クルマのECU(電子制御ユニット)は、高級車で80~100個、大衆車で30~40個ほど搭載され、その数は年々増加傾向にある。これ以上増えたらECUだけではなくワイヤーハーネスも総延長が長くなり、結果としてクルマが重くなる。クルマの高性能化手法として、ECUを増やさず機能を増やすのにどうしたらよいか。この課題を解決する手段の1つが「ドメイン」という考え方だ。ドメイン1個がECUを数個束ねるのである。ここでは、ドメインを制御するハードウエアとソフトウエアが必要となる。BlackBerry QNXは、ドメインをコントロールするソフトウエアプラットフォームとして、音や音響関係のECUを束ねた音響管理プラットフォーム3.0を、同社が東京で開催した「BlackBerry QNX TECHForum」で発表した。

  • BlackBerry QNX

    図1 BlackBerry Technology Solutions, Sales and Business Development担当のSVP兼共同代表のKaivan Karimi氏

ECUが乱立しすぎると、重量の問題だけではなく、コネクテッドカー時代にはサイバー攻撃にさらされやすくなる。このため、外部から通信するゲートウェイに相当するECUを1本化し、ここに認証用のセキュアマイコンなどを入れ、ここからインフォテインメント系や車両系のECUを束ねたドメインへとつなぐ、という発想が出てくる。各ドメインはいくつかのECUを束ねており、セキュリティの観点からドメインごとにセキュアマイコンで認証しておく。

こういったドメインのコンセプトを音や音響、音声などのECUに適用し、それを制御するソフトウエアプラットフォームが、BlackBerry QNXが発表した「音響管理プラットフォーム3.0」だ。また、ハードウエア(半導体)としてもSoCやマイコンではマルチコア化が進み、仮想化技術も使われるようになってきた。こういったマルチコアプロセッサは、ドメイン制御に向いている。

なぜ音響や音声の処理にドメインを使うのか。すでにクルマでは、エンジン音を打ち消すためにマイクロフォンでクルマの騒音を拾い、位相を180度反転させて打ち消すといったことや、アルゴリズムで打ち消し合うなどのシステムに1つのECUを使う。ドライバーの声が良く聞き取れない場合などに座席ごとに指向性のあるマイクとスピーカーで話ができるようなシステムに1つのECU、Bluetoothによるハンズフリーの通話するためのECUなど複数のECUを使っている。通常のオーディオやアラーム音/チャイム音、ウィンカーの音など音響/音に関したECUはこれまでは、それぞれ独立したECUとして設計されてきた。これを1台のドメインで賄おうという訳だ。

このドメインには制御するためのソフトウエアだけではなく、マルチコアのSoC半導体チップの開発も必要で、半導体関係企業3社と2社のOEM(自動車メーカー)と共同で開発した、とBlackBerry Technology Solutions, Sales and Business Development担当のSVP兼共同代表のKaivan Karimi氏(図1)は述べている。

今回BlackBerry QNXが示した音響管理プラットフォーム(AMP:Audio Management Platform)3.0(図2)は、音声処理、車内のコミュニケーションの改善、エンジン音のノイズキャンセル、カメラや安全上の警告音、音楽を聴くオーディオなどの処理をすべてこのソフトウエアプラットフォーム上で実現する。車内のコミュニケーションの改善とは、例えばドライバーが話をしていても後部座席にいる人には良く聞き取れない場合があるが、マイクを各席の天井に設けて、聞きやすくする機能は大きめのワンボックスカーなどで威力を発揮する。これまでは専用のECUで処理していた。

  • AMP3.0

    図2 BlackBerry QNXのAMP3.0の主な機能 (提供:BlackBerry QNX)

このAMP3.0の最大のメリットは、クルマの配線や音響システムを簡略にすることであり、それは低コストにもつながっている。例えば、音声処理に従来は高価なDSPを用いて音響アプリケーションを実装しなくてもすむ。また、基本的なラジオから高級オーディオまでサポートしている。また、音の自動チューニング機能があるため、タイムツーマーケットを短縮できる。

開発した半導体チップは、1チップの音響処理用マルチコアSoCだ、とKarimi氏は述べている。ソフトとハード(半導体チップ)が組み合わさってできた新しい音響用のアーキテクチャ(図3)ともいえる。このドメインコントローラは、音に関するECUの機能をすべて盛り込んでおり、それをソフトウエア定義のオーディオ(Software Defined Audio)と名付けている。

  • Software Defined Audio

    図3 AMP3.0アーキテクチャ (提供:BlackBerry QNX)

このソフトウエアプラットフォームはティア1サプライヤに先行提供する形で、フィードバックをもらっているが、音声アシスタント企業からも興味を持ってもらえているという。今後のクルマでは音声でクルマとやり取りする音声認識技術が使われていくからだ。すでにGoogleやアマゾンなどはAIスピーカーで実績があるため、クルマ用でもAIスピーカー方式の命令がドライバーとのユーザーインタフェースとなりつつある。クルマ用にはノイズ環境下でも音声をきちんと認識するための音声ビームフォーミング技術も載せていくことになりそうだ。