自動車や産業分野のソフトウェアに強いWind Riverがクルマの新トレンドACES(Autonomous、Connectivity、Electricity、Sharing)に沿った新しいソフトウェアプラットフォーム「Wind River Chassis(シャーシ)」に仮想化ソフトウェアも統合した。これにより、エッジコンピューティングだけではなく、クラウド利用のコンピューティング機能も1つのプラットフォームで提供できるようになった。

「Wind Riverは、顧客に価値を提供することにフォーカスしてきた」(日本法人のウィンドリバー代表取締役社長 Michael Krutz氏)ため、CAE(Connectivity、Autonomous、Electricity)のトレンドに向かい、ACRUE(accrueと同様アクリューと発音、accrueの意味はスケールアップしていくこと)という言葉で表現してきた。これは、Abstract(ハードウェア依存性を減らすこと)、Consolidate(個別部品による複雑性を統合化で減らすこと)、Reuse(文字通り、コスト削減と時間短縮のため再利用)、Update(素早く対応して変わること)、Extrapolate(他の分野の技術やビジネス手法などを取り入れること)の組み合わせである。

  • Michael Krutz

    図1 Wind Riverの日本法人の代表取締役社長に2019年1月1日付けで就任したMichael Krutz氏

Wind River Chassisは、8個のソフトウェア部品を集積したもの(図2)。元々の強みであるRT(リアルタイム)OSのVxWorksや、クルマ向けにVxWorksを統合し進化させたWind River Drive、それをフレームワークとして進化させた適応型AUTOSAR、自動車メーカーが無線によるソフトウェアアップデート(OTA)を可能にするWind River Edge Syncなどがある。Edge Syncはフォードがすでに使っている機能だという。さらに、仮想化を可能にしたWind River Virtualization Platformでは安全なコンテナと安全ではないコンテナを組み込むことができ、他社のソフトまでも組み込むことができる。また、Wind Riverは元々組み込みLinuxでは大手であるが、Wind River LinuxはオープンソースのOSとして提供するもの。顧客の開発に使うシミュレーションツールとしてのWind River Simicsと、ソフト開発のためのコンパイラがWind River Diab Compilerである。

  • Wind River Chassis

    図2 Wind River Chassisと8個のソフトウェア部品 (出典:Wind River)

このソフトウェア部品の統合化によって、セキュリティの評価や安全性の確認、さらにはWind River製品の使い方を教えたり、ユーザーの現場で支援したりすることもできるようになるという。

Wind River Chassisは、仮想化することで、VxWorksのシステム、Linuxシステム、セキュリティOSのシステムなど、いろいろなシステムを1本のソフトウェアフレームワークで実現できる(図3)。仮想化によって、ソフトウェアのアップデートをそれぞれのコンテナに応じて、別々にアップデートできるようになる。仮想化とは、1つのハードウェアの上に、ハイパーバイザによって、作業を振り分け、まるで複数台のハードウェアがあるかのように見せることだ。ハードウェアを減らしたい場合に威力を発揮する。

  • Wind River Chassis

    図3 Wind River Chassisの仮想化構造 (出典:Wind River)

仮想化を実現するのに向いたシリコンは、マルチコアプロセッサであり、それぞれの演算能力がかなり多く求められるようになるため、Intelにせよ、Armにせよ、ハイエンドなマルチマイクロプロセッサを使うことになる。顧客はECUやマイクロプロセッサを減らしたいという声が強いという。

今回、さらにクラウド、すなわちデータセンターともつなげることができる製品「Titanium Cloud」も統合した(図4)。これまでの車内向けだけではなく、ネットワークと産業機器が仮想化環境になる場合にも対応できるようになる。Titanium CloudはHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)やネットワーク分野のような厳しい信頼性やセキュリティ要件でも使えるように設計されている。

  • Wind River Chassis

    図4 Wind River ChassisはクラウドツールのTitanium Cloudも統合する (出典:Wind River)

Wind RiverはRolling Labにおいて、ホンダのオデッセイにこのChassisの新製品を組み込み実証実験を行っているという。米国のオハイオ州コロンバス市と協力して、自動運転からスマートシティに至るまでの実験を行い、米国政府から2億5000万ドルの支援を受けている。さらにTRC(Transportation Research Center)ともコラボレーションして、自動運転からスマートシティとのインタフェースに関する実験を行っている。このWind Riverのアーキテクチャを実装した実験である。

実用的な使われ方は、リアルタイム性が厳しい作業では、クラウドではなく、やはりエッジで処理を行い、さほどリアルタイム性が要求されない作業はクラウドで行うことが基本となる。ただし、クルマとクラウドとの距離が近い所では、近距離通信を使ってフォグコンピューティングな実験を行っている例もあるという。Titanium Cloudをモバイルに近い基地局に置き、リアルタイム性の実験も行っているようだ。すでに米国で2社がこの新製品を使った実証実験を行っているが、企業名は明らかにできないという。

昨年、Wind Riverは10年間一緒にやってきたIntelから独立し、他のプロセッサ半導体メーカーにも積極的に提案できるようになった。Wind Riverの目標としては、顧客の設計するクルマを真にインテリジェントにすることだとKrutz氏は述べている。