前回は、弾道ミサイルの発射を探知・追尾によって飛翔経路と着弾地点を予測した後の迎撃のフェーズについて解説した。今回は、その続きとして、PAC-3とTHAADを取り上げよう。

PAC-3とTHAAD

PAC-3は、パトリオット(ペイトリオット)地対空ミサイルの発射器や射撃管制システムに手を入れて、弾道ミサイル迎撃用に新規開発したミサイルを撃てるようにしたものだ。

湾岸戦争(1991年)の時に使われたPAC-2も弾道ミサイル迎撃能力を持たせてあるが、最初からそのつもりで作られたPAC-3とは違うので、本稿では戦力にカウントしない。

発射器を見ればPAC-2とPAC-3の区別は簡単にできる。発射器にはミサイル収納用コンテナが4個載るが、そのコンテナのお尻に4個のふたがついていれば4発入り、すなわちPAC-3。それがなければ1発入り、すなわちPAC-2である。

PAC-3では、コンテナひとつに4発ずつのミサイルを収容する。これを発射器に最大4個(つまりミサイル16発)搭載する

PAC-3は航空自衛隊が運用しており、配備先は以下のようになっている。

  • 第1高射群(中部航空方面隊) : 4個高射隊(習志野、武山、入間、霞ヶ浦)
  • 第2高射群(西部航空方面隊) : 4個高射隊(芦屋、多良台、築城)
  • 第3高射群(北部航空方面隊) : 1個高射隊(千歳)
  • 第4高射群(西部航空方面隊) : 4個高射隊(饗庭野、白山、岐阜)
  • 第5高射群(南西航空方面隊) : 2個高射隊(那覇、知念)
  • 第6高射群(北部航空方面隊) : 1個高射隊(車力)

平時は基地、あるいは分屯基地にいるが、機材一式を車載化しており、必要に応じて機動展開できるようになっている。それが本来の姿で、配備先の基地にそのまま陣取って交戦するとは限らない。

自衛隊で導入する可能性が取り沙汰されたTHAADも終末迎撃用の資産だが、PAC-3より迎撃高度が高く、カバー範囲は広い。これも車載化して機動展開できるようになっているが、PAC-3より大がかりで、お値段も高い。

終末迎撃用の資産はあくまで「最後の砦」であり、カバー範囲が広くないから拠点防衛向けとなる。できれば、イージス艦によるミッドコース迎撃でカタを付けたいところだろう。それに、ミッドコース迎撃なら洋上で行うから、地上にトバッチリが及ぶ可能性は少ない。

なぜ、直撃破壊するのか?

対空ミサイルは炸薬と金属片を入れた弾頭(warhead)を備えていて、それを炸裂させる。すると、飛散した金属片が目標に当たって破壊する仕組みである。直撃できればそのほうがいいが、基本的には目標の近くで弾頭を炸裂させる形である。

対する弾道ミサイル防衛では、弾道ミサイルに迎撃ミサイルをぶつける直撃破壊(Hit to Kill)が基本である。ぶつけるほうが難しそうに思えるが、そうするにはちゃんと理由がある。

弾道ミサイルと、それを迎撃するミサイルは、高速ですれ違う。すると、弾道ミサイルの接近を感知したところで弾頭を起爆させて、金属片を撒き散らしても、うまく破壊できない可能性がある。そこで、弾頭に工夫をして破壊の確率を上げるよりも、直撃させるために工夫をするほうがよいという話になった。

弾道ミサイルは上から降ってくるし、迎撃ミサイルは上に向けて駆け上がる。そこでシンプルに考えれば、飛来する弾道ミサイルが迎撃ミサイルの真正面(前後軸線の延長線上)に居続けるように迎撃ミサイル側の軌道を調整すれば、正面衝突するはずである。

ロッキード・マーティン社のミサイル&ファイア・コントロール部門で事業開発担当副社長を務めるハワード・ブロンバーグ氏は、9月下旬に来日した際のメディア・ラウンドテーブルで「"Hit to Kill" の技術に磨きをかけていく」という趣旨の話をしていた。PAC-3もTHAADも同部門の製品で、いずれも直撃破壊型である。

実のところ、高速で飛来する弾道ミサイルに高速で飛翔する迎撃体をぶつけるので運動エネルギーは膨大であり、迎撃に成功すれば弾道ミサイルは粉砕されてしまう。時々、心配されるような「破片がひらひら墜ちてくる」事態は、考えなくてもよいのではないか。

ただ、弾道ミサイルが着弾すれば爆風や破片の飛散による被害はあり得るし、液体燃料ロケットなら有毒な推進剤がくっついてくる懸念は残る。そういう事態に備えて、安全な体制をとるよう促すためのJアラートである。

たまに勘違いをする人がいるようだが、Jアラートはミサイルが飛んで来そうにない場所まで避難するためのものではない。射程が長いICBMでも十数分の飛翔時間しかないのだから、遠くまで避難するのは無理である。