計測器は一般にハイエンド製品だが、中でも宇宙航空・防衛などを主力とするドイツの計測器メーカー、Rohde & Schwarz社(ローデ・シュワルツ)が自動車産向けに乗り出してくる。無線通信技術に特化した同社にとって車載市場は極めて魅力的な市場に映っている。
Rohde & Schwarzは、無線通信に強い計測器メーカーであり、これまで宇宙航空・防衛以外でも放送局や映画製作にも実績を積んできた。最近ではサイバーセキュリティを臨むオンライン分野にも進出している。無線通信のハードウエアとソフトウエアを生かすためだ。
これから強化する自動車では、実に無線通信技術がたっぷりある。V2V、V2X、e-Call、GPS、LiDAR、レーダー、さらに5Gセルラーなど。加えて無線通信技術は有線通信のプロトコルや信号解析など共通する技術も多いため、車載EthernetやCAN-FDなどの新しい規格に対しても計測できる。加えて、クルマの環境はノイズだらけ。ノイズは不要な電磁波であり、EMCの評価計測にも同社は長けている。この自動車分野に対して黙って見ている手はない。
例えば、レーダーは自動運転の「目」の役割を果たす。しかも人間の目以上に濃霧や吹雪のような悪天候でも見えることを保証しなければならない。人間に目が2つあるように、クルマの目は2つだけに留まらない。後や横にも付けられる。車種にもよるが大衆車から高級車まで1台につき4~12個のレーザーが搭載されると言われている。それもInfineon Technologiesをはじめとする半導体技術の進展(GaAsからSi CMOSへ、2チップから1チップへ)によりコストを安くすることが可能になってきたこともレーダー数の増加を加速する。
今や、第5世代の28nm CMOSセンサチップが入手可能になり、しかもミリ波レーダーの広帯域化によって対象物の空間分解能が上がっている。飛ばす周波数を上げていく(あるいは下げていく)チャープ信号を利用することで送信受信の位相差から距離を測定できるため、高速のチャープ信号で距離の分解能を上げているが、干渉波の影響を受けやすい。このため分解能や干渉を正確に測定する必要性が高まっている。ここに、同社の測定器の出番となる。加えて、MIMO(Multiple Input Multiple Output)アンテナ、さらには今後、ビームフォーミングも加わることになれば、なおさらレーダー波の精密測定が求められるようになる。
それだけではない。車載となると、アンテナを保護するレドームでの反射やその塗料の影響も考慮しなければならない。アンテナを含めたレーダーシステムの工場での取り付け位置の最適化も必要となるため、レドーム状態での計測も欠かせない。また、車線変更アシストにもレーダーが使われているが、この評価も欠かせない。こういった評価を道路上で行うと時間も費用も掛かってしまうため、できるだけ工場内で簡単に評価できるようにしたい。
そこで、Rohde & Schwarzは、レーダー向けの測定器ソリューションを揃えた(図1)。これにはレーダーエコー信号発生器やベクトル信号発生器でレーダー信号を発射し、シグナル・スペクトラム・アナライザで受信・解析する。レーダーの反射測定には、電波暗室ならぬもっと小型の電波暗箱で行う。また、レドームでの反射がどの程度あるかどうかを測定するためのレドームスキャナーも揃えている。
オシロスコープで時間軸、スペクトラムアナライザ(スペアナ)で周波数軸の解析ができるため、両方を組み合わせて、最大5GHzの信号解析が可能になる。チャープ信号の周波数解析やリニアリティ解析に必要なソフトウエアも揃えているという。また過渡的なスプリアス信号を測るための広帯800MHzのリアルタイムスペアナ機能もある。
こういった測定器を工場や実験室で評価することもできる。レーダーエコー信号発生器を使って100m離れた状態の信号をシミュレーションする。信号発生器内部に遅延回路を設けているため(図2)、この機能を使い、自動車からのレーダー信号を近くで受けても100m離れた距離に相当させることができる。
レドームの定量的な評価には、車載向けレドームスキャナーを使う。被試験体のレドームを立てかけた1メートル離れた広いアンテナからレーダー電波を発射、受信する。アンテナには1200本のそれぞれ送信用、受信用のアレイアンテナを設置しており、分解能1mmでレドームの良否を判定できる。例えばレドームの真ん中にロゴなどを書かれていれば(図3)、レーダー電波はその部分で反射され発射されない。
車載用の無線通信では、欧州の規格委員会である3GPPが定めたリリース15で、5Gの規格が決まり、LTE-Advancedについても決まった。V2Xの機能拡張についても触れられており、今後5GのV2Xへの対応も進めていく。今年の第4四半期にはリリース16が発表される予定で、V2Xにも5G NR(New Radio)が導入される見込みである。