前回は、ブラシ付きDCモーター・システムのデバッグに焦点を当てて説明しました。2回目となる今回は、ステッパ・モーター・システムに関連するいくつかのヒントを共有し、一般的なベンチ・テストに対するアドバイスを提供します。取り上げるトピックを以下に示します。

  • ステッパ・テスト向けベンチのセットアップ
  • デジタル・マルチメータ(DMM)を使用せずにステッパの相を識別する方法
  • ステッパ・モーターの正常な電流プロファイル
  • ステッパ・モーターの電流レギュレーション方式
  • モーター・ドライバの障害報告機能
  • ベンチ・テストのヒント

ステッパ・テスト向けベンチのセットアップ

前回は、ブラシ付きDCモーター向けのベンチ・テスト装置をセットアップする際に推奨される2つの作業を紹介しました。同じ推奨事項が、ステッパ・モーターにも適用されます。

  • 電流プローブを準備します。以降で述べるように、電流プローブを使用することが、ステッパ・モーターでの可聴ノイズの原因をデバッグするのに役立ちます。正しい電流測定を確実に行うために、プローブの消磁とゼロ調整を必ず実行してください。
  • 十分な電流を供給できるベンチ用電源を使用します。大きなモーター電流を駆動しようとするときに、ベンチ用電源の電流制限によって電源レール電圧がクランプされる場合があります。被試験モーターに対して十分に高い電流を供給できるように、電源を選択し、電流制限を設定してください。

DMMを使用せずにステッパの相を識別する方法

このヒントは、現在は引退したTIのRick Duncanから聞いたものとなります。彼はモーター・ドライバをデバッグする天才で、この記事に記載されている多くの概念を教えてくれた人物でもあります。

バイポーラ型ステッパ・ドライバの簡易的なテストを実行しているときに、ラボで正体不明のステッパ・モーターを見つけたとします。モーターのデータシートが入手できない場合や、モーターのリード線に印がない場合もあります。DMMを使用して抵抗を測定したり導通をチェックしたりして、どの端子が同じ巻線に接続されているのかを識別するのも1つの方法です。

しかし、Rickが勧めている近道は、2本のステッパ・リード線をショートさせる方法です。これらが同じ相巻線に接続されていると、手動で回転子を回しにくくなるのです。図1は、左手で赤いワイヤと青いワイヤをショートさせながら、右手でステッパ・モーターの回転子を回しているところです。ショートしている2本のリード線が、異なる相巻線に接続されていれば、リード線がショートしていない場合と同じくらい簡単にモーターを回すことができます。表1は、この手順でモーターのリード線をショートさせたときの結果を組み合わせごとにまとめたものです。

  • ステッパ・モーターの相巻線の識別

    図1:ステッパ・モーターの相巻線の識別

  • Rickの秘訣とDMM測定を比較したテスト・マトリクス

    表1:Rickの秘訣とDMM測定を比較したテスト・マトリクス

ショートさせるとモーターが回転しにくくなるワイヤの組み合わせを確認することで、DMMがなくても相巻線を識別することができます。この場合、赤いワイヤと青いワイヤが1つの相に接続されており、緑のワイヤと黒いワイヤが別の相に接続されています。

この秘訣は、2つの興味深い概念を実証する優れた方法でもあります。その概念とは、レンツの法則とディテント・トルクです。相巻線の端子をショートさせると、レンツの法則に基づいて、回転子の回転に伴って相巻線に電流を流すような逆起電力(EMF)が発生し、これにより制動トルクが生じます。相がショートされていない場合、回転子が回転すると、モーターのディテント・トルクが光パルスのように感じられます。ディテント・トルクは永久磁石によって発生する引力で、これにより、回転子の歯が固定子の歯に引き付けられます(図2参照)。

  • ステッパ・モーターの構造

    図2:ステッパ・モーターの構造

ステッパ・モーターの正常な電流プロファイル

図3に示されているのは、ハイブリッド型バイポーラ・ステッパ・モーターで8分割のマイクロステップを使用した場合に、1つの相巻線に流れる電流の代表的な波形です。多くのステッパ・ドライバは、ステッパ・モーターを駆動する際に電流レギュレーション方式を使用して、非常に精密な低雑音のマイクロステップを実現しています。マイクロステップ方式は、電流を離散的なステップ・レベルでレギュレーションすることで、正弦波の近似波形を形成します。

  • ステッパ・モーターの単相に流れる電流のオシロスコープ画像

    図3:ステッパ・モーターの単相に流れる電流のオシロスコープ画像

ステッパ・モーターは、ブラシ付きDCモーターのようにモーター起動時に突入電流が発生したり、ストール状態で電流が増加したりすることはありません。その理由は、ステッパ・モーターにはブラシ付きDCモーターのような機械式整流子がなく、モーターの構造上、逆起電力(EMF)が正弦波だからです。

その代わりに、ステッパ・モーターでは、位相角が互いに90°異なる周期的な電流波形によって2つの相巻線を通電する、電子的整流が必要になります。フル・ステップを使用すると、相電流は矩形波に近くなります。マイクロステップを使用すると、相電流は正弦波に近くなります(図3参照)。多くの内蔵ステッパ・ドライバは、フル・ステップとマイクロステップの両方に対して電流レギュレーション方式を使用しています。

