クルマのエレクトロニクス化はますます加速しており、同時に確実にテストする必要も強まっている。ソフトウェアベースの測定器メーカーNational Instruments(NI)は、クルマのテストに力を入れており、同社のコアコンピタンスをどう自動車のテストに活かしていくのか。同社オートモーティブマーケティング部門の責任者であるJeff Philips氏に同社のテスト戦略を聞いた。

  • National Instruments, Head of Automotive MarketingのJeff Philips氏

    National Instruments, Head of Automotive MarketingのJeff Philips氏

クルマに、さまざまなデバイスが組み合わされるようになり、デザインサイクルはますます早くなっている。このため、テストはもっと早くできるようにしなければならない。「自動車のシステムでは、電気と物理そしてソフトウェアが重要な要素になり、これを1つのシステムに組み込む必要が出てきている」とPhilips氏は言う。

歴史的に自動車用部品は高い耐久性が求められるような特殊な仕様であり、テレビやパソコンなど他のエレクトロニクス製品とは大きく異なっていた。今は、すべての部品やサブシステムなどが互いに絡み合っている。

価値はプラットフォームとインターオペラビリティ

NIが推進する価値は主に2つある。1つは、パートナーと共同でプラットフォームを作り、ユーザーごとに専用のソリューションをその上で提供できるようにすることだという。そのソリューションの上に、NIはユーザーにテスターを提供する。このようにすると、たとえ設計が変更されても、テスターをほんの少し(同氏は5%程度と語る)変えるだけで対応できる。ユーザーは新しいテスターを買う必要がなく同じテスターを使い、電気的特性を評価する。例えば、パワーステアリングモジュールのテストでは、ソフトウェア評価も変更前のHIL(Hardware in the Loop)手法を使って、テスター内のコンテンツを変えることなくテストする。設計が評価され量産に移ると、ユーザーはそのテストシステムを使い、生産フローに乗せることができる。同じI/Oを再利用し、同じソフトウェアや同じプラットフォームを使う。デザインに従いテストサイクルを通して標準化されたテスターを使い、異なる部品は使わない。これがプラットフォーム戦略である。

さまざまな業界が難問を解こうとしている方法の中には、テスト手順やテスト方法も多い。NIは、半導体と宇宙航空の分野から、そのエレクトロニクス(電子回路)、複雑さやコネクティビティなどを借りてきて、あらゆる部品にそのまま当てはめている。今やエレクトロニクスは、あらゆる物理的な製品を包み込んでしまうようになった。センサやレンズ、カメラ、ミラーなどの部品は半導体で始まり、改良を重ねてゆき、多数のチップを並列にテストできるようになった。

自動車のテストは、大変重要な分野になっている。その中の1つがバッテリの評価。いろいろな環境で試験を行い、ほぼ6~8カ月かかる。そして異なる環境でもバッテリ性能を評価する。このバッテリの評価でも、半導体と航空宇宙の方法を自動車に当てはめてきた。

「5年前だと、自動車業界は我々に、I/Oに関しては特別な質問をしてきた。I/Oモジュールのスピード、どのようなタイプのデータスピードなのか、を知りたがった」とPhilips氏は述べている。I/Oモジュールでは、部品コストの10%~15%がテストコストだという。最近は、「NIはLiDARを評価したことがあるか?」とよく聞かれるそうだ。I/Oやソフトウェアの情報を提供するだけではない。I/Oテスト知識と、どのようにしてシステムに協調させてテストシステムを作るのか、テスターを再利用し、テスターへの設備投資を加速し、どう価値を最大化するのか、知りたがっている。

NIはプラットフォーム戦略をユーザーやパートナーと議論することによって、市場を変革しようとしている。例えば、半導体テスターでは並列化によってテスト時間を大きく短縮し成功してきた。自動車用テスターは少し違うようだ。NIのテスターはオープン化しながらも、カスタマイズもできなければならない。「少し設計を変更すると、それに何かを追加すればいいので、ほかに何か追加しますか、どう支援しますか、と聞くようになった」と言う。今までとは違うダイナミックさが自動車市場にある。「顧客がニーズを同定し、それに沿ってプラットフォームをマッピングする。我々がプラットフォームを提案するのではない」(Philips氏)。

