Infineonの車載マイコンの特徴は「セキュリティ」
独Infineon Technologiesの独自コアを搭載したクルマ向けマイクロコントローラ(マイコン)「Aurixファミリ」の採用が日本市場で拡大を始めた。
クルマメーカーがひしめく欧州市場ではAurixは確立されているものの、日本市場ではまだ実績が少ない。ところが、Aurixファミリのデザインインが日本で増えてきて、量産が期待できるようになり、しかもティア1サプライヤのデンソーがInfineonの株式の5%を出資するようになった。Infineonはこれから本格的に日本のクルマメーカーにマイコンの売り込みを図る。
Aurixの売りは何と言っても、セキュリティが組み込まれていることだ。クルマは今後、コネクテッドカーや自動運転、5G通信環境などの用途を中心に、インターネットを介してクラウド環境や通信基地局とつながるようになる。このためサイバー攻撃からクルマを守るためのセキュリティの確立は、絶対条件となる。Aurixには最初からハードウェアセキュリティモジュール(HSM)が組み込まれている。車内の通信はもちろんのこと、外部との通信に対しても、このセキュアモジュールで認証を受けてからでないとクルマの電子機器には入ることができなくなる。
しかもAurixは自動車用のセキュリティを規定した「EVITA(E-safety vehicle intrusion Protected applications)」のもっともセキュリティレベルの高い「EVITA Full」に準拠している。
EVITA Fullには、暗号化技術を盛り込んだ楕円曲線暗号アクセラレータやWhirlpool Hashエンジン、AES(advanced Encryption Standard)暗号化アクセラレータ、RAM、ROM、専用のセキュリティCPU、真性乱数発生器、疑似乱数発生器が含まれているという1)。同社Automotive Microcontroller担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーのPeter Schafer氏によると、Aurixにはすべてセキュリティモジュールを組み込んでいるという。
クルマのさまざまな部分で活用されるAurix
Aurixは、1999年に開発され、その後、継続して改良が進められてきたTriCoreと呼ばれるマルチコアマイコンがその源流である。DSPとRISC、MCUを集積した機能を持つTriCoreは2005年に生産を開始。その後、エンジン制御など向け32ビットのマイコンファミリを設けた後に、Aurixと名称を変え、2014年に生産を開始し、2018年末に40nmの組み込みフラッシュプロセスを採用した第2世代のAurixの生産を開始した。これまでのTriCoreとAurixの出荷数を合計すると2019年第1四半期時点で累計5億個に達するとしている。
これはAurixマイコンがクルマ用の幅広い用途に使われてきたからだ。クルマメーカーであるOEMたちが品質認定した用途としても、自動車内のさまざまな分野にわたっている。
自動車用半導体としては、機能安全いわゆるISO 26262(ASIL-D)に、すべてのAurix製品が準拠している。Aurix製品は第1世代も第2世代もそれぞれ、クロックが160MHzでフラッシュ容量1MBのローエンド品から300MHzで16MBのフラッシュを内蔵したものまで複数種類が用意されており、いずれもがISO 26262に準拠しているという。
これほど多数の製品を揃えられるのは、ソフトウェアの再利用を2世代にわたってフルサポートしているためのみならず、ファミリの性能やメモリ、周辺などの拡張性があるからだ。このため、パワートレインやEV用途だけではなく、シャーシ・安全性・ADASや、ボディ・コネクティビティなど非常に広い範囲で使われている。
Aurixの第1世代はエンジンやトランスミッションの制御に使われていたが、第2世代では1GbpsのEthernet通信インタフェースを集積し、制御だけではなくコネクティビティ機能も備えるようになった。それはいろいろなセンサ信号を取り込むセンサフュージョンのコントローラとしての成功にもつながったという。自動運転、ADASに必要なNVIDIAやIntelベースのシステムにコントローラとしてもAurixが入っているとSchafer氏は述べるほか、セキュリティのコンパニオンチップとしてもAurixは使われるとしている。
今後、コネクティビティをうまく利用してクルマのセキュリティを確保するための例として、まるでIoTのセンサシステムのように、ゲートウェイから各ドメインの制御に使うことなども考えられている。
ここではSOTA(Software over the air)のようにコネクテッドカーの外部からデータが入ってくる場合、外部との接続部分に堅固なAurixを配置し、そこで認証を行い、ゲートウェイを通して各ドメインECUに伝える。各ドメインの例として、ドライブドメイン、安全ドメイン、センサフュージョンドメイン、ボディドメイン、インフォテインメントドメインなどが考えられるが、各ドメインで認証する場合もあれば、認証せずにドメイン同士で通信することもあるという。
次世代となる第3世代Aurixは28nmの組み込みフラッシュプロセスを採用したものとなる予定で、現在は開発中の段階だという。
デンソーとの提携で日本市場へさらなる攻勢
また、インフィニオン テクノロジーズ ジャパンのバイスプレジデント オートモーティブ事業本部の神戸肇氏は、「日本でのクルマ用マイコンのシェアはまだ5%程度しかないが、最近は日本の顧客からAurixを使ってみたいと言われるようになったため、日本市場でAurixを本格的に展開するようになった」と日本での状況を説明。デンソーが2018年秋にInfineonに出資してくれた事実は、今後デンソーと戦略的パートナーになることを意味している。自動車のイノベーションは半導体からやってくることをデンソーはよく知っているのだろうという。
幸か不幸か、自動車用マイコンのトップメーカーであるルネサス エレクトロニクスは、このところ迷走しかかっているような動きが見られる。自動車向けにしっかりしたポジションを確保するのか、あるいは昔のようなデパート経営に戻るのか、フラフラしているように外部の眼からは映るのである。Infineonにとっては今が日本市場を広げるチャンスかもしれない。