ビジネスシーンにおいては、特に初対面の相手や、会社の経営者といった目上の人と話す際は緊張するもの。ましてやオンライン会議が日常的になった昨今、アイスブレイクとしての雑談が前にも増して大切になっています。
今回は、書籍『負けない雑談力』の著者である渡瀬謙さんにお話を伺い、事前の準備から実践方法までをまとめました。人見知りの人、口下手な人、内向的な人にとってもWeb時代の雑談術として活用できる内容です。
ビジネスにおける雑談の意味を理解しよう
渡瀬さんは大手情報企業に営業職として勤めていた際、こんな経験をしたそうです。
「ある会社の営業担当を先輩から引き継ぐことになり、先輩と一緒に社長にあいさつに行きました。先輩と社長はツーカーの仲。二人は親しく話し始めて私は置いてけぼりを食いました。会話に入れない私は社長を観察していると、ときどき右手で頬のあたりをさすっていることに気がついたんです。ピンと来るものがあったので『社長、歯が痛いんですか?』と勇気を出して聞いてみました。すると『よくわかったね』と驚いた社長はそれ以降、先輩と私と交互に話をするようになったんです」
このエピソードからわかるのは、ちょっとした雑談がビジネスを加速させるきっかけになり得るということです。
実際に「次回、一人で訪問した時もその社長とはスムーズに話ができました。新しい営業担当はいろいろ気づいてくれる人に違いない、という印象を社長に持ってもらえたんだと思います」と渡瀬さんは続けます。
事前の準備に労を惜しまない
初対面の人と会う時、最低でも三つの話題を用意していくと言う渡瀬さん。そうしておけば、自分の準備した話題に相手が興味を示さなかった時でも、落ち着いて対処できるのだそうです。例えば用意した話題のうち、二つまでが空振りに終わったケースを書籍から引用してみます。
「こちらの駅は初めて降りたんですけど、ずいぶん建物がきれいですね。改装したてなんですか?」
「いえ知りません」
「あ、そうですか。それと、こちらに歩いて来る途中で商店街を見かけたんですが、ずいぶんにぎわっていましたね?」
「まあ、あんなものですよ」
「……。あ、そうそう。そういえば、こちらの駅の発車メロディーは変わっていませんか?何かの曲みたいでしたけど?」
「ああ、あれは、この土地出身の〇〇さんの曲ですよ」
「え、〇〇さんの出身ってここだったんですか!」
「そうなんです。まだ売れない頃は駅前の路上でよく歌っていましたよ!」
「見たことあるんですか?」
「何度も見ましたが、やはり当時から歌がうまかったですね」
「それはすごいですね~」
※出典 『負けない雑談力』
三つ目に出した話題が相手の関心を引き、盛り上げることに成功しています。例えばクライアントのオフィスを去る時、帰りのエレベーターを待つ間の雑談でこのように話を持っていけたら、見送ってくれる相手は「この人とまた話がしたいな」と思ってくれるかもしれません。そうなったらまさに雑談力の勝利です。
「雑談と聞くと、どうでもいい話だと思って軽く見る人がいます。しかしビジネスシーンを振り返ってみると、仕事ができる人ほどきちんと雑談をしています。ビジネスにおける雑談の意味を正しく理解して有効に活用しているのです」
雑談はその場を盛り上げたり沈黙を埋めたりするだけでなく、その後のビジネスをスムーズに進めるために必要ものだと渡瀬さんは話します。
相手に近い話題をぶつけてみよう
では、どのようにして雑談のネタを仕込めばよいのでしょうか?この点について渡瀬さんは、冒頭で述べた三つの話題を用意することを勧めます。
「これから会う相手のフェイスブックやインスタグラム、ツイッターといったSNSを調べたり、会社のホームページを閲覧したり、準備に時間をかけるのは決して無駄にはなりません。あるいは少し早めに会社を出て、訪問先の近所を散策したりすると意外と雑談のネタは見つかるものです。私もそうですが、人見知りで口下手で内向的な人は、アドリブで切り抜けることに苦手意識を持っています。不安があるのなら、やはり事前の準備に時間を割くべきです」
雑談のネタを仕込む際、相手に近いテーマを選ぶことが大切だと渡瀬さんは指摘します。例えば次に挙げるテーマのうち、みなさんだったらどれを選ぶでしょうか?
(B)来る途中の交通渋滞
(C)相手の変わった靴
※出典 『負けない雑談力』
どれも雑談のネタとしては悪くないのですが、より相手に近い話題である(C)がベターだと渡瀬さん。この他にも、例えば会社のホームページに記載している経営理念などは、社長が熱を持って語りたいことの一つです。経営者に会う際には、積極的に雑談に盛り込むようにしましょう。
もう一つ雑談のテクニックをご紹介します。渡瀬さんは名刺交換の際、相手の名前を声に出して読み上げるそうです。
「名前というのは相手に近い話題と言うよりも、相手そのものに関する話題です。特に珍しい名前の人は、そのことに触れてほしいと思っていることが多いもの。だから『名字はなんてお読みするんですか?』とか『出身はどちらですか?』といった質問を雑談の入り口として使うのは効果的です」
相手が答えやすいことを聞くのが雑談の鉄則です。その意味でも、相手に固有の情報である名前を取り上げるのは理に適っているのです。
部下や同僚にも求められる雑談力
次に、上司と部下の雑談を書籍から引用します。自分が部下になったつもりでご覧ください。
部下:「あれ、いつものネクタイと感じが違いますね?」
上司:「おお、鋭いな。これは娘のプレゼントなんだ」
部下:「そうだったんですか。やはり若いセンスで選ぶと違いますね~」
上司:「大丈夫かな。少し変じゃないか?」
部下:「似合っていますよ。ちなみにその模様は猫の足跡ですか?」
上司:「そうなんだ。娘が大の猫好きでね」
部下:「いいじゃないですか。そういう遊びゴコロもアリだと思いますよ」
※出典 『負けない雑談力』
上司のネクタイの変化に気づいた部下が、そのことをさりげなく伝えるシーンです。この雑談を経て「意外と気がつくやつだから、一人でお客様先に出しても大丈夫かもしれない」と上司に思ってもらえたのなら理想的な展開です。このように、自分はよく気がつく人間であることをアピールする手段としても雑談は使えるのです。
ビジネスにおける雑談の意味と効果、そして雑談をするうえでのコツについてご理解いただけたでしょうか?繰り返しになりますが、できるビジネスパーソンは雑談を駆使して顧客との関係性を強固なものにしています。一方で、人見知りで口下手で内向的な人が、できるビジネスパーソンのような成果を上げたいと思ったのなら、下準備に労を惜しまないことが大切です。
多くの場合、社長という孤独な立場にいる人は、相談相手を求めています。特に経営者を相手にする際は、ぜひ雑談力を駆使し、何でも相談できる壁打ち相手として真価を発揮していきましょう。
著者:八鍬 悟志(やくわさとし)
Mikatus(ミカタス)株式会社 Lanchor(ランカー)編集部
複数の出版社に勤めた後、フリーランスライターへ。中小企業や職人を対象に取材活動を展開。2021年にMikatus(ミカタス)株式会社に入社し、税理士向けWebメディア「Lanchor(ランカー)」編集部として活動を開始。Lanchorは、「税理士としての真の価値」を提供することを志す、すべての税理士にエールを送りたいという想いを胸にスタートしたWebメディア。「税理士には日本の未来を切り開く力がある。」をタグラインとして、税理士に役立つ情報や、ビジネスに役立つ情報をさまざまな切り口から発信している。
本記事はMikatusが運営するメディア「Lanchor」からの転載です。