インターオペラビリティは命に係わる

もう1つ重要な価値は、インターオペラビリティ(相互運用性)だ。1つのベンダーがテストのコンテンツをすべてあらゆる市場に供給し、特にソフトウェアシミュレーションでテストするとしよう。道路上でADASをテストするときに、もしそこで故障・失敗すると事故につながる。このため、1社に頼るのではなく、他社のソフトウェアも使えるかどうかをチェックするインターオペラビリティが重要になる。

ソフトウェアのインターオペラビリティについては、競争相手であるdSPACEとも何度も議論して、第1世代のテスター製品のコミッションをどうするか、を決める。もちろん、dSPACEとは競合するため、dSPACE製品を使う客でI/O能力が必要なら、dSPACEが例え、それを開発しなくてもNIは提供する、という。

「インターオペラビリティのようなオープン化は、カスタマに提供する大きなバリューの1つ」とPhilips氏は主張する。なぜならオープンなプラットフォームを採用すると、将来の仕様や市場が変わっても対応できる。もし専用の製品を買ってしまうと、将来の市場がどうであれ、その製品に縛られてしまう。

EVはパワートレインが全部変わる

エンジンが内燃機関から電気自動車(EV)に代わるとパワートレインがまるっきり変わってしまう。その中で重要なのは、バッテリとトラクションインバータ、モーターである。バッテリ周りの部品のテストを行い、負荷時・無負荷時の電圧変化や、電源コンセントに差し込むときのシミュレーションも行う。また、インバータはハードウェアでエミュレートする。つまり、PXIシャーシと高圧モジュールでテストする。

だから、EVパワートレインのプラットフォームとして、NIにはたくさんの機会がある。しかも「当社はLG、パナソニック、Samsungなど電機メーカーとの関係が深く、彼らはバッテリの専門知識を持っている」(Philips氏)。

コネクテッドカーは未来志向

コネクテッドカーは魅力的なトピックスだ。これまでADASについて語ると、自動運転へとつながってきたが、V2V(Vehicle to Vehicle)通信は自動運転システムに情報を送ることになる。あらゆるクルマが自分の位置やスピード、目的地などの情報をすべてのクルマに通信で知らせても情報量は大した量ではない。しかし、ほかのクルマが道路上にある周囲のクルマからのすべての情報が入力されると大量のデータを処理することになる。このような処理を減らさなければならない。スマホも同じことをやっている。だから通信を標準化しなければならないが、これが大きな問題だ。中国や、ウーバー、グーグル、既存メーカーに加え、いろいろなクルマが存在する。

そこでいろいろな要素を含むフラグメンテッド手法が必要となる。パケット会社がコンピューティングの標準化を提出し、通信規格を調べ、たくさんのベンダーがリダンダンシーを構築し、DRC通信や、LTEやWi-Fiのプロトコルを載せるトポロジーが必要になる。

さらにセキュリティでは、サーバや端末などを含めた全システムを見ながら対策を考えていかなければならない。半導体チップのレイヤを保護する半導体ベンダとISO認証について話をし、システムレベルを担当するティア1とセキュリティの話をし、システムデザインからサブシステム、部品レベルの保護に至る。もちろんOEMとも議論する。守るべきことは、もちろんシステムへのアクセスだけではなく、データプライバシーも守る。

V2Xのビッグインパクトは、インフォテインメントだ。クルマに乗ると同時にスマホと連動し、カレンダー機能やテキストメッセージもクルマに搭載されるようになってきている。これはハッキングの可能性が高まることも意味する。

また5Gの実用段階では、高度の処理能力を持つFPGAやRF I/Oがプラットフォーム上に作られるようになる。実際にOEMがプラットフォームを採用するようになると、インフォテインメント内の半導体をテストする場合でもその同じフローをテストする。

問題は山積

なお、Philips氏は「EV、ADAS、V2Xそれぞれについても、テクノロジー、テストなどの問題がある。そうした課題に対して我々は正しいテスト法を用意する準備がある。また、さまざまな企業が集まるエコシステムでは協力、責任、オープン性、正直さが、求められる。NIは市場をしっかり見て、責任持てるようなもっと良いツール、システム、ソリューションを提供し、ユーザーが作る安全性と信頼性に対応していかなければならないと思っている。そのためには、パートナーともっと近づき、共同でテストデザインのためのさらなる首尾一貫したフレームワーク、さまざまなテストバリエーションを開発していく必要がある」と語っており、今後も次々と出てくる自動車開発の課題に対して、NIとして柔軟に対応していく取り組みを進めていくことを強調していた。