今回の選書

モチベーションで仕事はできない(坂口孝則) ベストセラーズ

モチベーションで仕事はできない(坂口孝則) ベストセラーズ

選書サマリー

「何をやってもモチベーションがあがらない」そんなふうに思ったことはないだろうか。たしかに、モチベーションを自由自在に上げることができれば、多くの人の悩みは解決するだろう。

だが、実際は不可能だ。たいていの人は、モチベーションを高めても、すぐに戻ってしまうものだ。そして、やる気が出ない時は、ネットで時間を潰したり、仕事以外に逃避したりしている。

「モチベーションがなければいけない」という教えは私たちを縛り付け、強迫観念すら抱かせている。だが、仕事で成果を上げる上で、モチベーションは、そんなに大事だろうか。

モチベーションは、仕事に不可欠なものではない。むしろ、モチベーションが上がらない状態を肯定するべきだ。そして、それでも成果を上げる方法を考えるべきだ。

プロフェッショナルとは、時々100点をとれることではない。いつも安定した品質をお約束できることだ。自分のモチベーションを理由にしていたら、安定継続的にお役に立つことなどできないはずだ。

やる気やモチベーションがなくても仕事をこなせるようになれば、いくつかの効果がある。まず、たくさん仕事ができるようになる。多少効率的な同僚がいても、仕事量を超えることができるはずだ。

また、会社での成績が上がる。評価が高いのは、結局たくさんの仕事がこなせる人だ。天才は10の仕事で10の成功を導けるだろうが、凡人は、分母を増やして確率をあげるしかない。

さらに、周囲に好影響を与えることができる。その日の調子やモチベーションの有無で仕事をサボったり、中断したりする人より、常に仕事をこなせる上司や先輩のほうが、周囲に好影響を与える。

夢や目標があっても、モチベーションが維持できずに、達成できない人が多い。しかし、どんな時もコツコツ仕事をこなすことができれば、その夢や目標は、実現の可能性は高くなる。

夢や目標に挑戦し続けることも、目の前の仕事をこなすことも、結局、自分自身を思い通りにコントロールすることができるかどうかで決まるのだ。

モチベーションは、以前から問題だったわけではない。あるときから「上手くいかないのは、モチベーションが低いせいだ」というようになったのだ。

経済環境が落ち込み、企業の業績も落ち込んだ。しかし、社内のノルマが軽減されたわけではない。それを合理的に説明するには、内面のやる気に目を向けるしかなかったのだ。

世の中の「成功法則」のほとんどが、具体的な仕事のやり方について改善策を上げる代わりに、心の持ちようを強調している。「目標さえ持てば、仕事の改善策は自ずと見つかる」と逃げている。

むしろ「モチベーションをもてない自分」を肯定できるくらい強くなるべきだ。モチベーションが持てないことを前提に「それでも仕事をせねばならない」と開き直る強さを持つべきだ。

「仕事で自己実現すること」をことさら強調する人がいる。「仕事選びに、やりたいかどうかを基準にせよ」という人がいる。彼らは、一人の人間は永続的に同じ感情を抱き続けると仮定しているようだ。

だが「自己実現したい像」も「やりたい仕事も」も数年ごとに変わるのが普通だ。仕事に対する希望など思い込みだ。成功してから、「これこそ、成し遂げたかった夢だったんだ」と思い込むのだ。

現時点で描いた自己実現像や夢など、スピード社会に生きる私たちにとっては、すぐに過去のことになってしまう。だから、自己実現や夢に拘泥するべきではない。また、失敗にめげる必要もない。

必要なのは、逆の「自分なくし」だ。自分を規定しても意味がない。淡々と仕事をこなせばいいのだ。ある種の楽観を抱き「今」に集中することだ。

より柔軟になって、今に集中したほうが、長期的によい結果が出るものなのだ。

選書コメント

モチベーションありきの仕事や生き方に疑問を呈し、やる気がなくても、仕事を継続し、安定的に成果を上げる具体的な手法を、わかりやすく紹介してくれます。

「成果を上げなければならない。でも、やる気が出ない」そんな局面は誰にでもあるはずです。実際、やる気さえあれば、仕事のパフォーマンスは格段に上がります。

だから、モチベーションアップの技術がもてはやされています。本書は、そんな風潮に疑問を呈し、むしろ、やる気とは無関係に成果を上げる技術を紹介してくれます。

著者、坂口孝則さんの本は、いつも構成に工夫が凝らされています。たとえば、本書では、二人の対照的な人物を登場させ、そのエピソードから、内容をイメージさせやすくしてくれています。

しかも、紹介の仕方が秀逸です。一世を風靡した渡辺和博さんの、『金塊巻』を思わせるイラストと、ストーリーでの紹介です。私のようなバブル世代には懐かしい限りです。

他にも、私のようなビジネス書フリークは、ニヤリとさせられるプロットが散りばめられています。膨大な書籍を読んできた著者だからこそ、できる技だと思います。

後半は、お役立ちスキルが色々紹介されます。呼吸法や表情作り、ショートカットキーまで役立つものばかりです。これらが、新書サイズに詰まっているのですから、大半お得な本と言えます。

「やる気が出ない」と悩む人はもちろん、これから仕事を始める人や、新しい仕事に就いたばかりの人も、キャリアの築き方を間違えないために、一読されることをお勧めします。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

情報提供: ビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー