電気自動車(EV)では、動力となるパワートレイン部分でECUからドメインコントローラへと高集積化が始まりそうだ。Texas Instruments(TI)は、EVのパワートレインでドメインコントローラシステムへ移行することで軽量化と低コスト化を実現しようとしている。軽量化はもちろん走行距離の延長化につながる。ECUからドメインコントローラへの流れは止まらない。

この流れはEVに限らない。従来の内燃エンジン車やハイブリッド車ではECUの数はかなり増えてきており、ECUだけではなくそれらをつなぐ配線部分までも重量が増す方向にきている。自動車は走行の安定化を前提とする軽量化はできるだけ進めたい。燃費改善からの要求が強いからだ。EVでも走行距離の延長化は同様となる。そこで、機能が近い部分のECUをいくつかまとめてドメインコントローラとすることで軽量化と低コスト化を図ろうという訳だ。

EVでは、モーターを駆動させるインバータにSiCやIGBTなどのパワートランジスタは必須だが、EVで必要な半導体はそれだけではない。バッテリを数十、数百個並べて300~350Vの高電圧にするため、バッテリマネジメントシステム(BMS)に加え、300V以上の高電圧からADASやコックピットと呼ばれる新しいインパネシステム向けの3.3Vや1.2V、5V、12Vなどの電圧を創り出すDC-DCコンバータもいる。また、回生ブレーキを使うためのオンボードチャージャー(OBC)も欠かせない。少なくともこれらの機能はEVでは不可欠な機能だ(図1)。

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    図1 EVに欠かせない機能をドメインコントローラで高集積化する (出典:Texas Instruments)

これまでは、BMSやDC-DCコンバータ、OBCはそれぞれECUとして構成されていたが、これらを集積してできるだけ1つの筐体やドメインコントローラで、BMSとDC-DCコンバータ、OBC、インバータを実現してしまえば、EVに欠かせない標準的なプラットフォームになりうる。BMSはできるだけ多くのバッテリセルを均一化するために必要だからバッテリパックの中央に位置する可能性が高いが、それ以外の機能はモーターの近くに置けばドメインコントローラとして自然の高集積化がしやすくなる(図2)。

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    図2 ドメインコントローラの一例。PDUは配電ユニット (出典:Texas Instruments)

そこでTIは、少なくともDC-DCコンバータとOBCを1つのドメインコントローラにする2-in-1か、DC-DCコンバータ+OBC+インバータを1つのドメインコントローラとする3-in-1のシステムを提案している。図3は3つの機能を1つにまとめる3-in-1ドメインコントローラ機能の例だ。

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    図3 TIが進める3-in-1のドメインコントローラ (出典:Texas Instruments)

OBCは、回生ブレーキで電力をバッテリに返すための充電機能である。EVのブレーキを踏んで、エンジンとなるべきモーターを止めても、モーターは回転しているため、その電気エネルギーで交流電力を発電するため、それをバッテリに充電する。そのためには交流を直流に変換しなくてはならない。いわばAC-DCコンバータの役割をする。DC-DCコンバータもAC-DCコンバータもどちらも電源であるから1つの箱に納める意味はある。ここでは3.3kW程度の回生ブレーキによる充電回路を想定している。ここにGaNトランジスタを使い周波数を上げることで磁気回路を大きく減らすことができるとしている。

しかし、インバータは直流の回路からモーターを動かすため、交流を作るようなものだ。しかも数10kWの大電力を発生するため、IGBTやSiCなどのパワートランジスタを必要とする。パワートランジスタを駆動するためにはゲートをドライブする高電圧トランジスタが必要となる。そのドライブトランジスタをマイコンなどのロジック信号で動かす。

EVに欠かせないこれらの技術はこれまで、それぞれECUを作って構成していたが、これをまとめてしまおうという考えがドメインコントローラだ。個別にECUを作らなくて済むため、各作業のコストを考慮して最大50%のコストダウンを図れるとTIは見ている。バッテリマネジメントシステムは、バッテリのそばに配置するため、1カ所にまとめづらいが、それ以外の機能は1つにまとめられると見ている。図3は3つの機能をまとめる3-in-1の提案だが、インバータは冷却が複雑になるため、TIはOBCとDC-DCコンバータだけをまとめる2-in-1も提案している。

TIはマイコンC2000を、DC-DCコンバータとオンボードチャージャー、インバータを制御するドメインコントローラの中核と位置付けており、モーター制御のアルゴリズムはインバータからドメインコントローラに移すことになる。また、オンボードチャージャーやDC-DCコンバータの閉ループコントロールアルゴリズムをドメインコントローラに移すことによって、1つのC2000でこの中の制御を一手に担う。

TIは、中国のティア1サプライヤV-MAXに2-in-1を提案しており、11kWのオンボードチャージャーと、DC-DCコンバータを搭載しているという。上海のAuto Expo 2021に出展したとしている。