ましてや新型コロナウイルスの流行により働き方が変化した今、経営者には一層強くリーダーシップが求められるようになっているのではないでしょうか。

この記事では、「ビジョン・ドリブン・リーダーシップ」を提唱する三輪一郎さんに話を伺い、BtoBビジネスを例に挙げながら、企業の経営者が持つべきリーダーシップについて説明します。

競争の激しいビジネスシーンを生き抜いていくには、会社の全メンバーが一丸となって進んでいくことが不可欠であり、経営者のリーダーシップなくしては、全社の一体感を醸成することは困難です。

ましてや新型コロナウイルスの流行により働き方が変化した今、経営者には一層強くリーダーシップが求められるようになっているのではないでしょうか。

この記事では、「ビジョン・ドリブン・リーダーシップ」を提唱する三輪一郎さんに話を伺い、BtoBビジネスを例に挙げながら、企業の経営者が持つべきリーダーシップについて説明します。

ビジョンが満たすべき三つの条件

ビジョン・ドリブン・リーダーシップとは文字どおり、ビジョンを掲げ、会社のスタッフが一丸となってそれに向かっていく手法を指します。ビジョンという言葉に馴染みのある方も多いと思いますが、三輪一郎さん(元内閣府CIO補佐官、株式会社プライド執行役員/シニア・システム・コンサルタント)は良いビジョンの条件として次の三つを挙げます。

①メリットが読み取れること

経営者には会社のスタッフの精神面にプラスの影響を与えることが求められます。例えば「やる気を出す」とか「その気になる」などです。ではどういう時にスタッフはやる気を出したりその気になったりするのでしょうか?間違いなく言えるのは、自分にメリットがある時です。その意味でも、ビジョンを策定する際には「みんながやる気になるにはどんなビジョンが必要か」という観点で考えてみることが大切です。

②到達できるものであること

メリットは結果として得られるものです。メリットだけを語っても、そこに至るまでの方法がなければ絵に描いた餅に過ぎません。スタッフをやる気にさせるにはメリットを見せるだけでなく、努力すればそれが実現できる目標であることを納得させる必要があります。

③提案力を発揮できるものであること

①②ともビジョンを策定するうえで不可欠な要素ですが、今回はこの③について詳しく説明してみたいと思います。

すべてのビジネスパーソンは、御用聞き型と提案型に大別できます。リーダーである経営者が御用聞き型でよいはずはないのですが、実際には「頼まれたことをしっかりやる」タイプの人は少なくありません。これについて三輪さんは次のように指摘します。

「顧客から頼まれていないことまでするのが提案型のビジネスパーソンです。頼まれていないことをすると、喜ばれる確率は下がります。うまく行くのは良くて3割くらいでしょう。提案のうちの7、8割は顧客にとって期待外れになります。しかし効率が悪いと思ってはいけません。大谷翔平選手でも打率は2割6分程度。提案型でクリーンヒットを生むためには4回の空振りが必要なのです。そして空振りもしながら提案のプロセスを経ることにより、自身の提案力は磨かれていきます。ビジョンには提案力を高める要素も盛り込むと効果的です」

顧客の単価を上げるうえで大切な点

自社の規模を拡大したいと考えていない人でも、可能であるなら顧客の単価は上げたいと思っているはずです。そのためには付加価値の高い提案をすることが重要になります。

「例えばA社に対する提案で空振りを繰り返しても、その経験は他の顧客であるB社やC社に対する提案に活かせます。そして意外なことに、A社から新規の会社を紹介してもらえる機会も増えてきます。何もやらない人よりも、積極的に提案する人のほうが圧倒的に評価されるのです。

ただし提案の精度は高くなっても、打率が5割や6割に上がることはないと思ったほうがよいでしょう。というのも、提案を続けていると自分自身のステージが上がり、すなわち業務の範囲が広がったりして、より難易度の高い打席に立つ機会が増えるからです。難易度が上がるのですから当然、サービス料金などの値上げが期待できます」

例えば若手の営業職を採用した同業他社では、ぎりぎり収益の上がる安価なサービス料金を提示してくることもあるでしょう。そんな時、きちんと腕を磨いてサービスレベルを高めておかないと、あっと言う間に価格競争に巻き込まれてしまいます。提案力を高めるのはそれを避けるためでもあるのです。

OODAループとビジョンのアップデート

次にリーダーシップを発揮するための方法論について説明します。「PDCAサイクル」をご存じの方は多いと思います。

・Plan(計画)
・Do(実行)
・Check(評価)
・Action(改善)

