今回の選書
あなたが上司から求められているシンプルな50のこと(濱田秀彦) 実務教育出版
選書サマリー
「上司が自分に何を期待しているか」正確に把握できているだろうか?実は、97%以上の部下が、上司の期待を正しく把握できていないという。
これは、部下に3つのデメリットをもたらしている。具体的には、「人事考課」「上司・部下の関係悪化」、そして「仕事のやりにくさ」だ。
上司と部下の意識ギャップが広がってしまうのは、上司が部下に、「自分が何を期待しているのか」をきちんと伝えていないからだ。つまり、原因は上司の側にあるのだ。
しかし、上司の期待がわからないままで、損をするのは部下だ。部下が努力して上司の期待を知るしかないのだ。
上司が部下に期待していることは、大きく4つある。「職場のコミュニケーション」「ひとりのビジネス人としての言動」「仕事の進め方」「意識の向上や能力開発」だ。
はじめに「職場のコミュニケーション」だ。「報連相」を求める上司がますます増えている。理由は、管理職が部下の状況を把握しにくくなっているからだ。
理由は、携帯とメールの普及だ。以前なら、部下の電話を聞いていれば、顧客との関係や、案件の進行、社内のやりとりの状況はおおよそつかめたものだ。
ところが、今では部下は黙々とパソコンに向かって仕事をしている。電話も携帯に直接入るから、誰と話しているのかわからない。ある管理職は、これらを「マネジメントの敵」とまで言っている。
それで、上司は一層「報連相」を求める。ところが、部下は「報連相」などと言われると、新人扱いされているようで気分が悪い。また「そこに手間をかけても、見返りが少ない」と感じている。
報連相を求める上司と乗り気でない部下、両者の意識ギャップが広がると、仕事と人間関係に悪影響を及ぼす。報連相は、軽視すると意外に大きなマイナス材料になりかねない問題なのだ。
「報連相は、上司に対する義務」という考えは改め「上司に影響を与えるツール」と考えるのだ。報告は、上司に対するプレゼンだ。簡潔にさりげなく、自分の仕事の成果をアピールするのだ。
相談は、上司を動かすために行う。「ご相談なのですが」と言いながら、上司を巻き込み、上司を使うのだ。このように、報連相は、上司のためでなく、自分のために行うのだ。
報連相に関する上司の定型業務の中で、最も重要なのが、管理者が集まる報告系の会議だ。会議では、上司は経営陣から相当厳しい追及を受けている。それに備えて、上司は事前に報告の準備をする。
上司がネタ集めをするのは、会議の3日前ぐらいからだ。あまり早いと情報の鮮度が落ちるからだ。だから、部下は会議の3日前に報告する。そうすれば、上司に催促される前に報告できる。
上司が、最も欲しい情報は「事実」だ。しかし、事実だけを報告して指示を持つと、今度は「提案がない」「指示待ち」と言われる。上司の本音は「"事実"と"意見"は交ぜるな」だ。
そこで、報告の前半を「相手に状況を把握させる"過去事実"と"途中経過"のフェイズ」にあて、後半を「次の一手を提案する"未来向け"のフェイズ」にあてる。
過去事実を伝える際に、重要なのが"数字"と"セリフ"だ。「事実を言ってほしい」と言われているのに、数字が足りなかったり、生のセリフが、抽象的な表現に置き換えられていることがよくある。
さらに「先方の思い違いだと思われます」などという言い方をしてしまうことがある。これは、事実と主観の境界線があいまいな表現だ。やめるべきだ。
過去事実がうまく伝われば、上司は「で?」と訊いてくる。これが、「未来向けフェイズに進め」というサインだ。自分の意見は、この段階ではじめて言えばいいのだ。
選書コメント
企業における部下の心得を説く本です。部下が知っておくべきことが、シンプルな50の鉄則としてまとめられています。
著者は、研修講師として、様々な会社の上司と部下も見てきた方です。社外の人間として関わっているだけに、本音もたくさん聞いているかも知れません。そのあたりも生かされて、書かれています。
特に、上司と部下の両者の立場を踏まえて、橋渡しになるように書かれています。また、気になったところから読める構成ですので、気楽に読みはじめることができます。
本書であげる50は、いずれも部下には伝わっていない、上司の本音ばかりです。著者いわく、上司の期待を理解している部下は、全体の3%ということです。
部下なら「なぜ、上司は言ってくれないのか」と思うようです。しかし、上司は察してほしいです。本当のことは、言いにくいものですし、上司には部下がたくさんいますので、時間もないのです。
それで、少しずつすれ違いが起きてしまいます。やがて、埋めようのない溝になります。これは、両者にとって不幸です。そして、実害をこうむるのは部下のほうです。ぜひ読んでおいてください。
本書は、上司の期待だけでなく、具体的な対処法も教えてくれます。たとえば、報告のように日常的に、当たり前にやっていることについても、そのタイミングや方法、自説の加え方などを教えます。
ビジネス書の良し悪しは、仕事に活かせるかどうかで決まります。その点、本書にあることは、報連相から仕事の進め方、能力開発など、日常的なことばかりです。明日にでも活かせるはずです。
組織で働く人は、社長を除き、誰もが、誰かの部下のはずです。本書は、部下稼業を扱った本では出色です。組織で働くすべてのビジネスパーソンにお読みいただきたいと思います。
選者紹介
藤井孝一
経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役
1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。
情報提供: ビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー」