この物語は、入社して一年目の新人社員、田中君が業務を自動化していく様を記したものです。物語はフィクション(時々ノンフィクション)ですが、自動化の手法は実際にパソコンやスマートフォンで実践できるものですので、物語と自動化作業の両方を楽しめます。
今回、新人の田中君、今日は自宅勤務の日です。そんな田中君の携帯電話に、社長から電話があるところから話が始まります。
「もしもし、田中君、ちょっといいかな?」
「はい。社長、なんでしょうか。」
僕は突然の電話に恐縮しつつ、社長の言葉を待った。
「実は今日自宅で作業しているんだけどね。デスクトップに置いてあった資料が見つからないんだよ。」
えぇー。先日、社長に呼び止められて、自宅用のノートPCの設定をしたけど、そのときに何かやっちゃったのかな。僕はちょっと青くなった。
それでも、電話口でいろいろ質問すると、その探している資料はWordで作成されたものであることが分かった。
なんとかして、そのファイルを見つけることが、今の僕に課せられた任務だと理解した。頭を120%回転させて考える。
「社長、今PCの前にいますか? それなら、まずは、Wordの『最近使ったアイテム』に作った資料がないか見てください。どうですか?」
Wordを開くと、最初に開く画面に『最近使ったアイテム』が表示される。「あれ?さっきのファイルどこに保存した?」という時には、ここを見るとだいたい事件は解決するのだけど。。。
社長から返事は素っ気ないものだった。
「うーん、無いみたいだな。というのも、ちょっと前に作った資料なんだよね。」
なるほど。それでは最近使ったアイテムに出てこないのも納得だ。それでは、画面右下にある「その他の文書」から検索してみるとどうだろうか。
「うーん、無いみたいだな。」
社長の素っ気ない返答。それでは、もしかしてと、Windowsのエクスプローラーを開いて、ドライブを全部検索してもらったのだが、見当たらない。
もしかして、うっかり資料を削除してしまったのではと疑っていたところで、社長が急に思い出したように言った。
「あっ、その資料作ったのは、会社のデスクトップPCだ。」
そうだ。社長は今リモートワークで自宅のノートPCで仕事をしているのだ。会社のPCで作った書類であれば見つからないのも当然だ。
「それでも、おかしいですね。先日PCの設定をした時、OneDriveの設定をしたのですが。。。」
ちなみに『OneDrive』はクラウドストレージの一つで異なるPCに保存したファイルを自動で同期してくれる便利なツールだ。
先日、僕が会社にある社長のPCと、ノートPCの両方でファイルを同期するように、OneDriveを設定し、大量の資料をOneDriveにコピーしたのだが、どうやら今回探している資料は、コピー対象から外れていたようだ。
そのとき、社長の秘書が言っていた言葉を思い出した。
「社長は全ての書類をデスクトップに保存するんですよ。パソコンを開いてすぐ必要な書類を開けるというメリットがあるのと、全ての書類が目に見えるところにある安心感があるみたいですね。」
そう、社長は全てのファイルをデスクトップに保存する癖がある。なるほど。そうであれば、社長のPCのデスクトップもバックアップ対象にすれば良かったんだ。
先日、設定したときOneDriveに資料をコピーして、ここに書類を保存すると、自宅のノートPCやスマートフォンでも資料が見られますよと紹介したものの、デスクトップもバックアップ対象にすれば良かったと反省したのだった。
ちなみに、物語の途中ですが、OneDriveでデスクトップを同期対象にする方法を紹介します。やりかたは、簡単で、タスクトレイにあるOneDriveのアイコンを右クリックし、続いてポップアップメニューから「設定」をクリックします。
そして、「バックアップ」のタブから「バックアップを管理」のボタンをクリックします。そして、「デスクトップ」にチェックを入れて、右下の「バックアップの開始」ボタンをクリックします。
(注) ただし、この設定は荒技的なところがあります。
この設定を行うと、それぞれのPCのデスクトップに置いてあるファイルが相互にコピーされます。
PCのデスクトップに置いてあるファイルが多い場合には、ファイルの整理が大変かもしれません。
