自動車に搭載されるECUの数はますます増えるという傾向から、ようやくECUをいくつかにまとめてその数を減らし、ワイヤーハーネスを「スパゲッティ状態」からすっきりさせようという方向に向かってきた。
ECUという機能をまとめてドメインとするドメインアーキテクチャと、ワイヤーハーネスといった配線ケーブルをまとめてすっきりさせるようなゾーンアーキテクチャに向け、NXP Semiconductorは、車載マイコン「S32Z」と「S32E」を発表した。
「2022年以降、日本の顧客がドメイン化に向かっている。2025年以降のプラットフォームへの搭載を目指している」。こう語るのは、NXP Semiconductorの日本法人であるNXPジャパンオートモーティブマーケティング本部車載マイクロコントローラ部部長の山本尚氏(図1)だ。機能ごとのドメインアーキテクチャ、場所ごとのゾーンアーキテクチャと分けて考える。今回発表したマイコンはどちらにも向くが、ゾーンをまとめるマイコンは性能的にはドメインよりも低くてよいだろうと見る。
この2つのマイコンは何が違うのか。S32Z2は、仮想化を前提としたマルチコアのマイコンであり、ドメインでもゾーンでもいずれにも使えるコントローラである(図2)。S32E2は、アナログやNOR型フラッシュメモリなどをマルチチップで搭載している。後者は複数のアクチュエータをまとめるための各種タイマーをアナログICとして集積している。ただし、S32Z2は、マルチコアの1チップマイコンではあるが、顧客によってNORフラッシュ容量を高めたいといった要望にも応えられるように、マルチチップを搭載できるパッケージに入れているという。
S32E2にも集積されるマイコンS32Z2は、Arm Cortex-R52を8コアと制御するためのCortex-M33を2コア、さらに最大19MBのSRAMと最大64MBのフラッシュメモリ、LPDDRメモリ用のインタフェース回路、DSP/MLプロセッサ(AI処理)、セキュリティ用のHSE(ハードウェアセキュリティエンジン)、通信エンジン、TSN(Time Sensitive Network)スイッチ、各種タイマー、逐次比較型A-Dコンバータ、各種通信インタフェースを集積している。
集積しているArmのCPUコアは冗長構成で使うことを前提としており、標準的にリアルタイムコアとしてCortex-R32を4コアとそれらの制御用にCortex-M33コアを1つのシステムとして使い、残りの4コアのCortex-R52と1コアのCortex-M33は冗長構成で使う。今後S32Z2よりも簡易にしたS32Z1には合計4コアのCortex-R52を集積した構成だが、1システムには2コアのCortex-Rコアを使う冗長構成となっている。もちろん制御用のCortex-M33も集積する。
マイコンのハードウェアは図2の構成だが、複数のECUをまとめるのは仮想化技術である。つまり4個のR-52 CPUコアを動かしながら、例えば2個の仮想マシン(VM)にタスクを分ける例が図3である。2個のVMにタスクを分ける役割がハイパーバイザ(ソフトウェア)である。従来なら5種類のECUで行っていた機能を2台の仮想マシンで行うという例を示している。2台の仮想マシンを実現するのが1個のドメインマイコンS32Zである。この仮想化技術により、最大16個のアプリケーションソフトウェアを動かすことができるという。
これらは主として制御系のECUをまとめることを狙っており、例えば前方に障害物を発見した時に自動的にブレーキをかけたりハンドルを回して徐行しながら回避したりするように制御しなければならない。事故を回避することを目的とした即時のリアルタイム性が求められるため、Cortex-Rシリーズを採用した。
性能的には、マイコンとしては微細な16nmプロセスノードを使って製造されており、クロック周波数は600MHz~1GHzと高い。将来は5nmプロセスノードで製造する製品も開発する。
ワイヤーハーネスをまとめるだけならSerDes(直並列変換)で多数のワイヤーを1本に束ねることもできるが、それだけでは、これからのOTA(Over the air)によるソフトウェア(ファームウェア)の更新やさまざまなECUの管理を行う中央コンピュータが必要になる。しかし、この程度の処理では中央コンピュータは大きすぎるため、やはりマイコンで管理や制御するのが都合がよい。だからゾーンアーキテクチャのマイコンが必要だと山本氏は述べている。
山本氏は、ハイパーバイザで仮想マシンを動かし、わずか1個のマイコンで数個のECU機能を実現するS32Z2/E2マイコンの手法こそ、ソフトウェアで定義されたクルマ(Software-Defined Vehicle)だと強調している。