようにSDR(ソフトウエア無線)技術を使っている。

図3 キャデラックへの搭載が決まったV2Xモジュール

クルマ同士やクルマと道路インフラとの間を接続しているコネクテッドカーでは強力なセキュリティが必要となる。「NXPはコネクテッドカーをよりセキュアにする」とNXP Semiconductorsのセールス&マーケティングおよびオートモーティブ担当シニアバイスプレジデントのDrue Freeman氏(図4)は述べている。NXPはV2Xだけに限らず、テレマティックスやカーエンターテインメント、クルマ全体のシステムセキュリティを確保するためのNFC(near field communication)チップも開発した。このほど、2種類の新製品を発表した。

図4 NXP Semiconductorsのセールス&マーケティングおよびオートモーティブ担当シニアバイスプレジデントのDrue Freeman氏

1つはハイエンドのNFCコントローラ「NCF3340」で、車載規格のNCI(NFC Controller Interface)に対応している。NCIはNFCフォーラムが策定した仕様であり、他のNFC部品と相互運用性を確保している。このため、これをクルマに搭載しておけば、運転者の認証や、座席やドアミラーの位置認証、空調などの個人的な好みに自動的に合わすことができる。運転者の認証では、例えばNFCを搭載したスマートフォン(スマホ)をかざすと初めて運転手であることを認識し、エンジンを始動する。この認証が違っているとエンジンはかからない。背の高い人、低い人で座席やドアミラーの位置は異なるが、この情報もNFCが認識し運転席に座るとクルマが自動的に座席の位置やドアミラーの位置、ハンドルの位置などを調整してくれる。

もちろんスマホの通話機能あるいはWi-Fi機能などもペアリングすることで、スマホ内に保存された音楽などの情報をクルマのディスプレイで見て、カーオーディオで聴くことができる。クルマの無線カギとなるキーレスエントリの代わりにスマホをドアの把手に近づけるとドアが開く、というアクセスにも使える。その他、カーシェアリングする場合の多数のクルマの管理(Fleet management)もできる。

このチップにはNFCの動作モードである、リード/ライト、ピアツーピア、カードエミュレーションの3機能をすべて盛り込んでいる。

もう1つのチップは、大きさ5mm角で小さな32ピンQFNパッケージに入ったパッシブタイプのキーレスエントリ(PKE)用のチップ(図5)である。イモビライザ機能ももちろん備えており、リモコン用のRFトランスミッタも集積している。チップには、16ビットRISCコアやセキュリティトランスポンダーなどの各種送受信機を集積している。

図5 時計の中に実装した5mm角のPKEチップ

チップサイズが小さいことから、スマホのアクセサリケースにPKEチップを搭載し、スマホとの接続を認証することが可能である。また時計タイプ(図5)にも組み込むことができ、時計型のPKEにもできる。

参考資料

  1. カーエレクトロニクスの進化と未来 連載27「ソフトウエア無線技術を生かしカーワイヤレス分野を着実に伸ばすNXP」