本当は社会通念ではない? ニュースの正体

『7つの習慣』(著:スティーブン・R. コヴィー/発行:キングベアー出版)

ソーシャルメディア版『7つの習慣』の後半戦に突入する前に1つ質問があります。「誰もがFacebookを利用している」という「社会通念」は本当でしょうか。

実は「ニュースの見だし」なら「社会通念」ではなく「キャッチコピー」です。IT系のニュースが、常に大袈裟に煽り立てるのは、調査会社も媒体も、コメントを寄せる識者も、IT業界が盛り上がれば儲かる人たちばかりだからです。かつて、グーグルが既存のビジネスを破壊すると煽る向きもありましたが、既存のビジネスが支払う広告費で食べているグーグルが飯の種を破壊すれば、それは自殺行為です。もっとも、既存のプライバシーは破壊しつつありますが。

そもそも冷静に考えればわかることです。「珍しいからニュースになる」のです。「今、電子メールが熱い! だれもがネット検索に夢中!」と言わないように、本当に「誰もが」となった時、それを報じるメディアなどありません。前半戦の「自立」ができれば、こうした「エセ社会通念」に惑わされることはありません。

そして、どれだけ良い習慣を身につけても、ソーシャルメディアに「暇つぶし」以上の価値を感じないのなら、私がツイッターを卒業したように「No Deal(利用しない)」という選択もあるということをお忘れなく。「暇つぶし」判定に役立つのが「第2領域」という概念です。

重要度の判別

『七つの習慣』では、作業を4分割のマトリックスに当てはめて考えます。上段を「重要」、下段を「重要でない」、左列を「緊急性がある」、右列を「緊急性がない」とし、左上からナンバリングします。重要で緊急性の高い「第1領域」にはクレーム処理や締め切りに追われる仕事が入り、「第2領域」が勉強や計画の策定といった「準備」となり、これを最重要の領域と定義します。突発的な電話対応などが「第3領域」で、暇つぶしが「第4領域」です。

実は「第3の習慣」で「重要」と呼ぶのは「第2領域」の作業のことです。十分に勉強し、作業の質を高めていればクレーム処理は減りますし、しっかりと計画を立てていれば、締め切りに追われるといった「第1領域」がグッと少なくなります。「第3領域」の突発的な電話対応も、取引先とのやりとりを電子メールに集約させるように日頃から根回しをしておけば、「NTTの代理」と公的な電話を装うマイラインの売り込み以外の電話は激減します。

「第2の領域」には「人脈作り」も入ります。前回「第3の習慣」を「目的(仮)のチェックに使う」とカスタマイズした理由はここにあります。ソーシャルメディアの利用目的を「人脈作り」と挙げる人は少なくありません。すると、「人脈作り」を大義名分として「暇つぶし」を正当化する怖れがあったからです。正当化する心根は「依存」です。

ネットの世界の根本原理

それでは「緊急ではないが重要」という「第2領域」にソーシャルメディアがあった人向けにカスタマイズします。本書では1~3の習慣を「自立」のためとし、4~6を「相互依存」と呼びます。最初の「依存」とイメージが重なるので「相互依存」を「コラボレーション(コラボ)」とカスタマイズします。

コラボで何より大切なことが「第4の習慣 Win=Winを考える」です。共に得ることを目指すもので、そのためには「得たい相手の勝利=利益」を考えるところから始めます。そして、「Win」を「得る」とカスタマイズすれば、ネットの世界の根本原理である「与えれば得る」となります。

例えば、「情報サイト」は「情報」を与えることにより「読者」が集まり、「読者」を求めて「広告」がやってきて報酬を「得る」ことができます。広告収入を得てから情報を与えることはできません。熟したリンゴが地面に吸い寄せられるように落ちていくような自然の法則で、順序が入れ替わることのない根本原理です。

ある日、見知らぬ人に「ねぇ、なんか面白いことつぶやいてよ」と言われた時を想像してください。初めに「得る」という発想はこれと同じです。以前、ミクシィでマイミクを申請してきた人に「おまえの本の面白さを俺に教えろ。面白いと思ったら買ってやる」とねだられたことはありますが。

与えなければ得られない

「得る」から始めて「得る」ことはできません。「与える」ものは、情報や金銭的な報酬、時間、ネタと相手が望んでいるものにより変わりますが、ツイッターにおける「フォロー」や、Facebookの「いいね!」も小さな「与える」です。何も与えるものがない時は、こうした小さな「与える」を積み重ねると良いでしょう。

与えることができれば次は提案します。互いに合意すれば、新たな未来の扉が開く素晴らしい瞬間です。ソーシャルメディアの真骨頂と言えるでしょう。しかし、条件が折り合わなければ 「Win=Win またはNo Deal」の出番です。

互いに得るものがない=合意に至らない場合は「No Deal」、取引してはいけません。声をかけておいて断る場合もあります。ここで断ることに抵抗を感じるとすれば、第1~第3の習慣で目指した「自立」が不十分だということです。

「自立」している人間は、相手の合意も自分のそれと同じように考えるものです。それは自分の合意も大切にしてほしいと願っているからです。つまり、合意に至らなかったとして、非礼を詫びて理由を伝えた時、それを失礼と思うことはありません。仮に「おまえから声をかけておいて」と怒る人がいたら、そんな「自立」できていない人と取引しなかった幸運を喜んでください。

考え方の違う人をフォローする

字数がつきそうなのでここからは駆け足でカスタマイズしていきます。「第5の習慣 理解してから理解される」はソーシャルメディアというより、リアルの人間関係で使える実践スキルです。要点は「自叙伝を挟まない」。相手の話に耳を傾ける時は、話の途中で自分流の解釈を挟まないようにするということです。ただし、これは一般的に自己主張が強いとされるアメリカ人に向けた主張であって、謙虚な日本人にはあまり当てはまらないかもしれません。

一方、この章で紹介される「信頼残高」という概念はビジネスにとてもとても役立ちます。より詳しく知りたい方は『エモーショナル・バリュー』を併せてお読みになると良いでしょう。

新聞どころかテレビのニュースも見ない、ネットニュースで十分だという方にとって、ソーシャルメディアがすでに悪い習慣となっている可能性があります。自分の関心のあることにしか目を向けない視野狭窄です。「第6の習慣 相乗効果を発揮する」とは、意見の異なる人とのコラボを目指すもので、章の冒頭のこの一語に尽きます。

「2人の人が同じ意見を持っているとすれば、そのうち1人は余分である」

本書では著者のスティーブン・R・コーギィーの言葉として紹介されていますが、リンカーンも同じ言葉を残しており、同じ考えの人間が集まっても同じものしか生まれず、価値観の相違が新しい価値を作り出すという意味です。ソーシャルメディア向けのカスタマイズは「考え方の違う人をフォローする」。これにより関心空間という依存の迷宮から脱出できます。

いよいよ最終章。「第7の習慣 刃を研ぐ」のカスタマイズとは「日々是精進」。そして本書を閉じてニヤリとします。結論は日本人的な勤勉さをアメリカ人的にカスタマイズしたものでした。

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」