電気自動車のエンジンであるモーターと並んで重要な部分となるのがバッテリであり、電気自動車のエネルギー源となる。現状のハイブリッドカー、トヨタ自動車のプリウスや本田技術工業(ホンダ)のインサイトにはリチウムイオン電池ではなく、その前世代のニッケル水素電池が使われている。リチウムイオンの安全性がまだ確認されていないためだ。しかし、エネルギー密度からいってリチウムイオン電池の方が大きい。次世代のハイブリッドや電気自動車には安全性を確保した上でこのリチウムイオン電池が大本命となっている。
ところが、携帯電話やノートパソコンで現在使用されているリチウムイオン電池はすぐへたばったり、急速充電すると発熱し電池寿命が短くなったりする。リチウムイオン電池の特に正極、負極を構成する電極にまだまだ改良の余地がある。最近、東芝が開発した、「SCiB」と呼ぶ新型のリチウムイオン電池は3,000回充放電を繰り返しても容量は20%しか劣化しない。また最大充電電流は50Aまで可能なため、12C(50A)の条件で充電するとわずか5分で済むという。これは負極をこれまでとは違う材料に変えることで、実現したもの。東芝はさらに自動車用のSCiB電池も開発したと発表した。
寿命は5倍、充電時間を1/4にする充電技術
電池の改良だけではない。充電器の改良だけで、電池の寿命を延ばし、急速充電を可能にする革新的な充電方法がある注)。兵庫県尼崎市にあるベンチャー企業テクノコア インターナショナルが電池の寿命を5倍に伸ばし、充電時間を1/2~1/4に短縮するという充電器を開発している。わずか10名足らずの小さな企業だが、開発している充電器は優れモノだ。
注):「電池を長持ちさせ、急速充電もできる新時代のエコ充電器を開発」、RS@WORK 2009年1月冬号、pp.8-9
テクノコアの代表取締役を務める高岡浩実氏によると、充電回数の劣化は電池の内部抵抗が上昇するために起きると分析している。内部抵抗の上昇は充電時における温度上昇によるものではないかとみている。同氏は温度を上昇させずに充電させる方法を考案し、その方法を使えば、2,900回もの充放電を繰り返しても容量がまったく変化しなかったという。ちなみに、テクノコアのような中小ベンチャーでは充放電試験2,900回を実施するのに3年かかった。このため充放電試験的には続けられるものの、手間や時間などを勘案して、これ以上の寿命試験を取りやめたのだという。
同氏の考えはまだ電気化学業界では認められていないが、この内部抵抗の上昇は、電極が損傷し、その面積が減少することによって起きると説明する。電流の断面積が小さくなるため、内部抵抗は減るというわけだ。同氏の考えに基づくと、負極と正極ともに損傷されないようにすることが内部抵抗の劣化を防ぐこととも一致する。東芝のSCiBは負極を工夫することで電池を長持ちさせた。内部抵抗を劣化させない工夫や、あるいは劣化させない充電方法が電池の寿命を上げることにつながる。
テクノコアの方法を紹介しよう。これまでの充電では、下の図左に見られるように、充電するのにしたがい充電電圧とともに電池の温度も上昇していた。このため最大電圧4.1Vに達する時点か、上昇する温度を検出することで充電を止めていた。しかし、この充電電圧測定は実は純粋の起電力を測定せず、電池の内部抵抗も含んでいた。従来は、満充電を検出する設定温度を60℃、あるいは45~50℃としていた。低い温度ならゆっくりと低い電流で充電するため時間がかかっていた。急速充電方式では60℃で検出していた。しかし、リチウムイオン電池は高温に弱い。
充電の原理(左:充電字の電圧が上がるとともに温度も上昇する)と充電直後の電圧(右:内部抵抗の影響により充電直後は電圧が下がる)(出典:RS@WORK 2009年1月冬号、アールエスコンポーネンツ発行) |
そこで、テクノコアは温度上昇の決め手となる内部抵抗を正確に測定することに注目した。2次電池の性質として、充電のスイッチをオフにすると、電圧は瞬時に必ず少し下がる(上の図右)。この電圧こそ真に充電されている電圧(起電力)であり、電圧ドロップ分が内部抵抗だと考えた。外部の充電電圧は起電力に内部抵抗降下分を加えたものになるため、起電力を測ることで、充電電圧を検出できるというわけだ。
温度を上げないから電極は損傷しない
そこで、外部からの印加電圧にオン期間とオフ期間を設け、オン期間で充電し、オフ期間で下がった電圧をチェックするという方法を採った。外部の印加電圧と内部抵抗に加わる電圧降下分の差が起電力となる。外部電圧をオフにすると内部抵抗に流れていた電流は即座に電圧計の方に流れてしまうため、電圧計は即座に起電力を指すことになり、起電力を測定できる。オンオフのパルス動作を繰り返し、最後に所望の電圧(起電力)を検出したら充電を止めればよい。
オン/オフのいわゆるデューテイ比は、電池の種類によって異なる。リチウム電池なら、オン時間が60秒、オフ時間は5秒で、鉛蓄電池だとオン時間が200秒、オフ時間はやはり5秒に設定する。この5秒間で起電力を測定し、所望の電圧レベルに達したかどうかを判定する。達していなければさらにパルスを加える。所望の電圧値に達したら充電を止める。この充電方法が、テクノコアが特許を持つ「I.C&C及びAdvanced I.C&C(Interrupted Check & Charge)」方式だ。
テクノコアは、この充電方法を使った充電器をヘビーユーザー向けに販売した。また鉛蓄電池を利用するフォークリストにも適用した。フォークリフトへの充電時間が従来の12時間から3時間程度に短縮したという。これにより24時間稼働配送センターの稼働率がぐんと向上した。
内部抵抗から電池の残量を検出
イタリア製の軽電気自動車「ジラソーレ」にはこの充電方法を使っていないが、電池の残量システムを製作し搭載している。ジラソーレはもともと鉛蓄電池を搭載していた。電気自動車を輸入販売するオートイーブイ・ジャパンがリチウムイオン2次電池に切り替えた。そして、日本で車両として登録している。テクノコアが残量表示システムを開発したのは、リチウムイオン電池の自動車は電池の残量がわからないまま突然、止まってしまうことがあるからだ。従来の電気自動車にはいつでも引いていけるようにロープを搭載しているという。
テクノコアの充電アルゴリズムは、従来の充電方法の残量表示にも使える。電池の充電では、
だから(Iは電流、tは時刻)、電流を上げると短時間で充電すべき電荷が移動できる。ところが、使い古した電池は充電がすぐに終わるが、使用するとすぐになくなったと感じてしまう。これは次のように考える。活性物が反応している電極の微小面積を積分して全面積と比較することで劣化の状態を求める。等価回路的には、小さな電池に直列抵抗が接続された回路を並列につながっているようなもの。この抵抗RにQをかけたものは定数になると同社は考えている。劣化が進み、Rが3倍に増えるとQは1/3に減ることになる。従来の充電器を使う場合でも、この内部抵抗を測定し、内部抵抗を知り、満充電に至る電荷量Qがわかるため、電池の残量がわかるという訳だ。