中国の電気自動車大手のBYDの日本法であるBYDジャパンが、電気自動車(EV)のバスを2車種投入すると発表した。日本の市内小型バス仕様の「J6」と、大型バス仕様でフルフラット型の「K8」という形のバスである(図1、2)。
同社はすでに日本市場に合わせた全長7mのJ6、同10.5mのK8を、それぞれ2020年、2021年から納車してきた。それ以前に、中国仕様のEVバスを2015年から納入してきたが、今回新型のJ6とK8によって日本仕様に直してきた。2015年の初参入以来、これまで累計で64台を出荷・納入してきた。
今回の新型J6とK8は、共にバッテリを新しくした。BYDはもともとバッテリメーカーとして実績がある。今回は、従来から実績のあるリン酸鉄リチウムイオン電池(正極にLiFePO4を用いる)を改良した。リン酸鉄系のリチウムイオン電池は結晶構造が壊れにくく、安全性が高い。しかしエネルギー密度が低い上に充電電圧も低い。このためEVで使うには直列接続して200~450Vに昇圧する必要があるが、電池セルの本数がたくさん必要になる。
一般にEVでは、床一面に電池セルを敷き詰める方式の車台プラットフォームを用いるようになってきている。この方式では、電池セルを数十本まとめてバッテリモジュールを作り、さらにそのモジュールを10台程度接続して1つのバッテリパックを構成している。しかもセル1個ずつ充電時のバラつきを補償するため、バッテリモジュールをBMS(バッテリ管理システム)で制御している。過充電を避けるためだ。過充電にあると体積が膨張して発火の危険がある。
EV用に使われている三元系(CoNiMn:コバルト・ニッケル・マンガン)の正極だとBMSは必須であり、コストがかかる。しかしBYDのリン酸鉄系の正極だと安全性が高いがエネルギー密度は低いため、比較的安全である。ただし、航続距離を長くできないという問題があった。
そこで、BYDはモジュール方式をやめセルをバッテリパックに高密度で実装できるようにしたため、バッテリパックの空間利用率は従来車より50%高まり、エネルギー密度を高めることができたとしている。この新方式をブレードバッテリと呼んでいる(図3)。この結果、従来のJ6だと105.6kWhのバッテリ容量だったが、新型は125.7kWhと大きくなり、航続距離が従来の200kmから220kmへと長くなった。またK8でも従来287kWhのバッテリ容量が新型では314kWhに上がり、航続距離は250kmから270kmに延長できた。釘刺し試験や高温試験などの信頼性試験をクリヤしているという。
日本方式は他国とは充電方式が異なるCHAdeMO方式を取っている。今回の新型バスは日本仕様1本に合わせた。従来の日本でのバスはCHAdeMO方式とType2方式との2本立てだった。日本ではバスのような営業車は、車庫でしか充電できなかった。このためEV営業車は普及しなかった。しかし、日本でもようやくEV需要の機運が高まってきたため、日本独自のCHAdeMO方式に絞り日本車仕様を採用することで受け入れられやすくした。
中国でもBYDはEV車を生産しており、バスだけではなく乗用車やタクシー用のクルマも生産している。しかし、日本市場では乗用車やタクシー産業には参入しないとしている。日本市場で2030年までに累計3000台のバスの出荷を目指す。この強気の目標は、需要が伸びると見ているためで、日本でのCO2排出削減の動きも追い風になっている。