電気自動車(EV)を一刻も早く普及させるためには、新車だけではなく中古車や改造車にもエコ減税や補助金も適用してほしい。こういった思いで、「電気自動車普及協議会」が6月29日に発足した。

中国や台湾、韓国などのアジアで電気自動車を走らせ、実用化を即始める動きが顕著になっている。彼らの多くは、新たに電気自動車を生産するのではなく、すでにあるクルマの車体を改造してEVを製造している。これまで台湾では自主開発できる自動車メーカーはなく、外国自動車のノックダウン生産をしてきただけにすぎない。内燃機関の精密な制御は極めて難しく、これまでの技術の蓄積がなければ世界のクルマと競争することはできなかった。しかし、EVなら、電池とモーターさえあればちょっとしたメカニカル技術者ならクルマを組み立てられる。このためクルマを改造する企業が中国や台湾で続出している。

しかし、日本で中古車を改造してEVを製造しようとしても、補助金制度などはない。このため一般消費者が購入できる価格に収まることはなく、中古車の割には高いと思われてしまい、普及しない。このままでは中国をはじめとするアジア勢に追い越されてしまう恐れがある。

電気自動車専門メーカーが主体の協議会

こういった状況を打破しようというのが今回の協議会の設立の趣旨だ。協議会の会長はベネッセホールディングス取締役会長の福武總一郎氏、代表幹事がゼロスポーツの中島徳至代表取締役社長である。幹事は2人おり、タジマモーター代表取締役会長の田嶋伸博氏とナノオプトニクス・エナジー代表取締役社長の藤原洋氏という面々である。ゼロスポーツはEVの開発、受託開発を請け負い、タジマモーターは競技自動車やEVの企画・設計・製造を手掛ける従業員70名の会社である。

電気自動車普及協議会のメンバーたち。後ろは政府関係者

中古車の買い取り・販売を手掛ける大手、ガリバーの第16期報告書によると、2009年の新車販売台数は460万台、中古の登録台数は669万台である。ただし、中古の台数には業者間の取引によって名義変更が2度あることから、ダブルカウントしている可能性が高いためこの半分の335万台と見積もることができる。とは言っても無視できる市場では決してない。そのため新車市場だけではなく、中古市場の活性化も欠かせない。EVの中古車、あるいはガソリン車の電気への改造車という新たな市場も創出されることになる。

新車を購入する場合は補助金が出る。三菱自動車工業の電気自動車iMeiVの補助金は、本体価格379万円に対して最大114万円である。中古自動車をEVに改造する場合にも補助金制度を適用してほしい。こういった声を反映させるのが今回、設立された「電気自動車普及協議会」という訳だ。発表会には古川元久内閣官房副長官も出席しただけではなく、発表会への来賓として、経済産業省製造産業局自動車課電池・次世代技術室、国土交通省関東運輸局自動車技術安全部(ここからは2名)、長崎県産業労働部からも出席していた。

政府関係者の招待の狙いはもちろん、補助金の法制化である。具体的には7つの作業部会を設け、情報交換・共有を目的とした活動計画の枠組みを決めている(詳細は「EVの普及促進に向けた取り組みが開始-電気自動車普及協議会が設立」参照)。古川氏は冒頭のあいさつで「かつて日本は厳しい排ガス規制を自ら課し、結果的にクリアして世界で最もクリーンで燃費の良いクルマを作った。今はEVがまさにこの時と同じであり、世界をリードしたい」と述べ、そのためには中小企業を強くすることがカギとなるとくくった。

EV普及においての最大の懸念は、ガラパゴス化を避ける努力であろう。携帯電話では日本だけが異常に世界の先を行き、諸外国が誰もついていけなかったために、孤立してしまい、日本の携帯電話を外国に売れなかったという苦い経験がある。この経験を生かすために、2010年度前半に国内で足場を固めたらすぐ後半にも海外に呼び掛け、海外企業の参加を促す。数年後には海外での仲間作りの展開も始める。

標準化とグローバル化はセット

加えて、標準化も欠かせない。「電気自動車はこれまでの擦り合わせ型からモジュール型へとシフトする。このため標準化しておくことが普及のカギを握る」と幹事の1人であり、ナノオプトニクス・エナジーの藤原洋社長は言う。得に「バッテリの形状、大きさ、電極の形状、寸法などは標準化しておくことが欠かせない」、とインホイールモーター車の開発・普及を強く推進する慶応大学の清水浩教授は言う。バッテリは形状や寸法を揃えておき、中身の電気容量や電圧、放電特性など電池本来の性能で差別化を図るようにすれば、電池メーカー間の競争を保ちながら、標準化により普及を推進することができる。

この標準化とグローバル化は実はセットである。標準化によって自動車メーカーは世界中の電池や部品から気に入ったものを選ぶことができる上に、電池や部品メーカーは世界のEVメーカーに輸出することが容易になる。

この協議会は現在35の企業・団体が加わっているが、2010年度内に100企業・団体、2年後の2012年度には500企業・団体の参加を目標においている。