ステッパ・モーターの電流レギュレーション方式

電流波形の歪みを調べることが、ステッパ・モーターをデバッグするための最初の一歩です。多くの場合、減衰モードやその他の設定を変更することで、可聴ノイズを低減して電流波形の品質を向上させることができます。図4、5、6に、図3と比較して歪んだステッパ電流波形を示します。

  • 電流レギュレーション方式の高速減衰率が高すぎる場合に生じる、大きなリップル電流

    図4:電流レギュレーション方式の高速減衰率が高すぎる場合に生じる、大きなリップル電流

  • 低速減衰のみを使用し、電流減少時に大きな逆起電力(EMF)によって波形が歪む事例

    図5:低速減衰のみを使用し、電流減少時に大きな逆起電力(EMF)によって波形が歪む事例

  • 低速減衰のブランキング時間が長すぎるために、ドライバが電流をレギュレートできるよりも速くモーター・コイルが充電される事例

    図6:低速減衰のブランキング時間が長すぎるために、ドライバが電流をレギュレートできるよりも速くモーター・コイルが充電される事例

多くの要因により、ステッパ・モーターで可聴ノイズが発生する可能性があります。ときには、ステップ・レートが機械系の共振周波数にあることで、ノイズが悪化する場合もあります。それ以外に、電流レギュレーション方式(減衰モードとも呼ばれる) やマイクロステップ・サイズ(小さい方が静か)に起因する要素もあります。

図7は、このような要因がどのように組み合わされてステッパ・モーターの可聴ノイズを発生させるのかを可視化するためのマインド・マップです。

  • ステッパ・モーターの可聴ノイズをデバッグするためのマインド・マップ

    図7:ステッパ・モーターの可聴ノイズをデバッグするためのマインド・マップ

モーター・ドライバの障害報告機能

低電圧ロックアウト、過電流保護、および過熱保護を目的としたシャットダウン機能は、ブラシ付きDC用でもステッパ・モーター用でもモーター・ドライバの一般的な保護機能です。モーター・システムをデバッグする際には、これらの機能が特定の問題の原因を示すために役立つ場合があります。

  • 低電圧ロックアウトが作動するのは、電源や配線の直列インピーダンス、デカップリング・コンデンサやバルク・コンデンサの容量不足、ベンチ用電源のクランプ、または電源回路の設計不良などによって、モーター・ドライバの電源レール電圧が低下した場合です。
  • 過電流保護が作動するのは、モーター・ドライバの出力間、あるいは出力と電源やグランドの間が短絡した場合です。
  • 過熱保護が作動するのは、周囲温度が高すぎる場合や、モーター・ドライバが長期間にわたって大電流を駆動したときです。

多くのモーター・ドライバは、障害が発生したときに信号を発出するための障害報告ピンを備えています。デバッグ時は、このピンにプローブを当てて、オシロスコープのスクリーンショットを取得することができます。

モーター・ドライバに障害報告ピンがない場合には、オシロスコープを使用してドライバの電源ピンと出力ピンを確認します。障害の種類を特定するために、オシロスコープに表示される動作と、モーター・ドライバのデータシートに記載されている保護機能の動作を比較します。前回の記事で述べたように、電圧と電流の両方を必ず確認してください。一部のドライバは、過電圧保護や開放負荷検出などの追加保護機能を備えている場合があります。ドライバのデータシートに、そのような機能の動作が記述されています。

ベンチ・テストのヒント

以下は、一般的なアドバイスです。ブラシ付きDCモーターやステッパ・モーターをベンチで回転させようとする場合に行うべきことと行ってはいけないことを示しています。

  • モーターが何らかの筐体に取り付けられていないと、モーターを急速に加速または減速させたときに、大きく振動したり「ぎくしゃくした」動きになったりする可能性があります。これはニュートンの第3法則の例で、回転子がある方向に加速していると、固定子では大きさの等しい逆方向の反作用トルクが働いて逆方向に加速されるという現象です。フォーム・パッドか他の柔らかい素材の上にモーターを置いて、硬い面上にあるモーターの振動から生じるノイズを最小限に抑えます。ぎくしゃくした動きをなくすために、モーターを、テープ、クランプ、または万力などで固定します。
  • モーター・シャフトにテープを貼ると(モーター上に他の負荷がない場合)、モーターの回転方向を容易に判断することができます。
  • 長時間の連続使用後にかなり熱くなる可能性のあるハイパワー・モーターを駆動する際には、ヒートシンクのような吸熱材の上にモーターを置くようにしてください。
  • モーター・ドライバの出力がオンになっているときには、ボード・コネクタからのモーターの着脱を行わないでください。それを行うと、火花が出たり、ボードやモーターの両方が破損したりする可能性があります。指を火傷してしまう可能性もあります(筆者の個人的な苦い経験からの提言です)。
  • 電源が投入されていないモーター・ドライバにモーターが接続されている間は、モーター・シャフトを回転させないようにしてください。モーターが発電機のように動作することで高い電流または高い電圧が発生して、モーター・ドライバや電源が破損する可能性があります。

皆さんがシステムのモーター・ドライバをデバッグする際に、以上のヒントが役に立つことを願っています。

著者プロフィール

James Lockridge
Texas Instruments
システムエンジニア

Pablo Armet
Texas Instruments
アプリケーションエンジニア