ガソリン車だからと言ってクルマのエレクトロニクス化が遅れる訳では決してない。先般発表された、Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)の最新モデル「S450シリーズ」(図1)は、48Vのバッテリ電源を使い、スターターオルタネータをエンジンと一体化するなど、まさにエレクトロニクスの塊となっている。S450シリーズは、従来のV6エンジンと比べ、CO2排出量を20%削減し、出力を20%向上させ、その結果、4気筒エンジンと同等の低燃費と、8気筒エンジンに匹敵する出力を兼ね備える6気筒エンジンとなった。
運転席のダッシュボードには全面液晶パネルを採用したスピードメータとタコメータが載っている(図2)。48V系のバッテリを使ったモーターを備え、始動時のトルク補助と回生ブレーキによる充電システムを備えているこのクルマは、マイルドハイブリッドと呼ばれるシステムになっている。電動システムとエンジンを一体化した「ISG(Integrated Starter Generator)」には48Vシステムが採用されている。
ISGと名付けられた電動モーターはエンジンとトランスミッションとの間に配置されているため、ベルト駆動を使っていない(図3)。エンジンの軸とモーターの回転軸とを一体化するため、48V系のパワーエレクトロニクス(インバータやDC-DCコンバータなど)部分を、従来12V系のスターターモーターを取り付けていた位置に一体化した。これにより、駆動ベルトはもちろんのこと、ワイヤハーネスを追加することなく、電気モーターと直接接続できるようになった。図3の上側の6気筒エンジンの左側モーターを設置している。もっとも右の青い部分がパワーエレクトロニクス回路部分で、真ん中の青い部分はモーターの外側のステーターであり、一番左の青い部分が永久磁石を搭載した回転体である。
48V系のパワーエレクトロニクスと言っても、窓の開閉やワイパーなど12Vで十分な部分もあるため、48Vから12Vへ降圧するDC-DCコンバータを備えている。さらに、バッテリに充電するためのAC-DCコンバータや、モーターを駆動するためのインバータなどもパワーエレクトロニクス回路に含んでいる。
モーターの性能は最高出力16kW、最大トルク250Nmとしている。モーターは始動時のエンジンを補助するスターターと、回生ブレーキによって発電するオルタネータの役割を持つ。48Vの電気システムを使って約1kWhのリチウムイオン電池を充電する。始動時や加速時には内燃エンジンに加えて、電気モーターの補助力も加わるため加速性能は高い。
ターボチャージャーにも電動モーターを使っている。従来のスライダー制御バルブと並列にeAC(electric auxiliary charger:電動補助チャージャー)と呼ぶ電動チャージャーを使う。低回転で過給を行うときにeACのバルブを開いて電動で急速に空気を流し、安定した後でスライダー制御チャージャーのバルブを開き、主空気経路となる。電動チャージャーを使うことで、ターボラグを解消し、速いエンジンレスポンスを実現している。
その他、オイルポンプの開閉に使うソレノイド制御や、燃料ガスを燃焼室に精密に制御しながら送り込むためピエゾインジェクタを用いている。これは短いパルス幅の高速パルスで精密に混合ガスを送り込むためだとしている。
Mercedesは、従来のM276(今回と同じ6気筒)およびM278(8気筒)のエンジンを搭載したSクラス車と比べた発進性能を求めている。それによると、信号待ちから発進する場合、今回のM256搭載車が20m進んだ時点で、V6モデルとは1車長分の差、V8モデルとは4mリードしたという。また、フルスロットルの0~100km/時の加速性能でも、今回のM256モデルは8気筒モデルと同じ4.8秒だったが、6気筒モデルは5.6秒かかっている。
CO2効率も高く、CO2排出量は8気筒モデルよりも25%減少している。これはエンジンとモーターの回転軸の一体化と48V系のエレクトロニクス、さらに摩擦の減少や燃焼効率の向上なども寄与しているという。