BroadcomはEthernetでアライアンス結成
2番目のスピーカーとなったBroadcom Automotive Physical Interface Technology (PHY)部門Product Marketing担当Senior DirectorのAli Abaye氏は、ハードウェアと自動車システムについて語った。特にBroadcomが力を入れているのは、クルマ用のEthernetであると述べ、「Ethernetは今やどこにでも使われている。今、クルマにEthernetを持ってくる時がやってきた、と信じている」と語った(参考資料1)。
自動車用の電子システムに必要なことはより低いコストとより高い信頼性である。ではEthernetをどのように組み込むか。接続用配線には単純なツイステッドペア(より対線)を使う。わずか2本の配線で通信すれば軽くなりコストも安くなる。100MbpsのEthernetを構成するとこれまでよりもコストは80%安く、重量は30%軽くなるとする。
自動車メーカーはこれまでもFlexRayなど通信ケーブルの扱いに慣れている。ADASでは、例えばカメラを4台搭載する場合、カメラのセンサからMCUを通り、圧縮などの処理を行う。バスを通る時にスイッチは同期をとりバスにつなげる。エンタイテインメントシステムも同じEthernetを利用するためマルチプルネットワークをこの上で信号のやり取りを行うことになる。
このためには、まだ完成していないクルマ用途で標準化を進めるためのオープンアライアンスでみんなが参加して標準を決めていこう、と呼びかけた。Ethernetは標準として優れている。Broadcomが提案しFreescale SemiconductorやBosch、Continental、Hyundai、NXP Semiconductorもメンバーになっている。11年11月に設立し、今や40社が参加するようになった。「これほど早く成長したアライアンスは知らない」とAbayeは語る。100Mbpsの次に1Gbpsにすることも決まった。IEEEも認定している。標準化して相互運用性を図るためにもさまざまな企業に入ってほしいという。
ADAS向けのチップをFPGAで作る
3番目のプレゼンターはAltera Automotive Business UnitのDirectorであるBrian Jentz氏だ。AlteraはADASアルゴリズムの開発に力を注ぐ。この分野は巨大なビジネスチャンスがあるからだ。すでに大学、ベンチャー企業、Tier 1企業などが参入している。この応用では、多数のカメラを使う。カメラとしての市場も巨大である。このカメラでは内部にある魚眼レンズで画像の歪みを補正する。これをDewarping(歪み補正)という。
カメラからのアナログ信号をデジタルに変換しその処理をインテリジェントに行うのが半導体だ。ここでは、これまでよりももっとインテリジェントな処理を行う。例えば夜の暗い光の中にある物体を検出・判断・処理・追跡する。またEthernetの登場により、高解像度での伝送が可能になるため、新しい圧縮技術(モーションJPEGやH.264など)を使い、レーンから逸脱すると警告を発するといった応用にも使える。また、センサフュージョンというべきか、いくつかのセンサの組み合わせで能力を高めることもある。例えば。カメラセンサが広い角度範囲を検出しながら、レーザーで正確な距離を測定することで衝突をずっと手前から回避することが可能だ。
サラウンドビューは最近のキャデラックに搭載されたが、センサのアルゴリズムはもっとしっかりしたものにしなければならない。4台以上のカメラを使い、システム的につなぎ合わせることで360度の視野が可能になる。バードアイも入れられる。最後に解析回路を入れることで対象物を追跡したり、認識したりする。日産自動車はサラウンドビューを入れた新モデルのインフィニティを発表したという。
さまざまな機能を付けられるようになると、Tier 1は膨大なリストから何を選び、それをどうインプリメントするかが問題になる。アーキテクチャのトレードオフという問題もある。圧縮方式から解析、たくさんあるカメラの解像度をいくつにするか、コストとシステム性能とのトレードオフを最適化しなければならない。しかもいろいろなOEMからの要望を満たすため、スケーラブルな手法を採用することも必要になろう。まさにシステム的な手法が欠かせなくなる。
「CMOSセンサは進化し続け、全ての応用に使うことができる。画素数は数Mピクセルにもなり、エンターテインメントのスクリーンでは1080p画面が求められる。加えて、レーダー信号の処理も欠かせない。FFT(高速フーリエ変換)やフィルタリング、MAC(積和演算)処理を行うためのDSPやMAC回路は欠かせない。解析の基礎は、バックグランドから信号を抽出するという点でフィルタである。動き検出も必要だ。例えば、カルマンフィルタはレーン離脱の警告システムに使うが、道路標識やカーブの検出にもバックグランドから検出する」と同氏は言う。
加えて、通信ネットワークも重要になる。これもアルゴリズムに関係する。ネットワーク上でビデオ圧縮や新しい標準の圧縮方式を利用する。「図4は、インテリジェントカメラの信号と処理する半導体であるが、28nmプロセスを使ったSoCのFPGAである。デュアルコアのARM Cortex-A9を集積し、性能は4000MIPSで消費電力は1.8Wである。しかも量産品だからこそ低コスト化は必至。性能を伸ばしながらコストの上限を決めるコストシーリングが重要になる。だからこそ、将来も設計仕様を変えられるフレキシブルなハードウェアアクセラレータが求められる。デザインフローでもフレキシブルに設計できるツールが欲しい。OpenCLは必要不可欠であり、SimLinkのようなシステムレベルツールもいる」とJentz氏はFPGAの特長をうまく利用している。
以上の議論は、クルマの安全性を確保する技術ADASに対して、EDAツールベンダー、通信用半導体メーカー、FPGAメーカーの3社とも参入しており、さらに深く足を踏み入れていく。米国のメーカーはここへきて欧日のメーカーに追いつき追い越せムードでやってきている。日本のメーカーもうかうかしていられない。
参考資料
連載34 カーエレクトロニクスの進化と未来「クルマ用のイーサネット規格は安全性見地から標準化と相互運用性で」、2012年5月8日