メモリビジネスを展開する米Micron Technologyは、今後クルマ市場ではDRAMもNANDも搭載量が増加していくだろういう見通しを明らかにした。クルマのECU(電子制御ユニット)をはじめとするカーコンピュータが高度になると共に多数使われていくと予想されているからだ。特に、自動運転に向けてADAS(先進ドライバー支援システム)が高度になるにつれ、プロセッサとメモリの数は間違いなく増えていく。同社組み込みビジネス部門の責任者たちにクルマにおけるメモリ市場について聞いた。

これまでクルマとメモリはあまりなじみがなかった。ECUと言っても、クルマでは制御命令を多用するマイコンが中心の応用が多く、これまで演算命令はさほど必要がなかったからだ。制御に使うECUでも、もちろんメモリは、ある程度は必要だが、大容量なものはさほど必要でもなかった。

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    Micron Technology組み込みビジネス部門担当コーポレートVP兼ジェネラルマネージャーのJeff Bader氏

Micronは、コンピュータ分野だけではなく、クルマ、産業、民生、IoTなど組み込み市場もカバーしてきた。「組み込み市場は25年間やってきた。クルマ用メモリ・ストレージ市場では大きなプレゼンスを持っており、おそらくシェア1位のサプライヤーだと思う」と同社組み込みビジネス部門担当コーポレートVPでジェネラルマネージャーのJeff Bader氏(図1)は述べている。組み込みシステム市場では2018年の実績で5億個のデバイスを出荷してきており、工業用市場の累積では13億個のデバイスを出荷してきたという。

クルマのメモリをけん引するのはADAS

今後、クルマ市場ではADASシステムが高度になり、人物やクルマ、自転車などの検出にカメラと併せてAI(ディープラーニング)が使われるようになると、メモリ(DRAM)は多用される。現在のクルマのADASは、まだレベル2程度までしか達していないため、DRAMはまだ1~2Gビットと集積度は低い。しかし、これからレベル3や4になると、4~8Gバイトが求められるようになり、不揮発性であることも要求されるようになる。自律運転はレベル4以上だから、自律運転が本格化するともっと増えるだろうという。ストレージでも例えばNVMeインタフェースのSSDでは1Tバイトが使われるようになるという。

ADASでは、メモリ容量が必要になるだけではない。最大の動機はバンド幅だという。クルマに搭載されたセンサからのデータ量が増え、AIのアプリケーションが増えるため、データを高速に転送する必要が生まれてくる。クルマのコンピュータは時速60マイル(約96km/時)で走っている状態で判断しなければならないからだ。このため、メモリ容量とバンド幅の2つの性能が求められる。

DRAMはGDDR6がベストアンサー

Micronはすでにバンド幅が18GbpsのGDDR6をクルマ産業に導入しており、完全自動運転時代には16GB/sになるだろうとしている。HBM2(High Bandwidth Memory)の可能性はどうか。Micronは今のところ、HBM2もメモリ容量とバンド幅を満足できるが、チップを重ねてTSV(Through Silicon Via)で接続するといったパッケージング技術が複雑になるため、当分GDDR6がベストアンサーだという。

自動運転車は、無人のロボットタクシーから導入が始まるだろうと業界では見られているが、そのためには消費電力の小さなAIチップが必須で、PCゲーム機に標準的に使われているGPUはクルマには消費電力が大きすぎて不向きとされている。使う場合には、負荷の最適化が重要で、消費電力と性能とのバランスを、CPUとGPU、アクセラレータなどと図りながら使う必要がある。ただ、将来、数100GB/sのような超高速のバンド幅が求められるのならHBM2の出番があるかもしれないと語る。

クルマ用半導体の市場はどのくらいか。Bader氏によれば、DRAMとNANDを合わせると、2019~2020年では年間30億ドル程度だろうと見積もられるという。「この市場の内、大雑把にいえば60%がDRAMで40%がNAND」とBader氏は見ている。AIのワークロードを考えるとDRAMが多用されることになろうが、5G時代になると、車内用SSDやストレージも増えてくるので、クラウドとの接続も含めて考えると、NANDの方が増え方(ビット成長率)は急になるかもしれないという。それはソフトウェアのコードが増えるからだとしている。この時代には、OTA(Over the Air)によるソフトウェアの更新が一般的になってこよう。

クルマのセキュリティにはNORフラッシュ

同社同部門のセグメントマーケティング担当シニアディレクタのAmit Gattani氏によると、IoTやクルマではNORフラッシュも高速性能ゆえに使われるようになる。すでにいろいろなクルマにECU、カメラ、インフォテインメントなどが搭載されているわけだが、すべてNORフラッシュも使われている。

特にMicronが最近発表したセキュリティモジュール「Authenta」は、セキュアブートが必要なため、NORフラッシュで構成しているという。Authentaはシステムを守るためのセキュアプラットフォームで、Security as a Service(SaaS)プラットフォームと呼んでいる。IoTのようにさまざまな組込機器がインターネットとつながるようになると、サイバー攻撃の標的になりかねない。しかし、コンピュータシステムの顧客と違い、組込機器の顧客はセキュリティソリューションがどう保護しているのか知らない。コンピュータ企業はセキュリティ対策のベネフィットを熟知しているが、IoT企業はセキュリティ対策の必要性を知らないため啓蒙してマインドセットを変える必要がある。

コンピュータは起動する時にセキュアブートをかけて、まずシステムが安全かどうかを確認する。クルマも同様で、エンジンを起動した時にカーコンピュータが安全になっているかどうかをセキュアブートが確認する。このため、セキュリティ動作の最初の確認であるセキュアブート時間がかかればドライバーはいらいらするため、ここでは高速性が不可欠だ。このためには確認用のソフトが格納されているストレージが即動作しなければ意味がない。このためNORフラッシュが使われている。

もちろん、クルマのストレージにはNANDフラッシュがメインだが、セキュアブートのようなセキュリティチェックにはNORフラッシュが望ましい。

3D Xpointはユースケースを検討中

MicronはIntelと次世代メモリ「3D Xpoint」の開発を行ってきたが、クルマ用途ではどのようなユースケースが望ましいのか検討中だという。IoTデバイスやサーベイランス、エッジプロセッシング、クルマでは高速性を要求される分野を検討している。NVRAMをはじめとするストレージクラスメモリはDRAMよりも遅くても良いのか、と言われるとノーと言わざるを得ないという。3D Xpointメモリも同様であるため、ユースケースを検討する必要があるという訳である。