今回の選書
10年後に食える仕事、食えない仕事(渡邉正裕) 東洋経済新報社
選書サマリー
グローバル化が進んでいる。これからは、英語を操り、世界に通用する人材にならなければ生き残れない─そんな言説がまことしやかにはびこっている。
確かに、グローバル化で減る仕事、賃金が下がり続ける仕事、なくなる仕事もある。だが、日本人にしかできない仕事は残る。大切なことは、先を見据えて仕事を選び、能力を高めることだ。
もちろん、世界を相手に、厳しい競争社会で勝ち続け、ナンバーワンを目指すのもいいだろう。だが、日本人全員が世界を相手に強烈な競争を繰り広げる必要はないし、誰にでもできることではない。
実は、日本人としてこの国に生まれ育ったこと、それ自体がスキルや武器になる分野もたくさんあるのだ。それを活かせる分野で能力アップに励むことが賢い道だ。
ここ数年、ユニクロやパナソニック、ソニー、イオン、ドン・キホーテなどの有名企業が、海外展開の強化をめざし、新卒採用の多くを外国人にしつつある。
日本は、少子高齢化で、人口が縮小に転じ、若者に比べて消費をしない老齢人口が増えつつある。現役世代が主要ターゲットの家電メーカーや小売業は、国内向けビジネスでは伸びる余地がない。
かといって、中高年社員に、突然「海外で働け」と言っても適応できるはずもない。となると、新卒から「海外仕様」へと人材をモデルチェンジしていく人事施策は合理的だ。
IT化の進展に伴い、IT分野の仕事を丸ごと海外に委託する「オフショアリング」や「グローバル・アウトソーシング」などの動きも進行している。
製造だけでなく、IT関連の分野も開発プロセスの一部や、データの保守管理サービスを、海外に委託することが珍しくなくなった。
その結果、これまで日本国内のプログラマーやアプリケーション開発者が下請け的に担っていた仕事が、相見積りをとられ、中国やインドにある現地の会社と競合するようになった。
日本語のコールセンター業務も、中国の大連市がアウトソーシングの一大拠点に育っている。地場企業だけでなく、日本IBMなどのグローバル企業も、請負センタービジネスを開始している。
新卒採用では、外国人を増やし、日本人を取らない流れになり、ソフト開発やコールセンターなどの業務は海外移転が進めば、サービス業従事者の雇用は減る一方だ。
では、既存の社員はどうか。新興アジア企業との競争が激しい分野では、高い人件費負担に耐えられなくなり、合併&再編ののちに、希望退職を募るなど、リストラで生き残りを図る例が増えている。
たとえば、半導体技術者たちはIT化からグローバル化の波にのまれ、苦しんでいる。パイオニアは4年で3000人強が退職、三洋電機の半導体部門は米国企業に売却され、多くの国内社員が削減された。
このようにグローバル化に飲まれる人がいる一方で、それとは無縁の人たちがいる。現状では、教師、消防、警察などの公務員やJRなど主要な鉄道系の正社員などだ。
また、東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランドのようなサービス業の分野で、圧倒的ブランドを築いている企業の正社員は「IT化も、グローバル化もどんと来い」という感じだ。
さらに、無縁どころか、むしろグローバル化の恩恵を受け、活躍の場が広がって、高い給与を貰っている人もいる。現時点では、世界的な資源バブルの恩恵でボロ儲けしている商社マンだ。
また、世界的に市場が拡大する期待感から、国内の賃金相場がバブル気味に跳ね上がっている業界もある。たとえばスマートフォン向けのゲーム開発者などだ。
このように、グローバル化と言っても、一様ではないのだ。それを理解した上で、個々人がどこで職を得て生きていくのかしっかり考えて選択することが大切なのだ。
選書コメント
これからの仕事選びの本です。グローバル化が進む時代にあって、むやみに国際化に合わせるのでなく、日本人ならでは優位性を生かし、有利に仕事に就く「戦略的キャリア形成」を推奨します。
はじめに、今、産業界で起きているグローバル化の実態を解説、その上で、日本人が10年間の生き残りのために何をすべきかを指南し、十年後の雇用を概観して締めくくります。
日本人であることがメリットとして生かせるのはどんな仕事か、中でも、差別化することで付加価値を高めることができる仕事とは、どんなものか、四つのタイプにわけて示します。
グローバル化の進展が大きな関心事になっています。これを受けて漠然とした不安を抱える人がいる一方で、英語を取得し、留学を考えるなど、努力をする人も増えています。
しかし、それは危険な努力であると著者は言います。グローバル人材になって海外に漕ぎ出すことは、レッドオーシャンへの船出に他ならないからです。
冷静に見渡せば、日本人であることを活かしつつ、グローバル化を追い風にできる仕事さえあります。少なくとも、嵐は避け、快適な航路を取ることができます。本書は、その指針になります。
興味深いのは、同じような仕事でも、ちょっとした違いで、グローバル化の波を受けたり、受けなかったり、追い風にさえできたりするということです。仕事の進め方やスキルアップの参考になります。
就職、転職など、現在、仕事を選別中という人は、絶対に読むべきです。さらに、語学、留学などのスキルアップにいそしみながらも、中々成果が得られず、疲労困憊気味の方にもお勧めです。
選者紹介
藤井孝一
経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役
1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。
この記事は藤井孝一氏が運営するビジネス書を読みこなすビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー」」の過去記事を抜粋し、適宜加筆・修正を行って転載しています。