そのため、PCをリプレースしたタイミングで同期するのは良いのですが、既にそれぞれのPCにたくさんのファイルが置いてある場合には、オススメできません。
また、社内ネットワークのセキュリティによっては、管理者の認証が必要な場合や、運営ポリシーによって許可されないこともあります。
そこで、スマートな解決策については、以下をご覧ください。
そして、僕は社長に言った。
「社長、今度、会社のPCと自宅のPCのデスクトップを自動バックアップするように設定しますよ。そうすれば、会社PCに資料があって見られないという状態になることがなくなります。」
「頼もしいね。それでは、よろしくね。しかし、今日は会社に行かないとそのその資料見れないのか、うーむ。それなら今から出社するか。」
もともと、僕が秘書さんの言葉をそのとき思い出して、デスクトップをバックアップするよう設定していれば、今回の不便を回避できたんだけど。それは内緒にしておいたのだった。
後日、美人上司の太田先輩と会議の時に、僕の失敗を隠しつつ事の顛末を報告した。すると、上司の太田さんは、自身のファイル同期術をみんなに披露していた。
「私は要らないファイルまでバックアップするのは無駄だから、必要なファイルだけ自動的に選んで、クラウドストレージのフォルダにコピーするようにしているの。そのために簡単なバッチファイルを書いているのだけど、タスクスケジューラで定期的に実行するようにしているわ。」
とのこと。
しかし、言っていることがよく分からなかったから今度個人的に聞いてみようと思ったのだった。
このように、OneDriveやGoogleドライブ、Dropboxなどのクラウドストレージを使えば、手軽にPCのバックアップが取れます。バックアップしたいファイルを同期対象フォルダにコピーしておけば良いのです。田中君の会社の社長のようにデスクトップにファイルを全部置いてしまう人なら、デスクトップを同期対象として追加することができます。
また、任意のファイル形式のファイルだけをバックアップしたいなど、細かい指定を行いたい時は、太田先輩のようにファイルをコピーする簡単なバッチファイルを書いて、定期的にコピーが実行されるようにします。バッチファイルを使うと、ファイルのコピーや削除など簡単な処理を実行できます。
バッチファイルの内容は次のような簡単なものです。例えば、バッチファイルを作成したフォルダにあるWordファイルをOneDriveにコピーするという処理を記述してみましょう。
以下のテキストを「backup.bat」という名前で保存します。(実際には、<ユーザー名>の部分の書き換えが必要です。)
rem カレントディレクトリをバッチファイルのパスに設定
cd %~d0
rem Wordファイルだけをコピー
copy *.docx C:\Users\<ユーザー名>\OneDrive\
そして、バッチファイルを定期的に実行するには、タスクスケジューラを利用します。タスクスケジューラを起動するには、Windowsメニューより、「Windows管理ツール > タスクスケジューラ」を起動します。
そして、右側のメニューより「タスクの作成」をクリックします。タスクですが、1時間に1回バックアップを実行するには、全般タブで「OneDriveにバックアップ」と名前をつけ、トリガーで下部にある「繰り返し間隔」を1時間、継続時間を無期限に指定します。そして、「操作」のタブでは「プログラム/スクリプト」の項目に、上記バッチファイルを指定します。そして「OK」ボタンを押します。
タスクスケジューラを使うと自動で定期的に任意の処理を実行することができます。Windowsには最初から便利な仕組みが組み込まれていますね。これを簡単なバッチファイルと組み合わせることで、いろいろな事が実現できます。また、次回、タスクスケジューラを利用した仕事自動化術を紹介していきます。お楽しみに。
自由型プログラマー。くじらはんどにて、プログラミングの楽しさを伝える活動をしている。代表作に、日本語プログラミング言語「なでしこ」 、テキスト音楽「サクラ」など。2001年オンラインソフト大賞入賞、2004年度未踏ユース スーパークリエータ、2010年 OSS貢献者章受賞。技術書も多く執筆している。