今回は私のビジネス英語の経験について話をしたい。といっても、ほんとに大したことがないので、お恥ずかしいかぎりであるが。

国内でそれなりの英語の勉強をしてきた私であるが、海外の現場では、自分の英語力が役に立たないことが多く、打ちひしがれて帰国することばかりだ。

これが現地に長期滞在する場合には、3カ月目くらいに英語が聞こえるようになった、などという話も聞く。しかし私の場合は海外経験は短期の出張のみなので、英語がちゃんと聞こえるようになった、などという経験はこれまでなく、リスニングには毎回苦労している。海外に行くたびに、仕事の現場ではリスニングこそ一番重要なスキルだと実感している。

2000年にアメリカで開かれた展示会に技術調査のため出張したときのことだ。あるチュートリアルを聴講した際、資料が何もないパネルディスカッション形式であったため、内容がまったくわからなかった。一番後ろの席で小さくなっていたのだが、司会者が会場の客を指して何か意見を聞き始めた! 私は、学校の教室のできない生徒のようになるべく目を合わせないようにしていた。当てられても聞こえないふりをしていた。情けない話だ。

これでは出張報告が書けない、まずい……と思い、展示会場でデモをしていた説明員に、がんばって英語で質問をした。これは本当に勇気を出して話しかけた。しかし、相手の言っていることがわからず、何回か聞き直したりするうちに、いい加減面倒になった説明員が(おそらく)「おい、こいつをなんとかしてくれよ」と隣の人にへらへら笑いながらグチをこぼした。屈辱的な思い出である。

実際、これがTOEICが800点を超えていた時の私の英語の実践能力(主にリスニング力)なのだ。TOEICを信じられなくなる私の気持ちもわかっていただけるのではないだろうか。

今思うと、このような経験が私の英語学習の動機になっているのかもしれない。というか、これを書いているうちに過去の残念な姿を思い出してきて、リスニングをもっとちゃんとやりたくなってきた。

2、3年後、シリコンバレーの企業に調査に行った。このときは技術的な議論をしたのだが、相手のアメリカ人の話すスピードがおそろしく速い。Please speak more slowly. と、下手に出て話すスピードを下げさせたのだが、1分もすると元のスピードに戻ってしまうのには本当にまいった。向こうの人はゆっくりしゃべることは苦手なのだろうか。

こういうときに、つい自分の英語力を実力以上に見せようとして、早くしゃべってしまうことがあるが、しょせんリスニング力はないのだから、自分からはいつも以上にゆっくり話して、「英語デキマセーン光線」を出すのがよいのだろう。

相手の言うことが聞き取れないときに、Pardon? と聞き返すということが教科書に載っているが、以前、I'm sorry? と逆に聞かれたことがある。これは上品な言い方だと思い、それ以来、個人的にはI'm sorry?を使って聞き返している。

Pardon? やI'm sorry? ばかりを使ってもよくないので、少しでも聞き取れた単語をオウム返しに発声してみるとか、What you are saying is ...? と自分の理解を確認しながら進めるとよいだろう。また、これはまだ使ったことはないが、Could you be more specific? とか、Give me example. とか言ってみると、その場をしのげるかもしれない。いつか使ってみたい言葉だ。

聞き取れないところは毎回聞き直したほうがよいのか、あるいは、ポイントとなるところだけ理解すればよしとすればよいのか、正直まだよくわかっていない。

ひとりひとりの力が弱いときはチームプレイで乗り切ろう。3年前の欧州出張時には、明治時代の外交交渉のようなスタイルをとった。当時の日本の外交団は外国語が話せるにもかかわらず、通訳を使って交渉をしたそうだ。これは通訳する間に考える時間を作るためだったという。これに倣い、我々も上司がまったく英語が話せないという設定にして、上司が日本語で話し、私が通訳をするというスタイルをとったのだ。

このとき相手に長く話をさせてはいけない。誰もついていけなくなるからだ。重要なポイントは上司が相手の話をさえぎって、話の主導権を握ることだ。これにより、日本人チームの皆が話の流れを理解しながら、打ち合わせを進めることができるのだ。私も英語で考えつつ話すという慣れないことをする必要がなく、通訳に徹することができたので、わりと正しく英語が使えたような気がする。このスタイルは皆さんにもおすすめしたい。

このように私の英語の実践能力は、あまり実践をしていないためだと思うが、低いというのが正直なところだ。ここはひとつ、西海岸かニューヨーク辺りに2年ほど長期派遣で滞在したいものである(と、上司にここでアピール)。

海外出張中にも道端の標識などで英語を学んでいる。いずれもイギリスで撮影したもの。左: chippingsとは、道路舗装用の砂利のこと。中: 色別にビンを回収する。clearは"透明な"という意味。右: 鉄道のプラットホームにて。mindは"気をつけろ"。

著者紹介

本多義則 (Yoshinori Honda)

日立製作所勤務のIT系研究者。10年前に趣味と実益を兼ねて英語学習を再開以来、アナログからデジタルまであらゆるツールを駆使して英語学習に励んでいる。職場では「英語ができる男」と見られているが、実はそうでもない真の実力との差を埋めるべく、英語学習をやめられなくなっている。休みの日の朝は英語のメルマガ執筆にいそしむのが習慣。取得した英語関連の資格は、英検1級、TOEIC955(瞬間最大風速)、通訳案内士(英語)。座右の銘は「あきらめない限り必ず伸びる」。著書に『伸ばしたい!英語力―あきらめない限り必ず伸びる