コンサルティング会社であるアクセンチュアが、CASE(米国ではエースの複数を意味するACESと呼ぶ。Autonomous、Connected、Electric、Sharingの頭文字)の方向性などを整理し、「Mobility 3.0」という未来の絵としてCASEの先の世界を描いていることを明らかにした。
自動車がCASEという言葉で表現されたり、自動車産業の未来はここのところ、MaaS(Mobility as a Service)という言葉が登場するなど言葉遊び的な様相を見せている。Mobility 3.0の世界は、「ハンドルのないクルマと交通事故がない社会」、「移動の必要がない新たなライフスタイル」、「渋滞から開放されたメガロポリス」、「不動産ビジネス化するモビリティ」、「無料モビリティサービスの普及」という5つで描かれている。しかし、Mobility 2.0と3.0の定義は不明瞭で、明らかにされていない。ちなみにMobility 1.0を従来の自動車産業としている。
MaaSという言葉もバズワードの1つになっている。Mobility 3.0とMaasSとの違いも明確ではなく、要は未来のクルマが及ぼす社会の変化をMobility 3.0と考えているようだ。そうすると、Mobility 2.0はCASEということになる。つまりCASEの発展形としてクルマの未来がMobility 3.0になるようだ。
かつてインダストリ4.0の概念が出てきたときは、インダストリ1.0から4.0まで明確に定義されていた。1.0は蒸気機関の発明、2.0は電気・電力の使用、3.0はコンピュータ制御によるオートメーションであり、4.0はIoTを利用した自律制御と定義されている。3.0のコンピュータ制御では人間が機械に対して所望の動作するようにマシンをプログラムしていた。4.0は人間が介在することなく、不良品につながりそうな時は機械が判断して製造条件を自動的に変えることである。もはや人間は生産ラインに介在しない。定義が明確になっている。
CASEでは、Cのコネクテッドはe-Callサービスが欧州で開始され、交通事故を起こしても助かる命を増やそうとしている。またV2V(車車間通信)やV2X(車とインフラ間通信)としてクルマ同士やインフラ間をつなぐことで事故を減らそうとしている。AのAutonomousは文字通り自律化の意味であり、自動運転を指している。Sはカーシェアリングであり、ロボットタクシーやライドシェアを意味する。Eは電動化の進展だが、アクセンチュアは電子化すなわち半導体化も描いている。これらの内、Sだけがサービスで残りのCAEがテクノロジーに深く関係する。このCAEについて、米国ではACE(エース)としてクルマのテクノロジーを表現している。
元々CASEはDaimler社のDieter Zetsche社長が言い出した言葉であり、英語を母国語とする米国では、英語のかっこいい意味になるように順序を取り換えて、ACESと並び変えている。ACESは、エースの複数を意味し、テクノロジーだけの部分はエースの単数、すなわちACEとして表現する。英語の略語はできるだけ、ポジティブな意味を持たせることが多く、意味のない略語は用いない。日本語ではサイバーフィジカルシステムをCPSと略するが、米国ではCPSと言っても通じない。米国のエンジニアとクルマの話題を交わすときにはAces(エイシスと発音)という言葉は日常会話的に出てくる。
アクセンチュアは、Mobility 3.0の世界と求められるビジネスモデルとして、通信、ハイテク、金融、電力の各分野を例に紹介した。通信分野との関係では、V2VやV2Xなどのコネクテッドカーが5G通信の普及と共に増えていく、という予測を示した。それによると、2020年に2900万台のコネクテッドカーが2025年には4800万台、2030年に9000万台、と予想している(図2)。5Gの目標である1ms以下のレイテンシの事例として、クルマの遠隔操作や自動運転の遠隔制御、隊列走行などを挙げている。
ハイテク分野では、クルマ産業そのものを例として、企画開発から電子部品、機械部品の製造、調達から、組み立て、販売までのクルマを作るプロセスから、クルマを利用するプロセス、すなわちメンテナンス、ファイナンス(ローンや保険)、社会インフラとの接続などのサービス提供までの一連の工程の中で、スマイルカーブのように企画/開発とサービスの提供領域が、もっと価値が高くなると予想している(図3)。例えば、Mobility 3.0の時代にはEV(電気自動車)に代わっているため、バッテリー寿命を考えてエネルギー用途への2次利用までの工程の中での価値の最大化を考えるビジネスが出てくるとしている。
金融分野では、銀行と保険、決済、証券と4つに分け、それぞれの機会を能動的に挑戦することが重要だとしている。銀行は、返済が滞った際に、位置情報や運転状況の把握から安全にエンジンを遠隔制御して停止したり、カーローンをカーシェアリングでの利益によって返済するスキームを作ったりするという利用シーンを描く。保険では、個人の生活データを保険商品に活用する、決済ではモビリティの利用履歴や行動ログを与信に利用する、証券では、モビリティで取得したデータを販売しその一部を証券化するなどの利用シーンを描いている。
さらに電力分野では、EVを動く蓄電池として捉え、電力の需給バランスの調整や電力系統との接続制約などをイメージしている。
これらのイメージはある意味、現在のCASEの延長であり、Mobility 3.0と言うほどの新しさは感じられない。キラーテック、ディスラプター、プラットフォーム、アジャイルエクセレンスなど従来から言われている言葉が先行しており、新しい未来の具体的なイメージは残念ながらまったく湧かない。結局、言葉遊びで終わっている感じを拭えず、Mobility 3.0の定義が明確に見えないことが、残念ながら新しさを感じない要因になっているのかもしれない。