NXP Semiconductorsは、クルマから路上交通インフラとの間の通信Car2X(Car-to-X)製品「SAF5100」(図1)をサンプル出荷した。

Car2Xは、クルマからWi-Fi信号を出すことで見えない道路にいるクルマにも、自分のクルマがいることを知らせる。あるいはクルマから道路上の受信装置に電波を送り(車路間通信)、自分のクルマの居場所を教えるシステムでもある。だからこそ、Car-to-car(車車間通信)と言わずCar-to-Xと呼ぶ。

図1 802.11p通信を実現する新Wi-Fiチップ (出典:NXP Semiconductors)

Car2Xの目指すものは、交差点の付近など死角になっている場所においてクルマがいることを検出し、事故を未然に防ぐ未来のシステムである(図2)。また、緊急車両をいち早く検出し、道路を空けることもより素早くなる。さらにクルマが混雑してくると早めにハザード警告を出し、他のクルマに知らせ、渋滞を回避するように促す。

図2 死角をなくしより安全にするCar2X通信 (出典:NXP Semiconductors)

クルマから発射する電波は、Wi-Fi無線規格802.11pである。これは、5.9GHz帯の周波数を使い、2km程度に渡って飛ぶ。ただし、欧州内、日本、米国などで微妙に違う周波数帯とモデム方式を使う。周波数帯でさえ、700MHz帯と900MHz帯のバンドも検討されている。さらにモデムに使うOFDMデジタル変調方式も、単純なBPSKからQPSK、さらに16QAM、64QAMの中から選択する。チャネル帯域幅は10MHzが基本だが、オプションで5MHzを追加できる。

このように変更点の多い802.11p規格だからこそ、NXPはこのチップをSDR(ソフトウエア無線)方式で開発した。これは、ハードウェアチップは1つの決まった専用プロセッサを使いながら、ソフトウェアを書き換えるだけで、仕様を変えることができる技術。NXPは、これまでもカーラジオ受信機でSDR方式のデジタル復調器を開発してきた。製品としても実績がある。欧州では道路に検問がなくクルマで欧州各国を旅できるが、各国間で仕様の異なるラジオでは聴くことができない。このためソフトウェアの変更だけでどの国の方式にも対応できるSDR技術が求められている。802.11pモデムチップはこれが初めて。

NXPはCisco Systemsと一緒にCohda Wirelessに出資、Cohda社の802.11p技術の独占的なライセンス供与を受けた。このことで自動車業界に対して802.11pチップを含めたソリューションを提供できるようになった。

図3 802.11p通信モジュール。左の青い箱が第1世代、右の透明な箱がRFとベースバンドを1チップにした第2世代

NXPは、これにより802.11pのモデムモジュールを開発してきた(図3)。第1世代は、MK3リファレンス設計は11pの動作確認にすぎなかったが、今回のチップを使った、MK4リファレンス設計モジュールは2014年以降の開発に使う。さらに、今後の量産レベルではドーターボード並みのモジュール(図4)になると想定されている。

図4 NXPが開発している量産レベルのモジュール