今回の選書

読書の技法 誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門(佐藤優) 東洋経済新報社

読書の技法 誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門(佐藤優) 東洋経済新報社

選書サマリー

正確で深い情報を入手するためには、書籍をどう読むかが鍵だ。その読書の技法を考える上で大原則となるのが「熟読できる本は限られている」ということだ。

読書に慣れている人でも、300ページ程度の専門書なら1カ月に3~4冊しか熟読できないはずだ。筆者が毎月目を通す300冊のうち、熟読するのは4~5冊。500冊を超える場合でも6~7冊だ。

熟読する本以外は、速読、超速読のいずれかで処理する。1冊5分程度で処理する「超速読」が240~250冊、30分から2~3時間かけて取り組む「普通の速読」が50~60冊だ。

もっとも、速読する場合も、その本に書かれている内容についての基礎知識がなければ、そもそも読書にならず、指で本のページをめくっているにすぎない。そういう指の運動は、速読ではない。

読書の要諦は、基礎知識をいかに身につけるかだ。その基礎知識は熟読でしか身につかない。しかし、熟読できる本は限られている。だから、本の精査として速読が必要なのだ。

本屋には、速読術の本が並んでいる。だが、これらを読んでも速読術は身につかない。なぜなら、速読術とは熟読術の裏返しだからだ。熟読術を身につけずに、速読術を体得することはできないのだ。

本には「簡単に読み流せる本」「そこそこ時間がかかる本」「ものすごく時間がかかる本」の3種類がある。

エロ小説なら約1時間、わかりやすい新書なら2時間で読める。これを簡単に読み流せる本」と定義する。

「そこそこ時間がかかる本」とは、標準的な教養書だ。普通のビジネスパーソンが毎日2時間読んで、1週間程度かかる本だ。

「ものすごく時間がかかる本」とは、語学や数学の教科書だ。筆者の場合、読み終えるのに1年半かかった本がある。

標準的なビジネスパーソンの場合、新規語学の勉強に取り組む必要がなく「ものすごく時間がかかる本」がないという条件下で、熟読できる本の数は、新書を含め1カ月に6~10冊程度だ。

つまり、最大、月に10冊読んでも、1年間で120冊だ。だからこそ、熟読する本をいかに絞り込むかが大事なのだ。本当に読むべき本を選び出すために必要なのが速読術なのだ。

速読の第一の目的は、読まなくていい本をはじき出すことだ。一般論として、難解な本には2通りある。第一は、概念が錯綜し、定義がいい加減で、論理構成も崩れている本だ。

古典的名著とされている本の中にも、このようなトンデモ本がたくさんある。こういう本にはかかわり合うだけ時間の無駄なので、早く扉を閉ざすことだ。

第二は、議論が積み重ね方式になっていて、覚えなくてはならない約束事や、押さえておかなくてはならない事実関係が多く、読むのに時間がかかる本だ。

語学や数学の教科書、外交文書などがこれにあたる。この種の本は、手続きを踏んで読めば、知識と教養が必ず身につく。

熟読する本を選ぶ際、いちばん簡単で確実な方法は、その分野に詳しい人に聞くことだ。たとえば学者や、企業や官庁の実務家だ。

周囲に専門家がいないなら、書店の活用をお勧めする。東京の八重洲ブックセンター本店などの専門書売り場の書店員は、取扱商品に関する知識なら、月並みな大学教授を凌駕することもある。

雑誌や新聞の連載から、説得力があると思う論者を見つけ出すのも手だ。優れた学者や評論家は、必ず自分の言説の根拠となる出典を明示する。また、お勧めの入門書や関連図書も紹介するはずだ。

このように、未知の分野で本を選ぶには「水先案内人」が必要だ。誰かに手引きしてもらうことで、入り口でつまずく確率を大幅に減 らすことができるはずだ。

選書コメント

久しぶりに、読書の本です。タイトルから、速読などの読書術を連想するかも知れませんが、本書はそれにとどまらず、社会人に、書籍を用いた勉強の仕方を詳しく教えてくれる、むしろ勉強法です。

少し前、速読がブームとなりました。しかし、最近は鳴りを潜めています。理由は、速く読めても、内容が速く理解できるわけではないことに、みんなが気付いたからでしょう。

その点、本書は「技術としての読書法」にとどまらず、いかに読み、いかに知識として定着させ、いかに日常に活用していくのかを教えてくれます。

本書は、三部構成になっています。前半が「読み方や学び方」、中盤が「読むべき本」を分野別に、最後に「読む場所や時間」など、勉強の環境について解説してくれます。

なお、本書の読書法が対象にしているのは、教科書や学習参考書など、本格的な本です。ビジネス書でも、ハードカバーで400ページを超えるような経済書や経営書などです。

ただし、著者は漫画や小説を否定しているわけではありません。本書でも、動機付けや娯楽を目的に読むべきとして、紹介しています。

何かをはじめる際、真っ先に本を読むという人は少なくないと思います。私もその一人です。本は、すべての始まり、入口なのです。

ところが、その入り口の、本を読むことで挫折してしまい、新しい分野に挑戦すること自体を諦めてしまう人も少なくありません。これは、もったいないことです。

作法を身につければ、読むだけで終わったり、挫折してしまったりする確率を激減させられます。この際、きちんとした勉強法を身に着けたい人にお勧めします。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

情報提供: ビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー