いよいよ、KT(Kinds Transportation Safety Act)法の実施がカウントダウンに入ってきた。2014年以降、米国で販売されるすべての新車にバックモニターの装着が義務付けられるのである。ドライバーから見えない死角にいた幼児を知らずにひいてしまうという痛ましい事故を減らすことがその目的である。ドライバーには死角をなくしたい。富士通セミコンダクター(FSL)が最近発表した画像・映像合成用グラフィックスLSIの特長は、その死角をなくすことに尽きる。
このシステムLSIは、最大6台のカメラからの映像を入力できる。例えばクルマの上から見るように画像を合成する「アラウンドビューモニター機能」では4台のカメラを利用、4方向の画像を合成して視点を定める。日産自動車のエルグランドに搭載されたアラウンドビューモニターはクルマの数m真上という視点が1つだけだが、FSLの新製品「MB86R24」は360度に渡る連続的な視点からクルマを見るような画像を合成する。クルマの前方斜め数m上からの視点を360度ぐるっと回転してクルマの横と後ろの斜め上から見る画像・映像を作り出す(図1)。死角がなく、クルマを数m外から360度見ているような映像だ。
FSLは2013年5月22~24日の間にパシフィコ横浜で開催された「人とくるまのテクノロジー展」において、クルマの模型を作り、この360度映像をデモンストレーションした。ここでは、静止しているクルマの後ろに物体がやってくると、クルマのスクリーンに設置された合成画面を通して見せた。同社は、この360度のビデオ映像も公開している。
この「全周囲立体モニターシステム」では、前からクルマを見ているという映像の合成では、まるでルームミラーの視野を広げたような映像である。このため、例えば走行中に車線変更する場合に後ろから来るクルマを確認できる。走行中のクルマの斜め後ろがよく見えるため、やはり安全性が増す。
このチップはもう1つ、接近してくる移動物体を検出するという機能もある。これは、移動物体が通りそうな道路上を赤、あるいは黄色の大きな四角で囲み、その範囲の中から移動物体を認識するとそれをさらに小さな枠で囲み、追跡していくという機能だ。ドライバーからは赤い枠がクルマや人などが動いている様子を一目で見ることができる。近づいてくる移動物は赤く囲み、遠ざかる移動物は黄色で囲むことで、近づき遠ざかるという一連の行動を示している。T字路の交差点などでは左右の2台のカメラで右からあるいは左から近づいてくる物体を認識する。クルマや人が近づいた時に警告することができる。
全周囲立体モニターシステムと接近物検知機能を実現するため、カメラからの映像を6台まで入力できるようにしている。このうち4台は、360度の映像を合成するためにまず4つの映像を映すために使う。残りの2台は、接近物が右側からと左側から近づいてくることを検出するために使う。
こういった機能は富士通研究所が開発した技術だという。基本的には、360度の立体画像を表示するImagination TechnologiesのPOWERVRグラフィックスIPコアを利用した。POWERVRが持つ、360度回転する画面に、4台のカメラで合成した映像を張りつけている。映像を合成するための演算処理にはARMのCortex-A9のデュアルコアを用いている。
加えて、メータ類の表示のように、画像を異なるレイヤで重ねる場合も考慮して、富士通が開発した2次元のグラフィックスIPも集積している。メータ表示などの映像には同社のイメージプロセッサIPを利用する。
ディスプレイの出力は3個設けており、図3ではメータ類やセンターディスプレイ、ヘッドアップディスプレイを表示している。最近のトレンドとして機械式のメータから液晶画面にメータと針を表示する動きがある。「人とクルマのテクノロジー展」においても、多くのメーカーが針式の液晶画面を表示するデモを行っていた。ヘッドアップディスプレイはデンソーなどがドライバーの目線上に見えるような半透明ディスプレイをデモした。センターディスプレイは現行のクルマのカーナビに相当する。
液晶ディスプレイにメータ類を表示するためには、コンテンツデザイナー(あるいはアーティスト)がAdobeのPhotoshopなどで画像を作成した後に、ソフトウェアエンジニアが画像を液晶ディスプレイに張り付けるための編集作業を、全周囲立体モニタオーサリングツールであるCGI Studioを使って行う。アーティストとソフトウェアエンジニアが協調して設計することが望ましいという。CGI Studioは、従来からもFSLが提供してきた。
このICには、全周囲立体モニタソフトや、接近物検知ソフトといったソフトウェアをミドルウェアとして格納している。OSにはリアルタイムOSのT-Kernelを使用、遅延を33ms程度に短縮している。各種のビデオプロセッサ、イメージプロセッサ、グラフィックスなどのIPに加え、DDR3 DRAM用の×16、×32、×64ビットのメモリインタフェースや標準I/O、クルマ用のネットワークCANやLIN、Ethernetも集積している。製造はFSL三重工場で55nmプロセスを利用する。
なお、2015年に量産立ち上がりを目指し、16年以降には月産300万個体制に持っていくという計画だ。