ルネサス エレクトロニクスがカーエレクトロニクス向けの市場を狙ったマイクロコントローラ(マイコン)の新製品群を10月4日にリリースした。同社が第4世代マイコンと呼ぶ製品の共通特長は、グローバル化を意識して欧州のソフトウェアプラットフォームであるAUTOSAR(AUTomotive Open System ARchitecture)に準拠したこと、90nmプロセスで400DMIPSと前世代の1.3倍性能を上げたこと、などである。
製品群はシャーシ周りの高性能な「V850E2/Px4シリーズ」、ローエンドのダッシュボード周りのメータ類を制御する「V850E2/Dx4シリーズ」、そして「走る・曲がる・止まる」という自動車特有の機能以外を制御する汎用マイコン「V850E2/Fx4シリーズ」の3つのファミリである。
Px4シリーズは、安全性を重視するためデュアルコアを用いて2重化した冗長構成を採っている。もう1つのDx4シリーズは、セグメント方式だけではなくドットマトリックス表示までカバーし、3Dグラフィックス描画まで強化した。
このマイコンシリーズは、同社統合前の旧NECエレクトロニクスが1990年代から手掛けてきた自動車用マイコンの第4世代と位置付けるもの。2002年の0.25μm(第2世代)、2005年にオールフラッシュマイコンを宣言した0.15μm(第3世代)に続く、90nmプロセスを採用した第4世代品となっている。第3世代から、自動車の各種制御用マイコンにフラッシュを搭載したことで、ちょっとした回路の設定変更はプログラムを変えることで可能になり、サポートが楽になると同時に、ティア1サプライヤからプログラム開発が楽になったと言われたという。
ルネサス エレクトロニクスは、車両に取り付ける各種スイッチやワイパーなどのボディ系のFシリーズから、ダッシュボード系の汎用Dシリーズ、カーオーディオ系のSシリーズ、エアバッグ系のRシリーズ、シャーシ系のPシリーズ、エンジン制御系のSuperHシリーズと、カーエレクトロニクス用マイコンのほぼすべてをカバーできるようになった。これらは、8ビット、16ビットのマイコンの78Kシリーズ、R8Cシリーズ、32ビットのV850、SuperHがカバーする。これによって自動車用マイコン市場のシェアは、第3者の市場調査機関によると42%になったという。
高精度のモーター制御にはいわゆる電子制御パワーステアリング(EPS)システムに適したV850E2/Px4シリーズを提供する。このシリーズは、デュアルコアのV850を搭載した機能安全(SIL3)に対応した32ビットマイコンである。モーター制御タイマや12ビットA/Dコンバータ、FlexRay通信規格などを搭載している。デュアルコアといえ、冗長構成が主目的であるため、1つのコアが壊れたり誤動作したりしてももう1つのコアがしっかり動作しなければならない。完全に対称的であればコモンモードノイズを1つのCPUコアが拾うともう1つのコアも拾いやすくなる。このため、2つのコアをわざと非対称にし、動作的にもクロックをずらす、といった工夫を採り入れた。パワステの次は、電気自動車やハイブリッドカーのモーター制御への応用も狙っている。
ダッシュボードのディスプレイメータを表示するためのマイコンとしてのDシリーズは、1チップでグラフィックス付きメータを構成できる。従来のセグメント方式のLCD表示から3Dグラフィックス表示までカバーするが、クルマ用マイコンではマン-マシンインタフェースに価値を求めようとした結果、このようなグラフィックスまでカバーすることにした。従来、TFTカラーディスプレイを駆動できるマイコンはまだそれほど多くはなかった。今回、内蔵メモリだけでもQVGAタイプまでなら対応できるのに加え、メモリを外付けすると最大8MB(800×480のワイドVGA)までアクセスできる。特にグラフィックス画像のギザギザをスムースに表現する処理を入れている。これにより、カラー液晶メータが可能になる。このグラフィックス機能は、ライセンス供与を受けた独TES Electronics Solutions製のIPで実現している。
マイコンとしてローエンドのFシリーズでもボディ系用途だけではなくシャーシ系からセーフティ系まで車載の汎用マイコンとしてカバーする。これまでもFシリーズは欧州で好評を博しており、ミラーやワイパーなどの制御でも性能を上げてほしいという要求があったため、この第4世代を開発することになった。このため256KBから4MBのフラッシュメモリまで搭載した。メモリ容量はソフトウェアの継続性という意味から追加するという要求が強く増加の一途をたどっている。
さらにシステム保護機能を搭載してAUTOSARに準拠できるようにした。例えば、想定していないメモリをアクセスしたり、あるいは禁止されているレジスタを動作させたりするとCPUに警告を出す、といったメモリ保護やレジスタ保護機能を搭載している。従来、複数のソフトウェアを搭載すると、互いに干渉しあったり、互いにメモリを食いあったりすることがあったためにこういった保護機能を付けた。
車内LANネットワーク機能も強化した。CANやLINに加え、より高速のFlexRay通信規格も搭載し、さらに10/100BaseTのイーサネットも組み込んだ。イーサネットは内蔵マイコンのフラッシュプログラムの書き換えやデバグ用に主に使う。パッケージの端子数は64ピンから256ピンまで揃えている。
今回リリースした製品は全部で70品種。Pシリーズは5品種、Dシリーズが54品種、Fシリーズは11品種である。価格の目安だが、最初に製品のサンプルが出荷される予定のDシリーズの例では、V850E2/DP4-Hと呼ぶ2Dグラフィックスや8MBのビデオRAMを内蔵した製品のサンプル単価が6000円。
今後のマイコンでは、2014年に40nmプロセスによる第5世代マイコンを計画しており、65nm/50nmはスキップする予定となっている。