先週末、オバマ米大統領が来日し、アジア政策についての演説に注目が集まった。オバマ大統領の演説といえば人々を感動させる名演説と絶賛されているのはご承知のとおり。英語の教材としても、演説のCDが販売されているので、皆さんの家にも1枚くらいあるかもしれない。英会話学校でもオバマのスピーチを暗唱させるレッスンを行っているというところもあるようだ。しかし、なぜオバマのスピーチは人々に感動を与えるのだろうか。

今回はその答えとなるNLPプレゼンテーションについての話だ。11月14日にデジタルハリウッド大学大学院 秋葉原メインキャンパスにおいて行われた「オバマ・スピーチに学ぶ「戦略的話術」~ビジネスシーンで聞き手を惹き付ける、実践心理学NLPプレゼンテーションの極意~」という公開セミナーに参加したので報告しよう。

オバマ大統領のスピーチの秘密が明かされる!?

講師はデジタルハリウッド大学・大学院 客員教授の二階堂忠春氏と田中千尋氏のお二人。書籍『聞き手を熱狂させる!戦略的話術~オバマに学ぶNLPプレゼンテーション~』(廣済堂出版)の共著者だ。共に、米国NLP協会認定トレーナーだが、二階堂氏は日本ではただ一人というマスタートレーナー・アソシエイトの資格を保有している。つまりトレーナーのトレーナーという権威である。

今回の講師である二階堂忠春氏(右)と田中千尋氏

NLPプレゼンテーションとは、人の心理を利用して、無意識の領域、潜在意識の領域に訴えかけるコミュニケーションのやり方であるという。NLPとは、Neuro(神経)、Linguistic(言語)、Programming(プログラミング)の頭文字であり、「神経言語プログラミング」と呼ばれる。もともと米国の天才的セラピストの手法を体系化したものだそうだ。

オバマ大統領の演説が人々に感動を与えるのは、決してオバマの声がいいからでも、ハンサムだからでも、アイコンタクトが良いからでもなく(そういう要因も一部あるかもしれないが)、演説がNLPの理論にそって巧みに構成されており、聞き手の潜在意識に訴えかける内容になっているから、というのが今回のセミナーの趣旨である。

このNLPの手法は私達も、会議、商談、プレゼン、就活、恋愛などにも使えるものらしい。ぜひ、このようなテクニックはマスターしたいものである。

本セミナーではオバマスピーチを題材にして、NLPの手法がどのように使われているかについて解説された。

NLPとはNeuro(神経)、Linguistic(言語)、Programming(プログラミング)

まず最初に、「聴衆とすばやく信頼関係を築く方法」として「ラポール、ペーシング」というテクニックについての話があった。

まずはラポールについて。ラポールとは相手と信頼関係を築くということであり、コミュニケーションの基礎となる。このラポールの関係がなければ、何を言っても相手には受け入れてもらえない。

ラポールの築き方としてペーシングと呼ばれる手法がある。これは相手とペースを合わせるということである。「自分と類似するものに親和性を覚える」という人間の性質を利用したものだ。たとえば初対面の人どうしでも、出身地が同じだったり、趣味が同じだったりと、何か共通点があると親しみを感じることがあることは皆さんもお気づきのとおりである。そしてペーシングとは、具体的には、声の調子、身体の動き、呼吸、考え方、感情などを相手の様子を見ながら合わせていくというものである。

ラポールはコミュニケーションの基本事項。これがなければ相手に話を聞いててもらえない

ぺーシングは相手のペースにあわせて親しみをもたせること

オバマのスピーチには、スピーチの内容が聴衆にとって、自分自身について話していると思うような表現がちりばめられているという。

2007年のカリフォルニアでの演説では、「集会にはさまざまな聴衆がいました。若者にお年寄り、そして、黒人、白人、ヒスパニック、アジア系、先住民、障害者、同性愛者、異性愛者、ユダヤ人、非ユダヤ人、イスラム教徒、仏教徒、信仰を持たない人もいました」とある。これだけ網羅されていると、誰もが自分自身のことを話していると思い、それ以降のオバマの話を真剣に聞くようになるというわけだ。

そもそも聞き手は、自分自身のことにしか興味はないという。そこで話し手は、これから話すことがいかに聞き手に関係するものであるかを最初に話さなければならない。そのためには、聞き手がどのような人であるか、なぜ集まっているのか、何に興味を持っているか、今どのような感情、状態にあるかをまず把握する必要がある。

よくセミナーの講師が最初に聴衆に質問をして、聴衆のプロフィールを聞いたり、前提知識を聞いたりすることがあるが、それがペーシングなのである。聞き手からすると、自分の状況に合った話をこれからしてくれるはずという期待感が高まり、ちゃんと話を聞こうという気にもなろう。このように、話し手は自分勝手に話すのではなく、聞き手のことを思って、相手に合わせて話すというテクニックが重要なのである。

ぺーシングのテクニック: 聞き手の状況を把握し、自分の伝えたいことと相手の聞きたいことを調整する

誌面の都合上、今回はここまでとし、次回はNLPのテクニックであるストーリーテリングとアンカリングについてセミナーの内容を報告しよう。

著者紹介

本多義則 (Yoshinori Honda)

日立製作所勤務のIT系研究者。10年前に趣味と実益を兼ねて英語学習を再開以来、アナログからデジタルまであらゆるツールを駆使して英語学習に励んでいる。職場では「英語ができる男」と見られているが、実はそうでもない真の実力との差を埋めるべく、英語学習をやめられなくなっている。休みの日の朝は英語のメルマガ執筆にいそしむのが習慣。取得した英語関連の資格は、英検1級、TOEIC955(瞬間最大風速)、通訳案内士(英語)。座右の銘は「あきらめない限り必ず伸びる」。著書に『伸ばしたい!英語力―あきらめない限り必ず伸びる