先週、社内の他事業部との打ち合わせがあったときのことである。私は部下のA君の付き添いで出席した。こちらの提案についての議論をひと通り終えたころ、先方のB氏が、米国人ケビン(仮名)をこの場に呼んで意見を聞こうと言い出した。

え? それは聞いてないんですが…。ケビンの存在は知っていたが、今日はケビンは参加しないことを事前に確認したので英語の資料を用意していないし、英語のしゃべりも準備してないんですけどー(心の声)。

そんなこちらの心の声などおかまいなしに、B氏の部下のC氏がケビンに電話をしている。このC氏、実に超流ちょうな英語を話している。絶対に海外経験があるに違いない……と、海外経験者に理由のない敵意を示す私。そう、TOEICスコアだけが誇りの英語オタクは英語が流ちょうな人の前ではヨワイのである。なにやら暗雲が立ち込めてきたヨカン……

ほどなくケビン登場。B氏が私のことを「彼は英語の学習方法の本を書いているくらいの英語のスペシャリストだ」などと英語で紹介してくれるし。たしかに、たしかにそれは合っているが、実践経験に乏しいただの英語オタクなんですけどー(心の声さらに大きく)。これでハードルが世界新を狙うエレーナ・イシンバエワの棒高飛びのように、大きく上がってしまった。

だが、しかし! 今日は付き添いだし、担当者のA君も最近英語を勉強していて自信を持っているようだし、彼にトライしてもらおう……とひとり逃げるつもりで「じゃA君、説明よろしく」と振ったら、

え!? 無理です!!(あなた、英語得意なんでしょ! ここで上司らしくお願いしますよっっ!!)」

……ま、当然だわな。しょうがない、上司の私がこの場を乗り切らなければ。もし失敗すれば「英語がうまい本多さん」という体面がガラガラと崩れ去ってしまう。絶体絶命とはこのことだろう。

私は常々、英語は突然必要になるから、その時のために備えようという意識でいた。そして今、まさに英語が必要な状態にあり、その備えはできていない。皮肉なことよ。

事前にこうなることがわかっていたら、十分に時間をかけて、英語のプレゼンも原稿も書いて、余裕で会議に臨むことができたのだが。自分の先読み力の足りなさを嘆きながら、今まで英語で考えたこともない内容の日本語の資料を英語で説明しはじめた。

This is a system for あーたらこーたら……

……まあ、出てこない、出てこない、英語が。ひどいものだ。それでも言いたいことの3割ぐらいは言えた気はするが、スピーキング的にいうと絶対不合格(何の試験?)。それでも日本人の下手な英語には慣れているのか、大まかなところは伝わったらしく、ケビンからの質問が始まった。

そこからはディスカッションが始まった。以前、このコラムでも書いたI'm sorry?What you are saying is …? を1回ずつ使い、何とか発言しつつも、Could you be more specific?Give me example.は相変わらず使う機会がなかった。合いの手がまったく進歩していない。リスニング的にはケビンの発言の半分がぼんやりとしている感じですかね。

いちおう、次回へのステップも決まり打ち合わせは終了。後で、部下のA君が「本多さんがいなかったら、えらいことになってました」と言ってくれたのが何よりの勲章だ(とほほ…)。「英語を勉強するモチベーションになっただろう」とA君に言ったら、「逆に下がりましたよ」とA君。そんなことを言わずにがんばるのだー。

私自身の反省としては、ここ1カ月、TOEICの「技術」に浮かれていたことを恥じている。「技術」なんて英語の打ち合わせには何の役にも立たない! また、何のために英語を勉強しているのか、その目的を再認識せざるを得ない。もともと、英語が好きで始めたのだが、こうして仕事の場でたまに英語を使って、話せない自分がいると、こっち方面(ビジネスミーティング対策)もやっておかないとなーと思う。

そんなわけで記憶を頼りに自宅の本棚を探してみたら、やはりあった(←英語オタクは手当たり次第、英語本を購入するので、何をいつ買ったかをあまり覚えていない。ときどきの本棚チェックはマスト。同じ本を2冊買うこともままある)。

ざっと読んでみると、第6章「ミーティングでの言葉の壁の乗り越え方」の中の「英語がわからなくなったら、すぐわからないと言う」という部分が役に立ちそうだ。

本書によれば、英語のネイティブスピーカーは早口で、テーマがどんどん飛んで行くので、たいていの日本人は自分が悪い(たとえば自分の英語力が足りなかった)として、何も言わないそうだ。まさにそのとおりだ。とくにアメリカ人は話し始めると止まらない性質を持っているらしい。

これへの対処法は、会話の流れを中断してでも質問することだそうだ。英語についていけないのはあなただけではなく、他の日本人も同様の可能性が高い。あなたがボランティア精神で切り出すのだ。英語力がないという印象を避けることのできる表現はこれ。

Can you please go over that last point again? (先程のポイントをもう一度カバーしていただけませんか)

まずはこの表現をマスターすべく、機会があるごとに実践で何度も使ってみたい。

著者紹介

本多義則 (Yoshinori Honda)

日立製作所勤務のIT系研究者。10年前に趣味と実益を兼ねて英語学習を再開以来、アナログからデジタルまであらゆるツールを駆使して英語学習に励んでいる。職場では「英語ができる男」と見られているが、実はそうでもない真の実力との差を埋めるべく、英語学習をやめられなくなっている。休みの日の朝は英語のメルマガ執筆にいそしむのが習慣。取得した英語関連の資格は、英検1級、TOEIC955(瞬間最大風速)、通訳案内士(英語)。座右の銘は「あきらめない限り必ず伸びる」。著書に『伸ばしたい!英語力―あきらめない限り必ず伸びる