5月20~22日、パシフィコ横浜で開かれた「人とくるまのテクノロジー展」では、ハイブリッドカー(HEV)と電気自動車(EV)に注目が集まっていた。自動車そのものは言うまでもないが、カギとなる大容量リチウムイオンバッテリ(電池)や、超電導モーター、大容量コンデンサなど新しい技術も出てきた。

HEVとEV

ハイブリッドカーは、トヨタ自動車の新型プリウスとホンダのインサイトが展示されるのはごく当り前だが、ハイブリッドカーの適用範囲が乗用車からバスやトラック、電車、さらにショベルカーやブルドーザなどの建設機械にまで広がっている。日野自動車の展示したバスは屋根の上にバッテリパックやインバータなどを載せている。ポスター展示には、実際に運行しているバスや電車なども示していた。コマツはハイブリッドショベルカーを商品化したが、展示はされていなかった。

電気自動車を展示したのは2社だけだが、三菱自動車は4人乗り軽自動車「iMiEV」、富士重工業はプラグインカー「スバルステラ」を展示した。共に軽自動車であり、現在、商品となっているハイブリッドカーのモーターを使っているだけにとどまる。本格的な電気の乗用車にはさらに大容量のバッテリ技術が必要となり、実現はもう少し先になる。リチウムイオンバッテリ、モーター、インバータ、バッテリ制御回路など、重要な技術を自動車各社は秘かに開発中だ。

富士重工のスバルステラ

三菱自動車のiMiEV

スバルテスラとiMiEVのスペック表

もっとも重要なのはバッテリ

もっとも重要な鍵を握るリチウムイオンバッテリを展示したのは日立製作所と日産自動車。ホンダとトヨタは展示していなかった。日立は、5月19日に発表した、エネルギー密度4500W/kgと同社前製品の1.5倍に高めた電池を展示した。この新型リチウムイオン電池の平均電圧は3.6V、電流容量は4.8Ahで、エネルギー容量は内部抵抗を減らすことで実現した。内部抵抗は、カソード電極(電池の世界ではカソードが正極となる)基板上のMn粒子の粒径をそろえ均一にし、さらに通電パスを最短にすることなどで低減を図った。この電極薄膜を均一化するためのノウハウを確立し量産のめどが立ったという。今秋にサンプル出荷を始める予定だ。日立は、これまでバスやトラック、電車(小海線)向けに累計で60万セルの円筒型電池を販売してきた実績がある。バッテリモジュールも展示していた。

日立製作所のバッテリパック

日産自動車は、2007年4月にNEC、およびNECトーキンと合同で「オートモーティブエナジーサプライ」を設立、リチウムイオンバッテリの量産化に取り組んでいる。しかしブースには説明員をおかず、これまで発表している内容にとどめている。大容量化には電池の内部抵抗を減らすことは基本であるが、正極には日立と同様、結晶構造の安定したMn系の電極材を使ったほか、電極内にも電気の通り道を作り抵抗を減らしている。電極材料が日立とは微妙に違い、電池の電圧は3Vだとしている。電気自動車の目標性能として最高速度140km/時以上、航続距離160km以上を掲げており、2010年秋にクルマを投入する計画だ。

自動車用の電源では、300~400Vの高い電圧と100A~200Aという大電流が必要なため、リチウムイオンセルを直列および並列に多数接続している。多数のセルを安定にするため、バッテリパック内のセルの充電状況を個別に管理し、常に安定な状態を実現するようにしている。異常時には個別に回路を切断するとしている。

日産自動車のバッテリパック

このほか、同展では展示していなかったが、4月14~16日に幕張メッセで開かれた「電源システム展」において、実は米Linear Technologyが自動車用リチウムイオン電池セルを12個接続する場合にセルの電圧を1個ずつ管理するためのICチップ「LTC6802」を展示していた。日産自動車の電源に同社のチップが使われているかどうかは明らかになっていないが、日産のニーズは同社のチップの特性と一致するため、使われている可能性はある。

12個接続したセルを1個ずつ管理するLinear Technologyの「LTC6802」

東芝が開発している、5分間の急速充電が可能で、6000回もの充放電可能な新型リチウムイオン電池「SCiB」のセルに関する情報とセルそのものの展示はあったが、自動車向けのバッテリは開発中として、展示していない。展示していたのは自転車用のバッテリパックのみ。東芝の"SCiB"はハイブリッドカー用と電気自動車向けの2種類を開発しているという。"SCiB"の電圧は2.4Vと、他社のリチウムイオン電池よりも低い。しかし、電池そのものがぶつかって損傷してもLiが漏れ出すことはなく安全性も大きなセールスポイントとなっている。他社が負極にグラファイトを使っているのに対して、東芝はチタン酸リチウムを使ったことによる。この材料はLiが減ると絶縁性になり、電気がまったく流れなくなるため安全なのだとしている。

東芝のSCiBバッテリパック(電動自転車用)

電池ではないが、ニチコンが容量1600F(耐圧2.5V)と極めて大きな電気ニ重層コンデンサ「EverCAP」を9本使い、耐圧20Vで容量170Fというキャパシタパックを展示した。電池と比べると容量はかなり小さいとはいえ、もはやコンデンサというより電池的な特性だ。電池と違って100万回充放電でき、応答速度も電池よりも速いため、ハイブリッドカーや電気自動車の回生ブレーキ用に瞬時に電気をためられるという特長がある。あるいはX-by-wireのバックアップ用としても使える。この大容量コンデンサ(キャパシタともいう)をリチウムイオンバッテリと併用すると効率よく電気を溜められる。

ニチコンの大容量コンデンサモジュール