前回は、TED Talksの紹介と、smart.fmで学べるSir Ken Robinsonの「学校教育と創造性」を試してみてほしいというところで終わったが、実際、試してみた方はいるだろうか?

実際、本稿を機会にsmart.fmを始めた人は少ないのではないか。しかし、何か英語を勉強したいという人は、目の前にある方法をとりあえず試してみるべきだ。英語学習は、ほとんどの人は実際にはやらないのだから、やった者勝ち、なのである。

では、smart.fmのSir Ken Robinson「学校教育と創造性」の話をしよう。

Sir Ken Robinsonという人は、なかなかの早口かつイギリス英語なので非常に聞き取りづらい。このビデオはいかに学校教育が子供の創造性をなくしているかについて語っている。このスピーチを動画で見ると、日本語字幕があるのでついつい内容を理解した気になるが、音声だけだとほとんど理解できなかったのではないか。

TOEICでリスニング満点を取ったことのある私も実は最初はほとんど理解できなかった。このようなときにTOEICの限界を感じる。

私はSir Ken Robinsonのような知的な講演を聞き取れるようになることが、ビジネスパーソンがリスニング力の目標とすべき到達点だと思う。

生の講演では、その場で英語を理解しなければならず、高度なリスニング力が必要になる。そのための学習法としては、やはり本物の講演を聴いてみることだ。学習用に作られた教材ばかりを聞いていても、真のリスニング力は絶対につかない。これは自らの経験から断言できる。

リスニング力といっても、簡単に身につけられるものではない。そのベースは単語力だ。知らない単語は聞き取れるわけがない。だから英語初心者から中級者は単語を覚えることが重要となる。単語を覚えるというと、学生時代の一夜漬けや、単語本の丸暗記という無味乾燥な地道な作業をイメージするだろう。あんなことをまたやるくらいなら、英語なんてできなくてもいいという人は多いと思う。

そこで、smart.fmの出番だ。smart.fmは単語を覚えるという苦行をサポートしてくれる。それもこれまでのツールにはない特徴を持っている。

忘却曲線という言葉を聞いたことがある人は多いだろう。ドイツの心理学者エビングハウスが提唱する記憶の中長期的な忘却を表す曲線のことだ。人は1日後には56%、1週間後には77%、1カ月後には79%を忘却するという。だから暗記には復習が大切ということになっている。

忘却曲線に従うと、1日で覚えたことの半分は翌日には忘れている! 英語学習に反復が欠かせないと言われるのは、一度覚えただけでは忘れてしまうからなのだ

英単語の暗記も、一度覚えた単語を繰り返し覚えなおすという作業が必要であり、皆さんも様々な方法を経験してきたと思う。ひとつの方法として、紙の単語帳で覚えられなかった単語を、5ページ先と20ページ先の余白に書いておくという方法がある。単語帳を進めるにつれて、自然に過去に間違った単語が目に入り、復習ができるというテクニックだが、私も過去に使ったことがある。ほかには、Excelで忘却曲線対応英単語暗記ソフトを作った友人もいた。

smart.fmはそんな忘却曲線理論にのっとって暗記をサポートしてくれる頼もしいツールなのだ。それもWEBのサービスなのでインストールも不要だし、どんどん機能が拡張されており、さらには無料である。これは使わなくては損だ。

smart.fmでは、Sir Ken Robinsonのスピーチから103個の表現が暗記の対象として設定されており、iKnowアプリケーションで暗記をしていく。

実際に私が試したところ、out-of-body experience(幽体離脱の経験)という表現があった。これはさすがに自分で使うことはないだろうと思っていた。ところが先週の金曜日、映画『愛を読むひと』の主演女優ケイト・ウィンスレットが、「めざましテレビ」のインタビューの中で、映画に出演しての感想はと聞かれて、"It was an out-of-body experience."と語ったのを聞いたとき、私はびっくりして目が覚めた。まさかこんなにすぐこの表現にお目にかかるとは! それより、この表現が実際に使われているとは!! 生の英語から学ぶメリットを感じる瞬間だ。

映画への出演の感想がなぜ幽体離脱の経験なのかはよくわからないが、少なくともout-of-body experienceという表現を知らなければ、聞き取れていなかったと思うし、このようなときに英語をやっていて楽しいと感じる。

二度と耳にしないだろう…と思いつつも入力しておいた"out-of-body experience"が、ケイト・ウィンスレットの口から出たときの感動! 英語マニア冥利に尽きます!!

誌面も尽きてきたようなので今回はここまでとする。まだやってない人もぜひ一度、Sir Ken Robinsonのスピーチで暗記を試してみてほしい。smart.fmの話は次回も続く。

著者紹介

本多義則 (Yoshinori Honda)

日立製作所勤務のIT系研究者。10年前に趣味と実益を兼ねて英語学習を再開以来、アナログからデジタルまであらゆるツールを駆使して英語学習に励んでいる。職場では「英語ができる男」と見られているが、実はそうでもない真の実力との差を埋めるべく、英語学習をやめられなくなっている。休みの日の朝は英語のメルマガ執筆にいそしむのが習慣。取得した英語関連の資格は、英検1級、TOEIC955(瞬間最大風速)、通訳案内士(英語)。座右の銘は「あきらめない限り必ず伸びる」。著書に『伸ばしたい!英語力―あきらめない限り必ず伸びる