今回の選書

なぜマッキンゼーの人は年俸1億円でも辞めるのか?(田中裕輔) 東洋経済新報社

なぜマッキンゼーの人は年俸1億円でも辞めるのか?(田中裕輔) 東洋経済新報社

選書サマリー

私は、さきごろ株式会社ジェイドの代表取締役に就任した。事業内容は、靴を中心に、バッグやアパレルも取り扱うファッション通販サイト「ロコンド」の運営だ。

中学生の頃からの夢が「一流企業に就職すること」だった。大学生のときには、勉強にも、部活にも、アルバイトにも打ち込まない、無気力な、ダメ大学生だった。

当時「日本をよくするのは、政治家や社長」と考えていた。そんな典型的な無責任人間が、なぜベンチャー企業を共同創業するに至ったのか。

それは「マッキンゼー」が価値観や考え方を根本から叩きなおしてくれたからだ。8年間、マッキンゼーに所属したが、そこでは先輩・同期・後輩から、頭の使い方だけでなく多くの価値観を学んだ。

どうすればこの日本を、そしてこの世界を良くできるのか、それを愚直に考えて、行動し、貢献できる人材を教育し、輩出する会社、それがマッキンゼーだ。

「寄らば大樹の陰」の思考を捨てること、そして自らリーダーシップを発揮して、日本や世界にインパクト、すなわち変革を与えること、これこそがマッキンゼーで学んだ価値だ。

マッキンゼーの出身者は、各界で活躍している。たとえば、今や変革の代名詞と言える「大阪維新の会」このプロジェクトには、多くのマッキンゼー出身者が携わっている。

もちろん、政界だけではない。むしろ「経営」の世界で活躍する出身者は数えきれない。面識がある人だけでも、南場智子ディー・エヌ・エー創業者を筆頭に、たくさんの出身者が活躍している。

マッキンゼーに入社するのは、年に新卒で10~20名、中途入社を入れても30人程度だ。にもかかわらず、多くの「志士」が生まれているのはなぜか。理由は三つある。

1つ目は「自信」だ。マッキンゼーで何年か働くと「会社に頼らず、志に向けて戦う」自信が芽生えるのだ。

マッキンゼーで働き続けることは楽ではない。毎晩、真夜中、時には朝まで働いていた。有給休暇はプロジェクトの復習期間に充て、朝から晩まで仕事のことを考えていた。

これは、働かされているのではない。プロの義務を果たし、自分の成長に真正面から向き合っているのだ。このような厳しい環境で働くから、他の会社の同世代に比べ、圧倒的スピードで成長できる。

第2の理由は「価値観のマインド・コントロール」だ。マッキンゼーのコンサルタントは、会社の売上や利益を気にする必要がないし、そもそも売上や利益が幾らなのか、知らされていない。

彼らが気にすべきことは、プロジェクトの中で「自分がどれだけ価値を生み出し、インパクトを生み出せるか」だけだ。価値やインパクトを出せる人は偉いし、出せない人はクビ。非常にシンプルだ。

第3の理由は、マッキンゼーの懐の大きさだ。たとえば採用面接で「数年後にはNPOで働いて、NPOの世界でインパクトを創り上げたい」と学生が言ったとする。

普通の会社なら「愛社精神が無い」という理由で落とされるかも知れないが、マッキンゼーでは全く問題視されない。むしろ、その「志」と論拠が明確なら、称賛される。

また、重要な人材は、マッキンゼーを辞めても、会社のパーティーには幾度となく呼ばれる。出戻りも許される。だから「会社にしがみつく」人間は少ない。外で思い切りチャレンジできるのだ。

今の日本人に欠けているのは、知識ではない。英語は不得意かもしれないが、大した問題ではない。論理的思考能力は弱いかもしれないが、それもアメリカ人が群を抜いているわけでもない。

今の日本人に欠けているのは、自分の人生に責任をもち「志」を向けて突き進むことだ。その一歩を踏み出せる人間が何人出てくるかで、これからの日本の姿は大きく変わってくるはずだ。

選書コメント

マッキンゼーで育ち、起業家に転身した著者による、マッキンゼーの解説本です。ロジカルシンキングなどの手法の類でなく、おもに社風や文化、価値観などを、実体験を交えながら教えてくれます。

マッキンゼーといえば、すごい人材を多数輩出する会社として知られています。大前研一さん、南場智子さん、勝間和代さんなど、数え上げればきりがありません。

そんな志の高い人材を量産し、自社で抱え込むのでなく、社会に送り出せる会社とは、一体どんな会社なのか、その秘密が、本書を読んで明らかになりました。

本書を読んで、マッキンゼーが、会社の文化として、志の高い人材を猛スピードで育てていることが良くわかりました。起業家を量産してきた、かつてのリクルートのようなものかもしれません。

たとえば、売上・利益目標は社員に知せず「クライアントにバリューとインパクトを与える」「最高の人間に成長する」という、ミッション・ステートメントだけが共有されるそうです。

また、懐の深さを感じます。普通の会社は、辞める人間には冷たいものですが、マッキンゼーは、インパクトを出すためなら「辞めても称賛される」し「出戻りもアリ」とのことです。

なお、マッキンゼーが人材育成に熱心なのは「提供できるものが「人」しかないから」ということです。本来、多くの会社がそうあるべきです。参考にすべき点が大いにあります。

外資系、コンサルティング・ファームということで、憧れと反感のないまぜの感情を持つ方がいるかもしれません。そういう人こそ、読めばマッキンゼーがスゴイ会社ということがわかるはずです。

特に、コンサルタント志望者や、起業志望の人を中心に、若いビジネスパーソンには、ぜひ読んでもらいたいと思います。きっと勇気づけられ、ヒントがもらえると思います。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

情報提供: ビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー