電気自動車(EV)や環境関係のベンチャーであるナノオプトニクス・エナジーは、自動車開発製造の拠点となる米子工場においてマイクログリッドを構築することを発表した。同社は2010年3月に米子工場に電気自動車の開発・製造を発表したばかり。この工場内にスマートグリッドの実験場となるマイクログリッドを構築する。
すでに変電所のある工場
米子工場は3月に撤退したJTE(ジェイティエンジニアリング)の工場の跡地を譲り受けたもの。JTEは日本たばこ産業(JT)が全額出資した生産システムを提供するエンジニアリング会社だ。この工場跡地には変電所がすでに設置されており、新たに電力システムを作るのには都合が良い。
だからこそ、米子工場は単なる自動車の生産だけにとどまらないという訳だ。生産工場内をスマートグリッドとしての実験を含めた電力の平準化に取り組む。ナノオプトは電気自動車を主体とするベンチャーであるからこそ、スマートグリッド時代の電気自動車の位置付けを、実験を通して把握でき、イニシアティブを握ることができる。
ナノオプトグループの代表でナノオプトニクス・エナジー代表取締役社長も務める藤原洋氏 |
これまで電気自動車はスマートグリッドシステムの中で、蓄電池としての応用しか語られてこなかった。今回、ナノオプトの代表取締役社長の藤原洋氏は、インターネットを通じて電気自動車と連携することを考えている。ただし具体的なイメージはこれから検討していく。
この工場の敷地は7万4000m2。内部にある変電所は電力会社からの火力・原子力による電力を取り入れたうえで、変電所で電圧を落とし、工場内で再生可能エネルギーを発生させる。敷地内に風力や太陽光、水力など再生可能エネルギー源を設置し、それらと工場内の電力の一部を賄うことになる。
マイクログリッドは身近な地域の電力を賄い、できるだけ火力による電力すなわちCO2発生を減らすことを狙っている。いわば電力の地産地消という訳だ。太陽光発電は3MWの規模でおおよそ3割の電力を賄えると見ている。しかも鳥取県は風力発電が盛んで、「再生可能エネルギー発電では日本で第2位」と鳥取県知事の平井伸治氏は言う。
スマートグリッドは双方向ネットワーク
ここで、スマートグリッドとマイクログリッドを定義しておこう。スマートグリッドとは日本語で言えば、賢い送電網ということになる。送電網は英語でパワーグリッドと呼ぶ。送電網はこれまで、発電所から数十万Vという高電圧で電力を各地に配電し、家庭やオフィスに行く前に数十万Vから数千Vに落としておく。さらに数千Vから100Vあるいは200Vに落とし家庭やビルに届けている。いわば一方通行だ。発電所から変電所までは従来と同じであるが、電圧が数百Vまで落とした配電網ではまるでイーサーネットのようにネットワークを構築する。もはや一方通行ではない。このイーサネットのようなネットワークをスマートグリッドと呼ぶ。配電範囲は数km四方に渡り、こういったスマートグリッドネットワークは地域ごとに構成されることになる。このネットワークの中に太陽光発電や風力発電、蓄電池などの発電、蓄電設備を持つことになる。
マイクログリッドは、地域というよりは1つの工場やマンション、ビル群などを単位とする、さらに小さなネットワークだと理解しよう。マイクログリッドネットワーク内もスマートグリッドと同様、太陽光発電所や風力発電所などを持つ。
スマートグリッドでは、今どこで電力がいくら使われているか、どこが余っているか、蓄電池はためる能力があるか(満充電なら充電できない)、などを検出し、ITネットワークを使って電力をどこへ供給すべきかを決め、送電する。この検出器の1つがスマートメーターである。スマートメーターが単なる無線メーターと違うのは、MACアドレスあるいはIPアドレスを持っていて、どこに電力を送り出せるかを決める能力を持つことである。従来の無線メーターは電力をどのくらい使ったかを電力会社に知らせるだけの機能しか持たない。スマートメーターは、電力量を検知して、もっと供給してもらうのか、今は要らないのか、を知らせると同時に最適な電力量に保つためのセンサの役割を果たす。
ここでは、蓄電池も重要な役割を果たす。電池がない場合はネットワークの中で、電力を必要とする所があればその部分に電力を優先して供給し、いわば電力を融通しあうような制御をしていた。しかし、電力が余れば捨てざるを得なかった。現在、太陽電池の導入に電力会社が消極的なのは、太陽電池で発生し余った電力を架線に戻せなくなると捨てているからである。畜電池があれば、余った場合には電力を貯め、不足する場合には蓄電池から電力を供給する。電力の有効活用には蓄電池はマストだ。
ネットワーク、EVのシステム作り着々と
今回ナノオプトは、マイクログリッドのIT系のシステムを開発するため、ユビテックとも手を組んだ。この企業はビルのエネルギーをITで管理するためのシステム開発で実績がある。ユビテックはネットワークによる連携の仕組みをマイクログリッドに適用し、省エネしながら働きやすさも追求していく。同社でノウハウが蓄積されているCisco Systemsのプロトコルを使ったCFMS(Cisco Facility Management System)を基本プラットフォームとして工場内の発電設備、蓄電設備、オフィス設備などの電力を最適制御していく。
ナノオプトのChief Creative Officer(CCO)となった和田智氏 |
ナノオプトが力を入れている電気自動車の開発状況はどうか。この第一歩として、デザイナーを選任した。長年、自動車のデザイナーとして活躍してきた和田智氏とパートナー契約を結び、ナノオプトのChief Creative Officer(CCO)となった。
和田氏は15年間、日産自動車のデザイン、さらに98年から11年間アウディのデザインを手掛けてきた。現在は独立してSWdesignを設立、その代表となっている。同氏は、電気自動車を通じて環境問題の解決に貢献したいと抱負を述べる。同氏はアウディのデザインをドイツと米国ロサンゼルスで行ってきており、海外経験もある。
ナノオプトは、タイヤごとにモーターを取り付け独立した車輪でクルマを駆動するインホイールモーター方式の電気自動車開発を目指すSIM-Driveのプロジェクトにも参加する一方で、SIM-Driveの代表取締役社長であり慶応大学教授でもある清水浩氏もナノオプトの取締役として参加している。SIM-Driveの試作車は2011年には出てくる、と藤原氏はいう。ただし、SIM-Driveは量産しないため、インホイールモーター車が量産されるのはさらに1~2年以降になろうという。