電気自動車(EV)が思いの外、実用化が早まっている。日本の自動車メーカーも相次いで発売を開始した。三菱自動車工業は、この7月から4人乗り小型電気自動車「i-MiEV」を売り出しており、7月末から納車も始まった。一方、富士重工業もこの7月から、4人乗り小型電気自動車「スバル プラグイン ステラ」を発売した。いずれもリチウムイオン電池を搭載、電気モータを動力として車輪を回す。そして、8月2日には日産自動車も電気自動車「リーフ」を発表、2010年度までに量産化することを表明している。
i-MiEVとステラ、この両者のスペックを比較すると興味深いことがわかる。共に車体の大きさはほぼ同じ(以下の表参照)。ガソリン車のエンジンに相当するリチウムイオン電池とモータの性能によって、走行距離や性能に差がある。10・15モード充電走行距離はステラは90kmながらi-MiEVは160kmと長い。反面、モータの最高出力はi-MiEV、ステラ共に47kWと同じ。最高トルクは、i-MiEVが180Nmに対して、ステラは170Nmとほとんど同じとなっている。リチウムイオン電池を直列に並べ電源電圧を高く上げて使う訳だが、電源電圧はi-MiEVが330V、ステラは346Vとほぼ同じ。バッテリの総電力量はi-MiEVが16kWhと大きいが、ステラは9kWhしかない。価格はi-MiEV が459万9000円、ステラは472万5000円となっている。
単位 | 三菱自動車工業 | 富士重工業 | 日産自動車 | |
---|---|---|---|---|
車名 | i-MiEV | プラグインステラ | リーフ | |
全長 | mm | 3395 | 3395 | |
全幅 | mm | 1475 | 1474 | |
全高 | mm | 1610 | 1660 | |
重量 | kg | 1100 | 1010 | |
10・15モード充電走行距離 | km | 160 | 90 | 160 |
バッテリ | リチウムイオン | リチウムイオン | リチウムイオン | |
総電圧 | V | 330 | 346 | |
総電力 | kWh | 16 | 9 | 24 |
最高出力 | kW | 47 | 47 | 80 |
最大トルク | N・m | 180 | 170 | 280 |
充電時間(100V) | 時間 | 14 | 8 | |
充電時間(200V) | 時間 | 7 | 5 | 8 |
専用急速充電(80%) | 分 | 30 | 15 | 30 |
価格(税込み) | 円 | 4,599,000 | 4,725,000 | 2010年末発表 |
その一方で、充電時間は100V充電では大きく違う。i-MiEVでは100V充電で14時間かかり、200V充電は5時間で済む。一方のステラでは100V充電は8時間、200V充電は5時間となっている。また、専用の急速充電器を使う場合、満充電の80%までi-MiEVが30分かかるのに対して、ステラは15分で済む。
両社の性能を比べてわかることは、モータの出力は両者とも同じ程度だが、バッテリの出力はi-MiEVの方が大きいということだ。富士重工がリチウムイオン電池の容量を減らして充電時間を減らしたのに対して、三菱はリチウムイオン電池の容量を上げたことになる。その結果が法令で定められた走行距離である10・15モード走行距離の違いとして現れた。
以上の比較でわかることだが、リチウムイオン電池の容量がこれからの電気自動車の決め手になる。現在のリチウムイオン電池では、充電時間を短くしようとすると容量を少なくする必要があるが、その結果走行距離は短くなる。しかし走行距離を長くしようとすると充電に時間がより長くかかることになる。走行距離を長く、すなわち電池の容量(電荷量)を大きくしながら、充電時間を短くする技術の開発がこれからは求められることになる。 三菱と富士重工の電気自動車が発表された後、日産自動車も2010年度後半に発売予定の"リーフ"について8月2日に発表した。それによると、自社開発の新しい80kW・280Nmのモータを搭載し、総容量24kWhのリチウムイオン電池を搭載するとしている。この仕様は、i-MiEVやステラのモータのほぼ2倍近い性能のモータを使い、リチウムイオン電池の容量もi-MiEVの1.5倍も増やすことになる。走行距離は160kmを予定している。
このことから、日産の電気自動車はi-MiEVやステラのような軽乗用車タイプではなく普通乗用車タイプのクルマになり、価格も450万円よりもさらに高価になることが予想される。ただ、電気自動車はエコカー減税の対象となり、しかも補助金も交付され、消費者が支払う価格は200万円近く下がり、買いやすい金額にはなる。"リーフ"の価格は2010年末に発表される予定だ。
バッテリ交換も選択肢に
現在のリチウムイオン電池の充電技術では、充電時間がこれまで以上に長くかかることが予想される。そこで、日産は米国のバッテリインフラを推進する企業、Better Placeと提携し、バッテリ交換システムを導入することを決めた。Better Placeは、バッテリの充電にこれまで以上に時間がかかるためバッテリーをわずか1.5~2分で交換できるというシステムをガソリンスタンドのような施設に設ける。
バッテリ交換システムは次のように行う。クルマはバッテリ交換アームが収まった場所の位置に停車すると、地面に設置された扉が開き、交換アームが上昇、車体の下部に設置されているバッテリをつかみ取り出す。そして満充電された新しいバッテリを車体の下に代わりに取り付ける。この作業が1.5~2分というわけだ。
日産は自動車のガソリンスタンドのようなインフラを各国で設置するため、Better Placeを巻き込んで、こういったバッテリ交換スタンドの設置を続々と増やしつつある。2010年の電気自動車発売時期に間に合わせるためだ。英国やポルトガル、日本、米国などの政府や自治体30とパートナーシップを結んでおり、充電設備の設置や補助金・優遇措置の提供などを充実させる。また一方で、日産は"リーフ"において、エネルギー残量に応じた到達可能エリアや、充電ステーションの位置をモニタに表示するというITアシスト機能も付けている。
非接触充電も視野に
バッテリ技術では、非接触充電方式を自動車にも適用しようという動きがある。昭和飛行機工業は、電気自動車やハイブリッドカーの充電を非接触行える装置を設計製造している。コイルのインダクタ結合を用いて給電電源側とバッテリ側を交流的に接続しようというもの。このため交流電源を通じてインダクタ結合させた後は、交流から直流に変換する必要はある。
接触しないため、部品の摩耗がなくメンテナンスフリー、ショートや感電の心配がない、といったメリットがある。電気自動車用の1~10kW用から、電動マイクロバス用の30kW、バス用の60kW、路面電車用150kWのタイプを揃えている。給電側の1次コイルは絶縁体で保護されており、雨にぬれても作動できるため戸外に設置し、自動車側の2次コイルと対抗できる位置に停車すると充電できる。1次コイルと2次コイルとの間は10cmあれば充電できるとしている。