悪しき習慣となったツイッターを卒業

『7つの習慣』(著:スティーブン・R. コヴィー/発行:キングベアー出版)

昨年の暮れにツイッターを卒業しました。すっかり「悪い習慣」になっていたからです。空き時間を埋めるつもりが、本業の時間を割いてまでツイートするといった具合にです。習慣は日常生活の中のちょっとした積み重ねで身につきます。それはもちろん「良い習慣」も同じです。

というわけで今回取り上げるビジネス書はスティーブン・R. コヴィー著『7つの習慣』です。本書で、ソーシャルメディアとの付き合いを「良い習慣」にするための「カスタマイズ」を行います。

大ベストセラーですので、お読みになったかたも多いでしょうが、途中で挫折したという人も少なくありません。それは本書が「アメリカ的」であることが主な理由です。実例などすべてがアメリカン。例えば、幼い息子が「僕のことを愛している?」と父親に尋ねるエピソードに、日本人なら首を捻ることでしょう。

本書を読み解くには、実例をすべて「洋画のワンシーン」に「カスタマイズ」しなければなりません。また「アメリカ的」だからこそ、「日本社会」の課題に気づくことができます。そして、課題の克服がソーシャルメディアと付き合ううえでの「良い習慣」となります。

クレームは依存心の現れ

『七つの習慣』では、「依存」から始まり、1つ目から3つ目までの習慣を身につけ「自立」し、4つ目から6つ目までの習慣で「相互依存」を目指し、7つ目の習慣でブラッシュアップの大切さを説きます。「依存」とは、常に理由を他人に求める精神状態を指します。そして、日本社会の課題が「依存」です。

顕著な例は「政治」です。政治の混迷を我々は嘆きますが、選挙によって選ばれた議員の無能は、選んだ我々の盲目の証明です。ところが、テレビや新聞は国民のそれを指摘することなく、我々も政治家にだけ責任を求めて自省しません。それは政治家への依存です。

その傾向はソーシャルメディアにも現れます。例えば、「個人的見解」と断ったツイートに対し、発言者の会社へ抗議の電話が入ることが多々あります。もちろん、タレントのプライベートを告白したホテル従業員のように、業務に関係する暴露ならば企業も非難を免れませんが、個人の見識不足からのツイートに対して会社を非難するのは、非難するもの自身が「自立した個人」を構築できていないからです。

自立した個人は会社と個人の関係を「雇用」という契約に合意しているだけの状態と見なします。互いの影響が及ぶのは業務内であり、「個人的」と断っている発言の連帯責任を会社に求めることはありません。個人と会社を同一視するのは「寄らば大樹の陰」の裏返しで、自分自身が困った時は会社に助けて欲しいという依存心と同根です。そして、わざわざクレームをぶちまけるのも「文句を聞いて」という幼児のような依存心の発露です。

ミッション・ステートメントは「仮」でよし

私がソーシャルメディアで身に付けてしまった「悪い習慣」とはまさしく「依存」です。ソーシャルメディアには常に誰かが存在しており、寂しさを感じることも退屈を覚える暇もありません。「心地良さ」は依存心を育てる最高の肥料です。さらに常駐することで「帰属意識」が芽生えます。「集団に属していたい」というのは人間の本能であり、日本人は特にそれが強い傾向にあります。

また、本来成すべきことをする前に、タイムラインをチェックし、新しくついた「いいね!」を見るようになり生産性が下がります。さらに、日々の忙しさの理由がソーシャルメディアでの時間の浪費にあるなら間違いなく「悪い習慣」です。

これを断つ剣は「自立」です。自立とは目先の心地良さに支配されない「自分の確立」であり、群れから離れる決断ができる心の強さを意味します。そしてソーシャルメディアを活用する絶対条件です。

いよいよ、「ソーシャルメディア版 七つの習慣」のはじまりです。

  • 第1の習慣:主体性を発揮する
  • 第2の習慣:目的を持って始める
  • 第3の習慣:重要事項を優先する

この3つの習慣を身につけることが「自立」への始まりです。「第1の習慣」にある主体性とは自らの意思による行動であり、ソーシャルメディアを始めた理由に散見する「知り合いが始めたから」とは正反対の概念です。きっかけは知り合いだとしても、行動の意思決定に「主体性」が求められるのは「第2の習慣」の「目的」にかかります。取り組みの際の目的は(仮)で結構。

本書では「目的」を「ミッション・ステートメント(個人の憲法)」と規定し、その大切さの説明に40ページ近くも割きます。これも日米の文化的違いとニヤリとしました。それはさんざっぱら大切さを説いたあと、「ミッション・ステートメントは短期間に書けるものではない」とし、多くの書き直しが必要としているのですから。つまり(仮)で充分ということ。

最初に大風呂敷を広げる……原則を定義しながら、実は抜け道があるというアメリカ人的な論理構成で、生真面目な日本人は「個人の憲法」という高い壁に息を飲み足を止めてしまいます。それは、TPP交渉において「原則関税撤廃」を絶対条件のように振る舞いながら、交渉で有利なルールを後付けする彼らの政府と、最初の約束を神のお告げのように変更不可と信じて疑わない我らが政府の姿と二重写しです。

リアクションの果てに待つもの

最後に「目的(仮)」が決まれば、あなたの業務や将来においてどれほど「重要」な意味を持つのかと考えるのが「第3の習慣」です。

例えば「目的(仮)=情報収集」とします。しかし、「あやや 突然のTwitter終了報告」も情報と言えば情報です。これが業務や将来に影響を与える職種は特殊です。つまり、「重要」というフィルターを通すことで、設定した「目的(仮)」の正当性をチェックします。誰かの指導はなく、誰かの助言もなく、誰かのチェックすら入れず、自ら定義し、行動し、評価する、つまり「自分と対峙する習慣」を身につけるのです。これが「自立」の始まりです。これが、ソーシャルメディアと付き合うための「良い習慣」となることは反対例から明らかです。

「主体性がなく」「目的もなく」「重要でもない」ことのためにソーシャルメディアを利用しているということです。それを一般的には「暇つぶし」と呼びます。もちろん「悪い習慣」です。「暇つぶし」を選ぶのは個人の自由ですが、先に述べたようにソーシャルメディアには常に誰かが存在しており、寂しさを感じることも退屈を覚える暇もなく、「暇つぶし」で人生が終わる可能性すら秘めています。

私は「暇つぶし」で人生を終えるにはやりたいことが多すぎました。詳しくは次回のカスタマイズで紹介する「第4の習慣 Win=Winを考える」における「Win=Win またはNo Deal」という、合意に至らなければ取引をしないという発想から、ツイッターを「卒業」したのでした。

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」