最近はIntelやQualcommなど、かつてはクルマとまったく疎遠だった企業がカーエレクトロニクス市場に参入し、ますます力を注いできている。

これからのACES(Autonomous、Connectivity、Electricity、Sharingを寄せ集めた言葉:米国ではエーシスと発音し、「複数のエース」を意味する)というクルマのトレンドに向かってカーエレ市場が拡大するとみているからだ。これまでPSoCと呼ぶアナログ回路を含むマイコンに注力していたCypress Semiconductor(サイプレス)もその1社。CypressはNORフラッシュメモリのSpansion社を買収、旧富士通セミコンダクター(FSL)のマイコンとアナログの部隊も含む製品ポートフォリオを広げ、クルマ市場に注力し始めている。

米国のメディアではACESの内、テクノロジーに関係する言葉はACE(エース)であるから、ACEともいうことがある。CypressもACE(自動運転、コネクティビティ、電気化)というメガトレンドを捉えており、それらに共通するコンピューティング(演算)とコネクティビティ(通信)に力を注ぐ。コンピューティングではMCUとHMI(Human Machine Interface)、ストレージの製品ポートフォリオを揃え、コネクティビティでは、Wi-Fi、Bluetooth/Bluetooth Low Energy(BLE)、USBの製品ポートフォリオをサポートしている。しかも車載市場ではNo.1の製品をたくさん持っているという。同社はこのほど、クルマ市場に向けた製品ポートフォリオをユーザーにデモンストレーションし、メディアにも公開した(図1)。

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  • 図1 Cypressがクルマ用半導体を勢ぞろいさせたメディアデイ

例えば、クルマのフロントパネルにあるクラスタ向け(図2)には、Arm Cortex-M0とM4を集積しており、これに簡単なグラフィックス機能も内蔵したTreveoマイコンを用意している。クラスタ用マイコンのシェアは37%とトップをとっていると言い、これまではクラスタを液晶パネルに置き換え、視認性を上げることを目的としていた。ダッシュボードの液晶パネルで、アナログ式の針を表示するためには、フレームレートが高速でなければならず、60fpsのスピードに対応する。2.5次元グラフィックス表示できるうえに最大6ゲージの針を表示できるとしている。

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    図2 液晶パネルのダッシュボードをマイコンで動かす

また、マイコンであるからにはスリープモードを備える上にウェイクアップモードの立ち上がりも高速である必要がある。通常は32msの周期でウェイクアップ信号を0.5msで22.5mAを供給しており、スリープ時は0.13mAで待機しているため、高速に起動できる。

もちろんディープスリープで時計を動かすだけの時は80μAで眠っている。従来のマイコンはこれほど低消費電力ではなかったためにクルマを輸出する場合に、回路ボードのフューズを外し、バッテリの消費を抑えていたという。これからはインスツルメントパネルとインフォテインメントを統合する方向で、クラスタ向けマイコンをもっと強化する。そのためのTreveo 2は今年後半から積極的に使われる見通しで(図3)、コスト的に見合うCortex-Mシリーズを活用しグラフィックスなどの性能を上げていく。

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    図3 液晶クラスタパネルを動かすマイコンはTraveoからTraveo IIへ (出典:Cypress Semiconductor)

NORフラッシュでもクルマ用に誤り訂正回路を集積、加えて読み出し速度を上げるためのインスタントオンで400MB/秒という高速で読み出せるインタフェースを集積したフラッシュメモリ「Semper」を提案している(図4)。これは、45nmのMirroBit技術のNORフラッシュメモリアレイのデータを読み出すときにECC(誤り訂正回路)を通してデータを出力するため、確実なメモリ出力を保証する。さらに、前回の起動が正しかったかどうかをSafeBoot回路で確認できる、またフラッシュメモリセルの中で同じセルだけを何度も書き換えしないように、セル内を平均化するウェアレベリング機能もチップに集積している、といった信頼性を保つための回路をメモリ内に設けている。

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    図4 CypressはNORフラッシュに安心・安全機能や誤り訂正機能、インスタントオンなどクルマ仕様に設計 (出典:Cypress Semiconductor)

通信に関しては、Wi-Fiを利用してクルマ内を家庭のリビングルーム並みの雰囲気を味わえる空間が自動運転時代には必要となろう、との思いから、運転席でもリアシートでもオーディオやビデオを楽しめる雰囲気を提案している。今回は5GHzの802.11acおよび802.11ax(Wi-Fi 6)で、5チャンネルの音楽や映画をサラウンドステレオで楽しむことを提案していた。Wi-Fiであればワイヤーハーネスの重量を減らせるとの狙いもある。

スクリーンでのタッチパネルを超えて、天井やドアの取っ手部分に静電容量タッチ技術を使ったスライダや回転するボリュームのような操作感(図5)を提案している。基本はPSoCを使ったタッチ技術の応用で、天井にもスライダ式のタッチパネルを実際にデモしている。

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    図5 スライダや回転ボリュームのようなHMI操作盤をクルマの天井などに設置することを提案

以上のようなコンピューティングや通信、HMIといった、どの機能にも電源は欠かせない。電源ICであるPM(Power Management)ICでも新しい小型電源を提案する。例えば、クラスタパネル用ICや回路ボードでは、冬のような寒い時期にエンジンを始動するときにバッテリ電源が急激に下がり、ICが動作しなくなることがある。回路ボードには1.2V、3.3V、5Vなどさまざまな電圧が必要となるが、クラスタパネルではメモリの3.3Vまで落ちても許容するため、バック(降圧)とブースト(昇圧)を可能にするDC-DCコンバータを提案した。従来だと電源電圧が低下することに対してmF程度の巨大なコンデンサからの電荷供給で補う方式をとってきた。しかしこれは体積を大きくとるため、大きなコンデンサを使わなくても済むように、下がりすぎると昇圧し、常に5V、3.3VなどをキープできるようなDC-DCコンバータ回路を設計した。

Cypressは自分らの持つ半導体製品でクルマ市場を強化するように提案している。マイクロプロセッサや自動認識のAIチップなどポートフォリオにない製品群はコラボでエコシステムを構築していく。