ソフトバンクの100%子会社である「BOLDLY(ボールドリー)」が、バルト三国の一つであるエストニアからレベル4の自動運転車を導入、東京大学柏キャンパスで走行のデモを行った。BOLDLYはこれまでもレベル3相当の自動運転バスを茨城県境町で定期運航させてきたが、今回は運転手が搭乗する必要のないレベル4での走行となる。
レベル4では、遠隔監視が必要という制限の下で、運転手のいない自動運転が可能になる。このため、遠隔監視装置を自動運転車に取り付ける必要がある。今回、エストリニアのスタートアップである「Auve Tech(オーブテック)」社から導入した自動運転バス「Mica(ミカ)」(図1)に、遠隔監視装置「Dispatcher(ディスパッチャー)」をBOLDLYが開発、搭載した。この遠隔監視装置は、クルマの走行を監視するだけではなく車内も監視し、乗客の乗降状態を見ることができる。
BOLDLYがAuve Techのクルマの導入を決めたのは、BOLDLYの以下のような要求に対応してくれたからだ。右ハンドルで左側通行の日本のクルマ事情では、乗客がバスの乗降を繰り返すドアは車体の左側にある。Auve Techの自動運転車は運転手もハンドルも不要だが、日本の交通事情に合わせて左ドアに対応している。2017年から茨城県境町でBOLDLYが導入したフランスのNavya(ナビア)社の自動運転バスでは、進行方向に対して右ドアに作られていたため、自動運転バスといっても後ろ向きに走行していたという。
これに対して、Auve TechのMicaは左ドアに変更してくれたため、通常の前方方向に向けた運転ができるようになっている。Auve Techは2017年創業のスタートアップだが、エストニアの有名校であるタリン工科大学(Tallinn University of Technology)のプロジェクトからスタートし、カーディーラーをはじめさまざまな企業も巻き込んで一緒にコラボレーションしながら開発にこぎつけた。タリン工科大がこのプロジェクトの開発を決めたのは同大学が創立100周年を記念した行事だったという。すでに欧州や中東の10カ所で自動運転の実証実験として出荷している。もちろん、欧州向けの車体は全て右ドアである。
また、タリン工科大のキャンパス内でもIseAuto(イセオート)というブランド名で、走行させている。IseAutoはエストニアで最初の自動運転車で、キャンパス内ではVIP(国家レベルの来賓)の乗客をキャンパス内に乗せて運用させている。Auve TechのCEOであるJohannes Mossov氏(図2)によると、IseAutoはこれまで22台製造しているという。Mossov CEOによると、Auve Tech社の名称は、Autonomous Vehicle(自動運転車)のTechnologyの頭文字をとって名付けたとしている。
Micaには、LiDAR(Light Detection and Ranging)を7台、カメラを全部で8台搭載しており、それによってクルマの周囲360度を検出している。1台のLiDARは90度程度しかスキャンしないため、前後左右に取り付け、クルマとしての死角が生じないように周囲をグルリと360度の周囲物体を検出している。BOLDLY社代表取締役社長兼CEOの佐治友基氏によると、従来のLiDARなら30~60メートルしかカバーできなかったが、Micaは100~200メートルをカバーできるため検出能力は高まったとしている。しかも冗長構成をとっており、信頼性と安全性を高めている。
Micaは8人乗りのバス仕様になっており、1回の充電で20時間走行できるという。また北欧のエストニアらしく、北海道の冬道でも走ることができる仕様となっているという。
Micaに搭載されている遠隔監視装置「Dispatcher」にはカメラ画像処理回路や通信モジュールなどを組み込んでおり、この装置に搭載しているソフトウエアはOTAでアップデートできる。基本となるOSには日本のティアフォー(Tier IV)社のAutowareを使ったとしている。BOLDLYの佐治社長は自動運転のAWS(Amazon Web Service)になりたい、という野心を持っている。
柏キャンパスでのデモの後の各社のスピーチでは、茨城県境町の橋本正裕町長(図2の左から2人目)は「境町には高齢者が多く移動手段に不便を感じていたため、最初の自動運転車をNavya社から導入し公道で実証実験をやってきた。今年の秋には境町の行動でMicaが走るようになる」と期待感を述べた。また、Auve TechのMossov CEOは「エストニアには日本と違って車を製造するノウハウがなかったが、今や世界最大の自動車大国の日本にクルマを売るとは思ってもいなかった」、とクルマを出荷できた喜びを語っている。さらに、境町だけではなくほかの日本の自治体にも出荷したいと期待している。