計画を立てて実行に移し、評価したうえで改善するという一連のプロセスを指します。近年、これに代わる概念として「OODAループ」というものが注目されています。

・Observe(観察)
・Orient(状況判断)
・Decide(意思決定)
・Action(行動)

OODAループはこれらの頭文字を取ったもので、問題を解決するための意思決定プロセスの一つです。もともとは1950年代の朝鮮戦争において、空軍のパイロットが素早く意思決定するために開発された思考モデルで、「Action(行動)」の結果を即座に「Observe(観察)」し、次の意思決定に活かすことに特徴がありました。

後に、1990年代の湾岸戦争でも、偵察衛星などを使う最新の戦術として効果を上げたことから、民間にも広く認知されるようになったのです。

最初に立てた計画に拘泥しがちなPDCAサイクルに対して、観察の結果によっては随時、計画を練り直すことも含めて柔軟に対応し続けるのが、OODAループの特徴です。

「昔はゴールポストを動かすのはルール違反だと思われていましたが、その認識を改め、ビジョン自体を適切なものに調整しながら進めていくOODAループのやり方が主流になりつつあります。特にコロナ禍で不確定要素の多い昨今、有効な計画が立てにくくなっています。そのような状況では、ビジョンそのものを柔軟に再構築していくOODAループのプロセスが有効です。

例えば策定から3年や5年が経過したビジョンが形骸化してしまわないように、大きな環境の変化を認識した時点でビジョンが現状に即したものになっているか話し合い、必要に応じて描き直すのです。競争の時代を生き抜くために求められているのは、OODAループを使い、柔軟な姿勢でメンバーを引っ張っていくリーダーだと言ってよいでしょう」

優れたリーダーになるための5つの条件

大きなシステムが複数のサブシステムに分割できるように、ビジョンにも階層があります。ヒエラルキーの頂点に来る大きなビジョンは頻繁に変えるべきものではありません。その大きなビジョンの実現手段となる具体化されたビジョンは、柔軟に変えていくべきだと三輪さんは指摘します。

「具体化されたビジョンを策定し直す際、OODAループの文脈に即して考えると、観察(Observe)し、状況判断(Orient)し、意思決定(Decide)するところまでがリーダーの役目になります」

加えてリーダーに求められる条件として、三輪さんは次の5点を挙げます。

・ビジョンを明確にし、何を成し遂げたいかを周囲に説明する
・広い視野を持ち、時には周辺の諸事情まで理解したうえで対応する
・顧客に対しても自分の意見をしっかりと伝える
・自社のスタッフを信頼して仕事を分担し、実力に応じて調整と指導の手間を惜しまない
・ビジョンの描き直しも含めて物事に柔軟に対応する

「例えば自動車メーカーの本田技研工業(ホンダ)の創業者である本田宗一郎さんは、言わずと知れた一流の技術者であり、誰もが認める理想的なリーダーです。ホンダがまだ小さなオートバイメーカーだった頃、本田さんが『マン島TTレース(英国のマン島で開催されるモーターサイクル競技)に出場する』という大きなビジョンを掲げたのは有名な話です。その構想から5年後の1959年に初出場を果たし、1961年には1位から5位までを独占するに至ったのは、本田さんの掲げたビジョンがあったからこそだと思います。大きなビジョンに向かい、その実現手段を試行錯誤した好例だと言えます」

以上、ビジョン・ドリブン・リーダーシップについて説明しました。ここで取り上げたことだけがリーダーの条件ではありませんが、真のリーダーを目指す経営者が、個々のスタッフのスキルを束ねて活かすための手段として、リーダーシップについて考えるきっかけになれば幸いです。

参考文献: 『ITアーキテクト』(Vol.12)(アイ・ディ・ジー・ジャパン)
『はじめての上流工程をやり抜くための本』(翔泳社)
株式会社プライド

著者:八鍬 悟志(やくわさとし)
Mikatus(ミカタス)株式会社 Lanchor(ランカー)編集部
複数の出版社に勤めた後、フリーランスライターへ。中小企業や職人を対象に取材活動を展開。2021年にMikatus(ミカタス)株式会社に入社し、税理士向けWebメディア「Lanchor(ランカー)」編集部として活動を開始。Lanchorは、「税理士としての真の価値」を提供することを志す、すべての税理士にエールを送りたいという想いを胸にスタートしたWebメディア。「税理士には日本の未来を切り開く力がある。」をタグラインとして、税理士に役立つ情報や、ビジネスに役立つ情報をさまざまな切り口から発信している。

本記事はMikatusが運営するメディア「Lanchor」からの転載です。