ニッケル水素(Ni-MH:nickel metal hydride)電池が見直されている。電池の持つエネルギー密度はリチウムイオン電池の方が大きいため、クルマ用の電池はニッケル水素電池からリチウムイオン電池へと大きくトレンドが流れているように見える。現実に初期のハイブリッドカー「プリウス」にはニッケル水素電池が使われていたが、最新のプラグインハイブリッドにはリチウムイオンが使われるようになっている。ところが12Vの鉛バッテリ回生エネルギーシステムに使うには、ニッケル水素電池の方が低コストで、しかも相性が良いという。

パナソニックグループエナジー社 三洋電機エナジー社の車載電池ビジネスユニットは、通常のガソリン車に使う鉛蓄電池にニッケル水素電池を単純に並列接続するだけで、減速時の回生エネルギーをたっぷり蓄電でき、しかも起動時のアシストにも使え、さらに鉛蓄電池の寿命までも5~6倍伸ばすことのできることを実証し、このほど、その信頼性加速試験データを公表、アイドリングストップ車に適したニッケル水素電池にも改良を加え、コストを抑えながら回生エネルギーを十分蓄電できるシステムを提案した。

図1 新型のニッケル水素電池セル。単1タイプで6Ahの容量がある

ニッケル水素電池の出力電圧は1.2V、これに対しリチウムイオン電池は3.6V程度と約3倍の開きがある。鉛バッテリの12Vに合わせようとすれば、ニッケル水素は10個直列接続させる必要があるのに対して、リチウムイオンだと4個で間に合う。

一方、鉛バッテリは充電レベルを表すSOC(State of Charge)という指標では、常に100%の状態に保つ必要があり、悪くても95%以下にはできないという。もし、それ以上下げるともはや充電できなくなってしまう。いわゆる「バッテリが上がってしまう」状態になるため、自動車の回生ブレーキによって発生した電力を十分に回収するほどのエネルギーを貯める能力が、鉛バッテリにはない。そこでリチウムイオン電池やニッケル水素電池など、充電すべきエネルギーを貯めてくれる電池が必要となる。

では、鉛バッテリと同じ12Vシステムンに使うには、どのようなバッテリが適しているか。パナソニックは、SOCと充放電電圧との関係をグラフ化した。

図2 鉛バッテリの特性はニッケル水素10個直列接続した特性に近い(出典:パナソニック。以下のスライドも同様)

充電特性も放電特性も鉛バッテリに近いのはニッケル水素だけである。このため、鉛バッテリとニッケル水素電池を並列に接続して減速時の回生エネルギーを十分蓄電することができる。この特性が違いすぎると、電圧を調整するためのDC-DCコンバータが必要になり、コストアップの要因になる。特に10A以上の電流を必要とするDC-DCコンバータは数千円もするという。

ニッケル水素電池を10個直列接続したバッテリ(10直)と鉛バッテリ(パナソニック製Q-55)を並列接続して、アイドリングストップ(放電)と、エンジンの再スタート(放電)、運転中による充電、という一連の動作をシミュレーションテストした。アイドリングストップは45Aを59秒放電、再スタートは300Aを1秒間、運転中は14Vあるいは14.5V、制限電流100Aで60秒間充電する、として、この試験を-10℃、25℃、60℃の3つの温度環境の下で実施。60℃で加速試験した結果、鉛バッテリだけだと1万2000回の繰り返しで放電抵抗が上昇し放電電圧が急落して使えなくなった(図3の左図)。これに対して鉛バッテリとニッケル水素との並列使用だと、6万8000回以上伸びた(図3の右図)。すなわち寿命は5倍以上伸びたことになる。

図3 アイドリングストップ動作による鉛バッテリの寿命は5倍に

次に、回生ブレーキをかける場合のシミュレーションテストを実施。テスト条件はJC08走行モードを想定して、放電を15A、充電を13.85Vと14.65V、14.9Vの3つの充電電圧、制限電流85Aで行った。回生ブレーキがかかる条件は、時速20km以上で加速度がマイナスになる時を充電時間とした。従来の鉛バッテリではこれらの条件で試験すると、トータルのシステム電圧が12Vを下がりオルタネータ(発電機)が作動し始める。オルタネータはガソリンで動かすため、燃費がかかることになるが、今回のシミュレーションでは、いずれの条件でも12Vを下回ることはなかった(図4)。

図4 JC08走行モードでの電圧応答では12Vを下回ることはなかった

またSOCの変化も測定したが、ニッケル水素バッテリは±10%くらいの変動があったが、鉛バッテリは0.5%以内しかなく、鉛蓄電池への負荷がかなり軽減されたことがわかった。

さらに、電池に充電したエネルギーをどれだけ取り出せるかを表す充電効率は充放電の繰り返しによって、従来のセルでは60℃では93%を維持できたが、65℃では83%、70℃では73%まで低下した(図5の現行セルの曲線)。そこで、ニッケル水素セルにも改良を加えたという(図5の新規セルの曲線)。

図5 セルの高温動作試験

パナソニックの研究グループでは、温度と共に効率が下がる原因は活物質が反応にあまり寄与せずに電解液が電気分解されてしまうためだと突き止めた。電気分解によって酸素が発生すると負極が腐食する。このため、電解液が分解されにくくして酸素の発生量を減らすように添加剤を加えたとする。材料名は語らないが、これによって開発された新型セルは70℃でも93%を保ち、充放電繰り返し試験を行ったところ、従来セルの2倍程度の回数に伸ばすことができたとしている(図6)。

図6 セルの耐久試験

なおパナソニックは今後、ガソリン車でさえバッテリはますます使われていくとの見方を示す。特にハンドルのステアリング-バイ-ワイヤなどのX-by-Wireシステムはクルマの軽量化には欠かせなくなるため、その補助電源はこれからもニーズが高まっていくと期待している。